マジョルカピンク

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アッコちゃんの時代

2015-08-27 11:53:42 | 
林真理子女史の作品の中で、抜群に面白いのは実在した人物をモデルにした小説だと思う。
「白蓮れんれん」「ミカドの女」「幕はおりたのだろうか」などなど傑作多し。ただモデルにした人物がご存命だったりかなりな有名人であれば物議を醸し出すこともしばしば。江利チエミさんとその姉をモデルにした「テネシーワルツ」などは非常に面白い小説なのですが江利チエミファンからはとても評判が悪い。昨年高倉健さんが亡くなった折も、結婚生活がミステリアスだったものですから再び注目されることになり賛否両論ありました。
ノンフィクションではなく小説仕立てにする以上、作家の視点が入ったりかなり脚色されるのは悪いことではないと私は思います。ある種の人々の人生の一ページに、魅力を感じ書かずにはいられない作家の衝動。関係者のクレームなどにもめげずこの分野の作品を書き続ける林さんの作家魂には敬意を表したい。

さて「アッコちゃんの時代」です。
バブル期にその名を轟かせた六本木の若き女王様。地上げ王、音楽プロデューサー、IT長者らと浮名を流した美貌の女子大生、アッコちゃんの半生について描いています。
この小説もまた、むちゃくちゃ面白かった。
私は実はこの主人公アッコちゃんという人を全然知らない。林さんよりも下の世代であり尚且つ地方都市に住んでいたのでこのバブル期については正直あまりピンとこないのが本音です。実のところこのバブル期の狂瀾というのは東京に住んでいたある一定の世代の、恩恵を受けた一部の人にしかわからないのだと思う。ただ地方に住んでいたとはいえ、当時の熱気は遠巻きに見ても異常なものがありました。日本人がNYで高層ビルを次々に買収、ゴッホの名画など世界の美術品を高値で買占め、クリスマスは赤プリのスイートに宿泊するカップルが増え、夜な夜なパーティーピープルが踊り狂っていました。高級シャンパンで手を洗うとか、色んな逸話がありましたよね。今から思えばなんでわざわざシャンパンで手なんか洗わなきゃいけないんでしょうか(笑)今の堅実で無駄な支出を嫌うコスパ世代と呼ばれる若い人が聞いたらバカみたいだと思うでしょう。全くおかしな時代でした。
アッコちゃんのモデルになった人も知らないし、飯倉のキャンティとかアライアのセーターとか言われても私なんか「うーん」でありますが、確かにこの小説の中には当時の息吹き、時代の熱さのようなもので溢れています。なるほど、確かにこの頃金に物を言わせてヨーロッパのブランド品を買い漁る日本人の姿は下品だのと揶揄されたり、老舗ブランドの顰蹙を買ったりしたものです。今の中国人観光客みたいですよね。そういう当時の空気をまざまざと感じさせてくれる小説。
あの頃はとにかく景気が良く、やたらテンションが高くエネルギーに満ち溢れていたことは間違いありません。お金があったからエネルギッシュになったのか、エネルギッシュだったところにお金が集まってきたのかよくわかりません。ただあの頃のエネルギーが大きなパワーとなって様々な文化が生まれ、日本人の価値観も大きく変わっていったように思います。
バブルの時代は中身のない虚構の時代のように謳われています。この時代を題材にした作品も少なく、映画の「バブルへGO!」が面白かったぐらいでしょうか。当時の映画だと少しバブルには早いけど「私をスキーに連れてって」などもありますね。当時の浮かれた感じが良く出てる。小説となると記憶に残るようなものはほとんどありません。そういった意味でも貴重な作品だと思います。
売れっ子コピーライターから直木賞作家へ転身し、一時時代の寵児ともてはやされた氏にとってバブル期は自身の絶頂期と重なり忘れ難い時代なのでしょう。業界の中にいてその絢爛たる狂騒を間近に見ていた著者には、アッコちゃんはまさに伝説の存在なんでしょうね。
ところが残念なことにこの主人公アッコちゃんの魅力が若干乏しいのです。
本人にも直接取材しているようですが、確かに若い時は美しく快活で錚々たる男性を虜にする魅力があったのかもしれませんが、どこにでもいるような普通の女性に思え、時代を象徴するような特別な女性であったとは思えません。これは作家の筆力のせいなのでしょうか。枚数が足りなかったのでしょうか。
いやこの上辺だけのあまり中身があるとも思えない女性が一部では伝説的に語り継がれているということじたいが、その時代をまさしく体現していると言えるのかもしれません。
そして初めの方にも書きましたが、東京の六本木だったり麻布だったり、ごく一部のピンポイントのエリアで盛り上がっていたクラスの方々のお話であり、世代的にも地域的にも多くの方には共感を得られないだろうなというのが正直な感想です。
ただ私は懐かしく面白く読みました。遠い地方都市から「Hanako」や「anan」を読みながら東京のカルチャーに憧れ背伸びしていた遠い昔を思い出してノスタルジックな感慨を覚えました。
妙齢の者には懐かしく、でも若い方には理解不能、あるいは腹立たしさを覚えるかもしれない時代のお話。この時代をこんなに上手く描けるのは林さんしかいない。このシリーズをもっとたくさん読みたいと思います。


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