バイユー ゲイト 不定期日刊『南風』

ブルース、ソウルにニューオーリンズ!ソウルフルな音楽溢れる東京武蔵野の音楽呑み屋バイユーゲイトにまつわる日々のつれづれを

夏紀行

2006-08-17 | テレビ番組
昨日の深夜、TVをつけたらおじいさんが川で釣りをしていた。
鮎が好きらしい。川はキラキラしている。眩しさにあっという間に画面に吸い込まれてしまった。
小石を器用に使って鮎を開くと、川で洗って内側に梅干しを潰したものを塗り、握り飯の上にかぶせて旨そうに食らう。釣り師の昼食とのこと。見ていると、やはり鮎の表皮は相当固そうでブチッと食いちぎってる。…ワイルドやなぁ。と思った。
しかしそれだけではなかった!おじいさんは大きな岩の上で釣りながら、お腹がすくと釣り上げた鮎を仕掛けから外し、そのまま頭から口に入れて食べている!!小ぶりとはいえちゃんとしたカタチの鮎を丸のまま食べている。勿論醤油なんてものはつけません。その姿はまさに自然界の動物同士で道具を使う知恵のある方の動物が、身体の大きな動物が、獲物を狩る姿。軟弱な自分なぞとは生物としてのランクが違う気がした。ああ、おそらくあの世界でこそ味わえる鮎の風味、旨さがあるんだろうな。見ているととうてい真似はできない、と思うのだけれども、川の香りが立ちのぼってくるのを想像してしまったりもする。
おじいさんは16軒しか家のない集落に奥さんと2人で暮らしていた。80過ぎの老夫婦の自給自足暮らしだ。米も野菜も自宅前で作っている。その他は…やっぱり鮎か?
奥さんが毎日畑仕事。肘から手の先くらいまでの長さがある緑の濃ゆいきゅうりを手で収穫。太陽をめいっぱい吸収した色とツヤ、張り具合だ。あまりにも美味しそう。おじいさんは、また鮎。今度は内蔵は取っているようだが削ぎ切りにして刺身にしている。さっき見たのも刺身ではあるが…。夫婦での実に楽しそうな晩酌。ビールから一升瓶の手酌へ。銘柄は『月桂冠』。次々と飲んでいく。実に楽しそう。驚きはこのおじいさん「みねじ なおいち」さんは86歳とのこと!この酒量も凄いが鮎を生で噛みちぎる歯も凄い。奥さんが冷蔵庫の冷凍室を開けるとそこには冷凍保存された鮎がギッシリ。その数、100匹以上。雨で釣りに行けない日は黙々と細かい仕掛けを作る。視力はいったい幾つなのか??…とにかく鮎に夢中なのだ。奥さんは川魚が苦手で鮎は塩焼きしか食べない。だけど冷凍庫には鮎が満載だ。土用の丑の日には鮎の姿寿司を作る習慣があるとのこと。夫婦で沢山作って、ご近所に配る。奥さんは「なおいちさん」から「かーさん」と呼ばれている。夏の日差しを受けたふたりの歩く姿が強い日差しで眩しい。
子どものころからの釣り仲間は近辺で唯一の商店を営んでいる。お盆前に近隣の集落を含め80軒にプロパンガスを配達してまわる。プロパンガスボンベを片手で肩に担いで山道を登る80ウン歳…。
お盆前の忙しさが終わるとふたりで鮎釣り。遠くどこまでも、徹底的に透明な川。画面の奥の奥まで透き通っている。子どもの頃、川でいつも遊んでいたのを思い出す。美しい「四万十川」から、美しくなくとも追憶の「ならし川」「室津川」「鏡川」まで。鮎がかかったら、子どものように大騒ぎの80も半ばを過ぎたふたり。ウナギにヌマエビの滝昇り、深く濃い緑、てっぺんからふりそそぐ日差し。
この夏一番の大きな鮎を釣り上げた「なおいちさん」は上機嫌で「かーさん」の待つ家へ帰ると、今年一番の収穫を塩焼きにした。そしてまた日本酒をぐびぐび。ご夫妻の子どもたちは独立して家を出ているとのことだが(当然か!)、大都会とまではいかなくてもここよりは「お町」で暮らしているであろう、子どもや孫たちは多分こんなに豊かな生活はしていないだろう。本当に夢に出て来そうそうな光景の連続。あっという間に番組は終わってしまった。途中から観たのが悔やまれるが、この時間自体が再放送枠。残念だけどしょうがない。最後に『にっぽん夏紀行』、~川と鮎とかーさんと~。というタイトルが画面に出て少し笑ってしまう。終了間際にやっとわかった。和歌山県古座川。
いい夜でした。
都会の夏だって、いってしまったら次は1年先。たっぷりと暑さや空気を味わおう、と思って今日を迎えております。