今年は感染症の多大な影響で、音楽家たちも渡航が不可能になり、出演者やプログラムのキャンセル、変更が相次いでいる。音楽業界、ことクラシック音楽では世界で活躍している音楽家たちも少なくないから、今回のような世界規模の感染症発生は、致命的打撃を受けてしまう。もちろん音楽業界のみならず、全てと言っても過言ではないくらいの影響が今後も続くのだろう。アントンKの周りの、ほんの身近な知り合いからも厳しい状況が伝わり、自分と照らし合わせて気持ちの上でも暗くなりがちなのだ。
アントンKにとって、音楽の存在は自分が生きている証のごとく、身体の中に染みついている。中でも一番長く付き合っているクラシック音楽に、今までどれほど救われてきたか!時に癒され、または勇気づけられ、ここまで生きて来られた感覚になる。そこには、多くの芸術家たちの顔ぶれが存在し、音楽そのものの力以上に、その音楽を通じて彼らの音楽に向かう姿勢や生き様に感動し、身を振い立たされる機会が多かった。特に今年のような苦境において、それでも前に進もうとする演奏家たちの努力はいかばかりだろう。コロナ真っ只中の時期、テレワークで我々に音楽を届けて下さった新日本フィルのメンバーが演奏した「パプリカ」は未だに忘れられないし、復活宣言とともに、いち早くその想いを伝えて下さったソロ・コンマスの崔文洙氏の本拠地トリフォニーでの200人コンサートは、一生涯の宝となった。
ある意味今年2020年は、忘れられない年になりそうだが、演奏者やプログラム変更で発見した新たな感動も多々あった。今回鑑賞した秋山和慶氏もそうで、変更続きの中、逆に接する機会が増え、親近感が湧いた指揮者なのである。真面目で教科書的な演奏をするイメージだった秋山氏だが、はやマエストロも今年79歳を迎えるそうで、アントンKが過去にいくつか鑑賞した演奏とは、かなり境地が変化していることに気づかされた。より緻密に構成されていることはすぐに理解できたが、細かなニュアンスが加味されて、かつて感じなかった即興性も加わっているように感じる。今回のオール・シューマンプログラムで聴かせた色づけ、特にコンチェルトの絹のような美しい円やかな音色の絨毯。そして「ライン」での豊満な美音とハーモニーは、今の秋山氏の円熟振りを物語っているのではないか。指揮者界では、巨匠の階段を上りつつある秋山氏だが、今後も益々我々ファンの期待に応えるべく、活躍することを願わずにはいられない。
新日本フィルハーモニー交響楽団 定期演奏会「トパーズ」
シューマン 劇音楽「マンフレッド」序曲
ピアノ協奏曲 イ短調 OP54
交響曲第3番 変ホ長調 OP97 「ライン」
ソロ・アンコール
子供の情景より トロイ・メライ
指揮 秋山 和慶
ピアノ 上原 彩子
コンマス 崔 文洙
2020年10月30日 すみだトリフォニーホール