三菱一号館美術館の館長さんが美術館・美術展の裏事情をエッセイ風に書きおろした一冊。展覧会の企画、開催に向けた作品集め、絵の運搬、展覧会の収支、学芸員の仕事、中国資本の影響、美術館でのお仕事、世界の美術館のサバイバル戦略、画商とオークションなどなど、広く浅くこの業界のトピックスについて紹介してくれて、メインタイトル通り「舞台裏」をのぞき見する感覚で楽しめた。
個人的には、西洋絵画と日本画のデリケートさの違い、絵の盗難事件、最近の新しい美術展の試みなどが、特に興味を引いた。
一方で、幅広く話題を提供してくれているが故に、一つ一つのトピックに対する掘り下げは浅く、「もっと、知りたい」との欲求不満は残る。業界の人であるだけに、書いていいことと書けないところの境界を意識しながら書いているのも透けて見えるので、少々じれったい。
特に自分の仕事柄か、美術展の収支なんかはもっと記述が欲しい。全体像を含めてどのくらいのビジネス規模で、収入や支出の構造や、収益分岐点はどのくらいなんだろうかなど、とっても気になってしまい、「おあずけ」を食らった感が強かった。まあ、企業秘密というのもわかるけどね。
一部深みにおいて物足りなさは残るものの、通勤電車の中で手軽に読めるし、足を運んでいる美術展をより立体的に理解することができるので、美術展好きにはお勧め。
《目次》
第1章 美術館のルーツを探ってみると…
第2章 美術館の仕事、あれやこれや大変です!
第3章 はたして展覧会づくりの裏側は?
第4章 美術作品を守るため、細心の注意を払います
第5章 美術作品はつねにリスクにさらされている?
第6章 どうなる?未来の美術館