気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

鬼と踊る 三田三郎 左右社

2021-09-12 18:59:56 | つれづれ
生活を組み立てたいが手元にはおがくずみたいなパーツしかない

ありがとうございますとは言いづらくその分すいませんを2回言う

幸も不幸も他人に見せるものでなくツイッターには床の画像を

君たちはまだ知らないか背負い投げされたときだけ見える景色を

ゴミ箱がないんじゃなくてこの部屋がゴミ箱なんです どこでもどうぞ

剥がれ落ちたセロハンテープのふりをして生活が手にくっついてくる

十円玉と間違えられた五円玉の穴を思って泣く夜もある

行儀よく座る男の膝の上に拳という鈍器が置いてある

床屋から逃げた鏡は取り調べに「海を映してみたかった」などと

こめかみに前世で自殺したときの古傷がある 笑うと痛む

(三田三郎 鬼と踊る 左右社)

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三田三郎の第二歌集。短歌人関西歌会で数年前にお会いした気はする。おとなしい人だったと思うが、よく思い出せない。平凡そうな名前はペンネームなのだろう。ひと言でいうと「へたれ」の歌。今の世の中、強い自分を押し出すよりダメな私を演じた方が、人にも好かれ、楽に生きていくことができるのではないか。歌集はその実践かと思う。困難なことははぐらかす。実はさみしいんだろうな。逆に作者の生きづらさが浮かび上がる。ときおり歌に真実が見えるのが魅力だ。

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