先週に続いてカーチュンの演奏会に行ってきた。
このカーチュン・ウォンという若手指揮者に興味を持ったのは、昨年のブルックナーの第9交響曲の演奏会からだったが、マーラー国際指揮者コンクールに優勝した実績のあるカーチュンだから、やはりマーラー演奏を実演で聴きたくなるのは当たり前の話だ。唯一発売されているマーラーの第5交響曲は、直ぐに手に入れ聴き込んできたが、11月に兵庫で第6を演奏するというので、関西まで行ってきたのは、すでにここで報告済である。そして今回は、マーラーの中でも最も聴きたい楽曲である第2交響曲だ。「復活」とタイトルが付いているが、90分近く演奏時間を有し、巨大なオーケストラに歌手や混声合唱団が加わる大仕掛けであり、聴きどころ満載な楽曲なのである。
学生時代からマーラーは聴き込んできているが、特に第2,第3、第8あたりは、実演奏に限ると思えるほど内容が濃いい。確かに録音で譜面を見ながら何十回と聴き込んでも、生演奏から感じる音楽の情報量は比べ物にはならないのだ。そんなマーラーの交響曲だが、今回の演奏は、満を持して挑んでいるかのようなカーチュンの指揮ぶりに最後まで圧倒されてしまった。
今まで鑑賞したメインのプログラムはほぼ暗譜で指揮していたカーチュン・ウォンであるが、今回のマーラーにおいても当然のことながら譜面台はおいていなかった。彼の大振り明解な指揮ぶりは、この日もいつもより増してオケを引き付けていたが、全体的にはアコーギクが大きく、それも要所で決まるので聴いていて気分が良い。音の幅、バランスも見事なもので、1階4列の座席でも明確に響きが聴き取れ、やはりこの指揮者かなりの耳を持っていると思わせたのだ。「復活」を語るに当たっては外せない、第5楽章の合唱が加わって以降の部分だが、クライマックスに向かう過程での流れの美しさ、そしてオルガンが加わった頂点での音楽的バランスと響きの世界。この部分で、合唱と管弦楽、オルガンの響きがここまで一体化した演奏は、聴いたことがなかったかもしれない。オルガン奏者の両脇にTpとHrnのバンダを置いて吹かせていたが、音圧は感じるものの、決して煩くならないのであった。この日の演奏は、何とNHKの地上波で後日放送予定があるとのこと。TVだから細かなポイントまで感じ取れないだろうが、興味があれば一度ご視聴頂きたい。
マーラーの第2番「復活」は、なかなか実演ではやらない大曲であり、アントンKの過去を振り返っても、実演での鑑賞となると限られてしまうが、今回のカーチュン・ウォンの演奏は、滅多に聴けない感動的な演奏だったと言えるのではないか、と思っている。しかし昔鑑賞した時とは違い、聴き終わってから心地よい疲労感も覚えたことに、時の流れを痛感したのである。
日本フィルハーモニー交響楽団 第768回 東京定期演奏会
マーラー 交響曲第2番 ハ短調 「復活」
指揮 カーチュン・ウォン
Sp 吉田 珠代
Msp 清水 華澄
合唱 東京音楽大学
コンマス 田野倉 雅秋
2025年3月7日 東京 サントリーホール