十数年前に海岸でめぐり合った椅子。何処の海岸だったか、沼津港が近かったかそんな海岸だったように思う。だいぶ風化が進んだがこれがけっこう丈夫である。以前にもこのブログで紹介したような気がするが、今日の日は特に風が吹いていたけど、外に出しっぱなしでも、これがお尻の期待には応えてくれるのである。暑くない昼下がりには、この椅子に座ってボーッとする。まだ蚊やなんかの夏の虫が出ていないので、座って本なんか読んでいれば、これがまた母に皮肉を言われるのがオチである。どんな本かと言えば … 。
「 更年期を迎えた女性はいかに性と向き合えばよいのか。自身も同世代の著者が、「 女であり続けること 」 の難しさと、「 女でいたい 」 という欲望のはざまで揺れる女性たちに寄り添い、その胸の奥を描き出す。高齢化社会の新たな問いに切り込んで、『 婦人公論 』 連載中から話題を呼んだベストセラー・ノンフィクション 」 という紹介文の本は、工藤美代子が書いた 『 快楽 』 ( けらく、と読む ) という本である。これに副題があって、 「 更年期からの性を生きる 」 とある。工藤美代子と言えばノンフィクション・ノベルでは著名な作家で、西脇順三郎についての評伝 『 寂しい声 』 というのも書かれている。
思い切って女性たちの胸中を赤裸々に綴る作業を通して、これまでとかく封印されてきた、更年期の性の問題を深く掘り下げたいというのが、私の本書を書き始めた理由だった。
性に関する話はなかなか人には話せないもので、しかし、誰でも避けて通れないテーマでもあるし、極端に言ってしまえば、性は、人として生きている限りついてまわる正面突破のテーマなんだろう。平均寿命が延びて、男性も女性も “ 更年期 ” 以降の人生の方がむしろ精神的には長いのではないだろうか。女がいて男がいて、人を愛すること、人生を如何により良く生きるか、これは永遠のテーマである。風化した椅子は 「 快楽 」 を漂流する。