風雅遁走!(ふうがとんそう)

引っ越し版!フーガは遁走曲と訳される。いったい何処へ逃げると言うのか? また、風雅は詩歌の道のことであるという。

総員玉砕せよ!/水木しげると戦争(1)

2007-08-07 23:56:47 | コラムなこむら返し
 ボクが少年の頃、貸本マンガで水木しげるは他のペンネームも使って戦記もの(戦争マンガ)の第1人者だった。紙芝居制作で培ったその画力は、モノクロのスミ(墨汁)つまり陰影の魅力を十二分に計算し尽くした描写力で群を抜いていた(水木は一時武蔵美に籍を置いていたこともあった)。

 兎月書房での貸本マンガ3作目には、つまり実質的なデビュ-作である『ロケットマン』の次作にもう戦争マンガである『戦場の誓い』(1958年)を描いている。ただ、その作品は荒唐無稽な飛行艇が登場する内容だから、同年に描いた『0号作戦』の方を、水木自身の苛酷な戦場体験が反映されている戦記もの(戦争マンガ)の最初の作品にしてもよいかもしれない。とにもかくも、水木しげるはその圧倒的な画力でもって貸本マンガ作家だった初期に戦艦や、戦闘機をペンで描いた。

 だが、水木の戦争マンガには奇妙な悲哀のようなものが漂っているのである。たとえば、「金剛の車輪打ち」というゼロ戦からの曲芸射撃が得意だったという主人公とひめゆり部隊の一員として、互いに近い場所で戦死する妹との兄妹愛をテーマにした『暁の突入』(同年)などは、ラストシーンで「兄さん」と呼ばう妹の声に気付いた兄金剛が振り返るとともにアメリカ兵に兄妹ともに射殺されるシーンで終わる。互いに手を伸ばしたまま、無惨にも機銃射撃で死んでゆく兄妹。昭和20年6月22日の昼の出来事であった(この作品は実話に基づくと巻頭に書いてある)。