テキサスのルーツミュージックの香り漂う骨太なシンガーソングライター『ヘイズ・カール』。
まだ33歳でこのジャンルでは若手と言っても良いと思う。
僕は彼をメジャー移籍作となった前作『Trouble in Mind』で初めて知りました。教えてくれたのは『キノコズ』や『Midnight Special』のベースプレイヤーMヨシさん。
一聴して、その奇をてらわない硬派な佇まい、ヨレ気味ながら男臭い歌声に好感を持ったのですが、聴きこんでゆくと曲もいい。すっかりファンになってしまい新作を心待ちにしていました。
そして登場したのが本作『KMAG YOYO』。前作と違ってジャケットがむさ苦しい。これが前作。
絶対こっちの方がえいよねやぁ。
なによりこの微妙~なセーターがなんとも…。髪が顔にかかっていないだけでも大分印象は違っただろうに、と思う。ビルの屋上、脱ぎ捨てられた靴。生気のない表情。そしてアメリカ。意味深なジャケットです。
音はいきなりシンガーソングライターに相応しくないパンキーというかパブロックマナーというか、とにかくロッキンサウンド!でスタートします。一瞬面食らいましたが歌声はラウドさに安易に寄り添うことなく、ヨレつつも強靭ですぐにヘイズ・カールの世界を感じる事ができました。前作のカントリーサウンドをベースにしたルーツミュージックからルーツロックサウンドへ踏み出した本作ですが、不思議にそのロックサウンドをうるさく感じません。歌い手の個の力が強いのでしょう。ますます本人の輪郭が明確に感じられるようになった気さえします。
楽曲も含め全体のトーンは少し暗め、ジャケットからも想像されたように現代アメリカ社会の暗部を切り取り繋ぎ合わせるような楽曲が序盤から続きます。タイトルのKMAGは軍隊内の隠語でKiss My Ass Guys, You're On Your Own の略だとのこと。そのタイトル曲では空軍出身の父を持ち自身は陸軍兵としてアフガンでタリバン掃討作戦に従事する男が登場。ヘイズは生気なく屋上に立ち尽くすジャケットとは裏腹にマッチョまではいかないもののしっかりと立ち続け骨のある声で歌いかけてきます。説得力はなかなかのものです。
ウォーレン・ジヴォンを好きな人ならかなり好感を持つのではないでしょうか?
これって僕的にはかなりの褒め言葉です。
購入してから約ひと月、聴き込むほどに良くなってきました。ルーツロック好き、シンガソングライター好きどちらの方にも強くお勧めいたします。ライヴが観たいですね。