アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

最近のミスターSの演奏(スクロヴァチャフスキ)

2015-09-05 15:00:00 | 音楽/芸術

夏休み前に購入したCDの中から、今回はスクロヴァチャフスキのブルックナーの第4について少し触れてみる。

日本へたびたび来日しては、素晴らしい演奏を聴かせてくれているミスターSこと、スクロヴァチャフスキ。最近は少しご無沙汰なので心配していたところ、プライベート盤ではあるが、2種のCDがリリースされた。どちらもブルックナーで第4と第5の交響曲だ。今となっては、このスクロヴァチャフスキのブルックナーに目が離せなくなっている。少なくとも、今やブルックナーの生演奏でここまで感動できる指揮者はいないと思っている。今まで、ヴァントをはじめ、朝比奈、チェリビダッケ、マタチッチなど、いわゆるブルックナー指揮者と認知されている指揮での実演に触れて、それぞれの感動は今思い出しても、鳥肌が立つような思いを思い出せるが、このスクロヴァチャフスキのブルックナー演奏もまた今まで感動した場面を思い起こすことができる。当然のことながら、それぞれの指揮者によりかなり解釈が違い、好みの問題から一括りにはできないが、このスクロヴァチャフスキの演奏は、一言で言えば「面白い」のだ。楽曲のテンポこそ比較的速めな演奏が多い中、普段は聴きとれない音や、フレーズが聴こえてきて「ドキッ!」とするのである。これは予期せぬ出来事であり、鑑賞中に突然やってきてしまうから、まるで自分がどこにいるか見失うほどの衝撃を受ける。

ご承知のように、ブルックナーの楽曲は、トゥッティで行き成りフォルテッシモ何て事がよく出てくるが、こんな部分は、各声部がフォルテとはいっても、どうしても木管楽器群、あるいは弦楽器群は金管楽器群に埋もれてしまい、なかなか音が聴き取れない事が多い。スクロヴァチャフスキは、こんな時自己の主張として譜面を解体してしまい、重要なフレーズや、時には管楽器のアタックを強調し全く新しい雰囲気に変えて見せるのだ。人によりこれは作為的で好ましくなく思うことはあるはずだが、むやみやたらにそうするのではなく、指揮者スクロヴァチャフスキの熟慮が読みとれ、何ともアントンKには自然に聴こえてしまうのである。

数年前に読響を振った第9番など、あまりの違いに2日後の同チケットを買い直して出向いたほどだ。概してブルックナーに関して言えば、譜面を解釈してしまうと、音楽のスケールが縮こまり、心を閉ざしてしまうと言われてきた。朝比奈スタイルのような、愚直に譜面を信じ、オケを目いっぱい鳴らした演奏の方がブルックナーにマッチして、かつ多くの感動を呼んだのは、これの証拠と言えるだろう。かのギュンター・ヴァントでさえ、実は色々な解釈を聴かせており、これがまた実に素晴らしい音楽なのだ。

今回の第4について言えば、打楽器の追加部分が多く、これはかつての改悪盤と言われた改訂版の譜面からの引用だと思われるが、このCDを聴く限り、ちょっとやり過ぎてしまった感が否めない。スクロヴァチャフスキのその引用は確かに的を得ていることは認めよう。しかし、今日一般的なノヴァーク版第2稿で普通に演奏しても、彼の演奏なら十分音楽に身を置く事ができると思えてならない。