気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

シュプール  松尾祥子 

2012-07-26 00:20:58 | つれづれ
つむじよりこの世に生れてつむじより老いてゆくらし 帽子をかむる

三文判日々頑張つて働けどつひに実印を越えることなし

古本を束ねんとしてこぼれたる葉書にヴォルガ川は流るる

小雨ふるうそうそどきのさみしさはほーほーほーと啼く青葉木莵

夜の卓に老賢人のごとくゐてふーむふーむとうなづく急須

油揚(あぶらげ)に酢飯をつめてああけふは狐にならむ菜の花月夜

あまたなるシュプールのなかただひとつ君のシュプールを選び従きゆく

咲くといふ未来のありて一輪の薔薇のつぼみのくれなゐ締まる

一月の空はめこんで朝陽射す二階の窓の枠をはづして

はるやはる八十一の母の言ふ「じんせいで今がいちばんしあわせ」

(松尾祥子 シュプール 柊書房)

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「コスモス」「桟橋」所属の松尾祥子氏の第三歌集『シュプール』を読む。
この歌集の歌の詠まれた時期に、だんなさまが札幌へ単身赴任される。集題となった七首目は、赴任先で一緒にスキーをしたときの歌だろう。
単身赴任して絆を深める夫婦もあれば、お互いに一人暮らしの気楽さに慣れてしまう夫婦もある。松尾さん宅は前者。羨んでもどうなるものでもないし、短歌に詠まれていることが真実とは限らない。(こういうのをごまめの歯ぎしりと言う)
歌集全体に流れるユーモア、作者の人柄の良さが読んでいて心地よい。余裕が感じられる。これは家事も仕事も子育ても、親孝行もちゃんとされているから、その結果であろうと想像する。
四首目の「うそうそどき」。こういう言葉を探してくるのが手柄。
益々のご健詠を!

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