こういう偶然があるから旅は楽しい。奈良市内を歩いていると、目についたのが県立美術館の特別展のポスター。東大寺を描いているのだが、デザインや色合いに魅かれる。よし、実物を見にいこうということで、事前の予定にはなかった県立美術館を訪問した。
名前も初めて聞いたヨルク・シュマイサー(1942-2012)なる人は、ドイツに生まれ、日本に学び、オーストラリアを拠点に制作を行った版画家である。日本との縁も深く、京都に留学していたという。
今回のテーマは彼自身のテーマであった「変化」に設定し、作品が展示されている。同じ版を使って女性の若き頃のポートレートから老婆となるまでの変化を追った作品群など、興味深い。
また彼が旅したニューヨーク、アンコールワット、奈良、中国、中東といった国・地域・都市の版画も興味深かった。ユニークなデザイン、繊細な描写、優しい色遣いなど、どれも版画ならではの魅力にあふれている。版画を通じて、これらの町を自分も旅している気持ちになる。
時間の制約から駆け足鑑賞になってしまったのが何とも惜しまれたが、逆を言うと何とも充実した新しい出会いの1時間弱だった。