『 idea アイデア 』 ( 333 2009.3 )

2014-05-27 | 日記

先日、ブログに書いたエミール・ルーダーの特集号で、その本文である。右ページのタイポグラフはTM誌1964年8、9月の合併号に掲載されたものを紹介したものである。TM誌は1952年、スイスで発行されたスイス・タイポグラフィ専門誌である。ルーダーのタイポグラフィ・デザインはこのTM誌で誕生し、世界のグラフィック・デザイン界に多大な影響を与えたのである。そしてルーダーは創刊なったばかりのTM誌1952年2号に岡倉天心の著、『 茶の本 』 を引用した 「 一服の茶、タイポグラフィ、歴史主義、シンメトリーとアシンメトリーについて 」 というエッセーを寄稿したのだった。その一部を引用してみる。

「 現代の人道の天空は、富と権力を得んと争う莫大な努力によって全く粉砕せられている。世は利己、俗悪の闇に迷っている。知識は心にやましいことをして得られ、仁は実利のために行われている。東西両洋は、立ち騒ぐ海に投げ入れられた二竜のごとく、人生の宝玉を得ようとすれどそのかいもない。この大荒涼を繕うために再び女禍を必要とする。われわれは大権化の出現を待つ。まあ、茶でも一口すすろうではないか。明るい午後の日は竹林にはえ、泉水はうれしげな音をたてて、松籟はわが茶釜に聞こえている。はかないことを夢に見て、美しい取りとめのないことをあれやこれやと考えようではないか。 」 1906年、岡倉覚三の 『 茶の本 』 が出版された。これは彼が日本人として、東洋の文化の深遠と精緻を西洋に紹介するものである。この小さな細身の本を読み進むにつれて、わたしたち自身の問題のいかに多くが共通の基盤に拠っているかが伝わってきて、驚かされる。  ( 以下略 )

文字の青色の部分は、茶を勧める理由を記述して有名な箇所であるが、僭越にも、天心とうまいお茶を飲んでるような文章である。ルーダー自身も感激した部分だったのだ。