今年の数多い展覧会の中でも最も楽しみにしてきたのがこの「クリムト展」である。クリムトの絵をまとめてみる機会はウィーンにでも行かない限りなかなかない。本展では「日本では過去最多となるクリムトの油彩画25点以上」が展示されている。
空いているはずの金曜日の夜間開館を狙って行ったが、さすが人気画家である。夜間とは思えないほどの人の多さだった。絵に目の前で一枚一枚立ち止まって鑑賞するというわけにはいかないが、少し離れれば最前列で行列をなして進む鑑賞者のペースに巻き込まれずに自分のペースで観ることできたので、良い方なのかもしれない。
館内に入って比較的直ぐに「へレーネ・クリムトの肖像」の少女に目を奪われる。白のバックに白のドレスをまとった横顔の少女は可愛らしく、描かれた金髪がフェルメールの描いた絨毯のようにソフトで本物の髪の毛のように浮き上がって、生きているかのようだ。絵の前を通る女性鑑賞者の多くが「可愛い~」とつぶやいて通っていく。私は思もわず、立ち止まりその少女に暫し見惚れてしまった。
今回の目玉の一つ「ユディト」。これは以前ウィーンに行ったときに見たので10年ぶりのぐらいの再会だ。この作品、ポスターとかで世に出回るときは、部分のみが切り取られていることが多く、絵の右下端にホロフェルネスの首が半分ぶら下がっているのが分からない。久しぶりに見るユディットはやはり官能性と怪奇性がミックスされた異次元の絵だった。
グスタフ・クリムト《ユディトⅠ》1901年 ウィーン、ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館
今回の収穫は、「女の三世代」とレプリカではあるが「ベートーヴェン・フリーズ」が観れたこと。「女の三世代」は、奈良で先日観たばかりの版画家ヨルク・シュマイサーが、同じ版を使って女性の一生を何枚もの版画で追ったのと同じテーマ。人生のはかなさを感じさせる。
また、「ベートーヴェン・フリーズ」は目測、縦10メートルちょっと、横5メートルぐらいのコの字型の白い壁に、ベートーヴェンの第九交響曲をテーマに描かれた壁画。室内には第九の第四楽章の「歓喜の歌」部分が静かに流れ、芸術による人類の救済が音楽と絵で表現されていた。絵のユニークさもさることながら、厳粛な気持ちにさせる空間が好みだった。(これもウィーンで観てるはずなのだけど、全然記憶にない)
《ベートーヴェン・フリーズ》のベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館の展示模様 (インターネットから拝借)
やっぱりクリムトの絵はいい。確かな画力(まあ私が言う話ではないが)に加えて、斬新なデザイン、奇抜な表現、大胆な色遣いが強烈に人を引き付ける。これほど強い磁力を感じる画家はそうはいないだろう。
日中帯は既に相当混み合っているようだが、この機会は逃すことのないよう、強くお勧めしたい。
2019年6月7日訪問