元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「手紙」

2006-11-27 06:48:12 | 映画の感想(た行)

 強盗殺人で服役中の兄と、犯罪者の身内として辛酸を嘗める生活を強いられる弟の物語。

 まず、殺人事件とはいえ最初から殺意はなく、たぶん十分反省しているはずの兄が無期懲役という重い刑罰を食らっているのは疑問だ。おそらくは逮捕される前に一悶着あったか、法廷で予想外の事態が起こったのだろうが、そのへんを最後まで省いているのは納得できない。なぜなら、兄が本当に弟が思っているような優しい男であるのかどうか、それを明かさないと二人のやりとりに必然性が感じられなくなる(東野圭吾による原作は未読なので、小説ではどのように処理されているかは不明)。

 とはいえ、この設定を除けばドラマとしての出来は悪くない。主題としては杉浦直樹扮する家電量販店の会長が弟に向かって言うセリフがすべてだ。誰だって犯罪者およびそれに関係する人物に対して距離を置きたい。それは自衛本能なのだ。いくら“差別はいけない!”と言っても無駄。犯罪者の家族が差別されるのは当たり前のことなのだ。だからその状況を受け入れて懸命に生きるしかないのだ。この作者のスタンスには100%同意する。

 我々は社会秩序がないと生きていけない以上、それを乱す者は差別されても仕方がない。その冷徹な真実を前にして“人権”の御旗を振り回しても、偽善にしかならない。

 監督の生野慈朗がテレビ界出身であるせいか、やたら作品のテーマや登場人物の心情をセリフで表現したり、説明過多なフラッシュバックを多用したりと、鼻白む演出が散見されるが、正攻法でソツのないドラマ運びは好感が持てる。兄役の玉山鉄二と弟を演じる山田孝之は実に良い仕事をしており、泣かせのシーンも不自然さがない。脇を固める吹越満や風間杜夫も手堅い。

 だが、ヒロイン役の沢尻エリカは出番が多いわりには実に印象が薄い(もう一人のヒロイン役の吹石一恵の方がよっぽどスクリーン映えする)。存在感も“華”もなく、単にルックスだけで映画に出させてもらっていると思われても仕方がない。一皮むけるような役柄に巡り会わない限り、逸材揃いのこの世代の女優の中にあっては置いて行かれるのではないかと、いらぬ心配をしてしまった(^^;)。
コメント (8)
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