元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「狼少女」

2006-11-13 07:42:23 | 映画の感想(あ行)

 しんぐうシネマサミット2006出品作品。1970年代中頃の茨城県の田舎町を舞台に、縁日にやってきた見せ物小屋やキレイな転校生に心惑わされる小学校4年生の主人公を描く。

 舞台設定に難があると思ったのは私だけだろうか。いくら片田舎とはいえ、あの時代に子供だましの見せ物小屋が堂々と営業していられるのは不自然だ。さらに小屋の目玉である“狼少女”の(本当の)生い立ちを聞くと、一体いつの時代の話なのかと思ってしまう。

 少なくとも60年代半ばの設定にすべきではなかったか。しかし、そうなるとセット等に多額の予算が必要で、マイナー映画の手に負える範囲ではない。そうかと言って見せ物小屋のエピソード抜きには映画が成立しないわけで、これは悩ましいところだ。

 だが、舞台設定を除けばこれはなかなかの佳篇だと思う。子供なりの哀歓が、徹底的に子供の視点で描かれ、観る者は甘酸っぱい感傷に浸れる。友人達や親とのちょっとした関係性が、子供の人格を作り上げてゆくプロセスを、冷静かつ温かい視線で追う作者のスタンスが快い。シークエンスの積み上げ方も堅実で作劇の乱れがなく、各キャラクターの造型も的確だ。

 特に主人公の母親の趣味が編み物で、彼はその相手をすることが多く、それが夜中に家を飛び出した彼を父親が探し出す際の重要な小道具になるあたりのプロットは見事だ。もちろん主人公に別れが訪れるラストの盛り上げ方は申し分ない。

 主役の3人を演じる子役(鈴木達也、大野真緒、増田怜奈)は実に達者だし、大塚寧々や利重剛、田口トモロヲ、手塚理美といった脇を固める大人達も好演だ。美しい映像もポイントが高い。

 監督はこれが長編映画デビューとなる深川栄洋。上映後のトークで、昨今の子供を巡る冷え冷えとした事件の頻発に対するメッセージをこめたというような意味のことを言っており、なかなか見所のある作家のようである。今後の活躍に期待したい。
コメント
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