元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「わかれ路」

2006-11-22 06:40:02 | 映画の感想(わ行)
 (原題:Intersection)94年作品。近作「氷の微笑2」でも怪演を見せる(観てないけど ^^;)シャロン・ストーンが珍しく貞淑な人妻を演じる。このミスマッチ感覚が興味深いが、監督が「黄昏」(81年)「フォー・ザ・ボーイズ」(91年)などのマーク・ライデルだから決してキワ物ではない。リチャード・ギア扮する建築家とその妻、そしてギアがのめり込む愛人(ロリータ・ダヴィドヴィッチ)をめぐる三角関係を描くドラマ。クロード・ソーテ監督によるフランス映画「すぎ去りし日の・・・」(70年、私は観ていない)の再映画化である。

 映画はいきなり主人公ギアの交通事故の場面から始まる。その後、そこに到るまでの彼の行動やドラマ背景を示す短いシークェンスを、断片的につなげていく手法を取っている。説明過多で大仰な展開が観る者をシラけさせる昨今のアメリカ映画において、これがけっこう効果的なのだ。おかげで一時とも目を離せない。

 貞淑だが、感情を押し殺してすべてに抜かりがなく家庭を仕切りまくる妻と、ちょっとヌケてはいるが、感情を素直に出してくる可愛い愛人。男だったらどちらを取りたがるかは一目瞭然だが、ぼーっとした善人面の優柔不断男ギアはなかなか踏ん切りがつかない(まー、娘もいるし、実際問題としては踏ん切りがつかない方が普通だろう)。考えてみればS・ストーンの人妻役というのもぴったりで、あまり表情を出さず、セリフも抑揚がなく、でも時にはキレてしまうこのキャラクターは、肉体派だけど大根のストーンに向いている。対して感情の揺れが大きい愛人には演技派のダヴィドヴィッチが適役だ。

 面白いのは、主人公が最後の決断を下すきっかけとなったのが、悩んで憔悴しきった彼にパンを与えた赤毛の少女だということだ。合理的判断もどこへやら。単なる偶然で決心してしまう、でも人生ってのはそういうものかもしれない。無理に必然性を絞り出す多くのアメリカ映画とは違うアプローチで、さすが元ネタがフランス映画だけのことはある。

 そして、ウィットの効いた皮肉な結末は絶対アメリカ映画では無理。脚本の見事さと優しさと残酷が入り交じった2人のヒロインの心理描写がモノを言う。

 主人公の心象風景である幻想的なショットも嫌味がなく、そして何より舞台をカナダという非アメリカ的風土に持ってきた功績が大きい。透明で清涼な映像は、ヨーロッパ映画のスピリットを感じさせる。観て損はない。
コメント
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