秋は映画の季節。今年に入って全然見たい映画やらないし~と腐っていましたが、9月に入って興味深い作品が次々と上映されます。
最低でも「3度目の殺人」「散歩する侵略者」「ユリゴコロ」は絶対見たい。
で、18日の祝日夕方から時間が空いたもんで、さっそく「3度目の殺人」を見に行って参りました。
久々に見ごたえのある作品でした。大満足。
是枝監督作品ということで注目を集めていますが、多分賛否があるだろうと思います。観客も選ぶだろうと。
しかし、この結末を観客の創造力に委ね丸投げしちゃう感じ。大好き。見てスカっとする映画も感動して泣ける作品も好きですが、この作品のように「こ…これで終わり?真相は?」っていう作品も同じくらい好きなんだよなあ。そしてこの感覚を劇場で体験するのは久しぶりかなと思います。
↓以下激しくネタばれしています未見の方お気を付けください。
謎だらけな事件です。
映画の中で、監督は観客が今回の事件とその前科になった事件についてそのあらましや解決の糸口になりそうな事象を提示してくれてはいます。ですからある程度のところまでは推理が可能。
しかし肝心な箇所はグレーでぼけているので、どんな真相にたどり着いたとしても決め手に欠けると思います。そもそもそういった新犯人探し、謎解きミステリのような楽しみをさせないよう実は監督もその真相は決めないで書いているのかもと思いました。
罪とは、人を罰するとは、生まれてこないほうがいい人間とは。
3度目の殺人とは言わずもがな、自らを死刑になる方向へ持っていくように誘導させた?三隅自身のことでしょうね。裁判員制度だったというこの事件、結局真相や新犯人は二の次になり、粛々と裁判は進み予想された通りの判決が下るこの無力感。まるで見ている観客も三隅の死刑に関わったような後味の悪さが残ります。
作品の中で中国の小話が出てきますね。盲目の人たちが象を触ったら、その触った部位で同じ象でもまるで感想が違っていた。そりゃあ大きい象の鼻だけ触った人と耳だけ、脚だけじゃ全然違う意見になる。今回のテーマもそこなんでしょう。ひとつの事件をみんなで推理し構築させようと躍起になるものの、一人一人見方は異なるしその全貌を誰も把握していない。実際の事件や裁判も、案外そうなのかなと思います。辻褄の合う、誰もが納得のいくストーリーを導き出そうと弁護士にしても検察にしても自分たちの有利なようにすすめようとしますが、その真相は神のみぞ知るといったところ。意外と全く知られていない事実や動機が隠されていて、本来の真実と表向きの判決とは全く違っているのかも。私自身、普段事件の裁判などに於いて、犯人の生い立ちや動機やらで情状酌量の余地があったりするというのも中々興味深いなあと思っております。人を殺したのは同じなのに、理由があれば罪が軽くなるというのもどうなのかと。殺人は殺人なのにね。
というわけで、この作品、見終わった後も良い意味で非常にモヤモヤします。で、やはりこの作品を見た別な人と、語りたくなりますね。私はこう思うけど、あなたはどう?と。
私自身、数々の疑問があり今もまだ考え中です。
カナリアとか十字には特別な意味がありますかねえ。あと咲江がかなりファムファタール的というか謎に包まれていると同時に作品的にも色々背負わせ過ぎのような。足が悪い設定は目撃情報を得やすいから?生まれつきとか、幼い頃屋根から飛んだとか…嘘をつく子という情報じたい本当かな。あと食品偽装の話とか近親相姦の話とか、三隅が人の心を読めるような設定はちょっと唐突に感じましたね…。だからこそ、急な展開に重盛同様観客もこの三隅や事件の闇の深さに慄いてのめり込んでいくんですが。そのくせ観客に対してフェアじゃないと思うのが、被害者の男性の人物像には全く触れないし、三隅の実の娘さんに至っては全く姿を現さないという。見ていて、少ない情報を頼りに事件をたどる観客の心はゆらゆらと揺れていくわけです。役所さんの熱演も相まって、殺したのか殺してないのか全く読めない。わからない。
近親相姦の話は、ちょっと飛び道具的な感じがしました。あの母親と娘の関係、そんな闇が潜んでいるようには感じられないんだけど…。父親を殺したいほど憎む対象の裏付けとして、後から出てきた理由のような気がして、こういう問題は扱いが難しいですね。
あと父親以上に歳が離れた三隅と咲江はなんでそんなに親しくなるのかな。ちょっと理解しかねる。咲江は北海道大学を受験しようとしていて、相当三隅の影響を受けているようなので。
本筋と関係ないけど、北海道ロケを敢行しており寂れた不景気な町の代表みたいな扱いで留萌が出てきます。舞台も冬でいかにも寒々しく地の果てのよう。北海道はこれまでもたくさんの映画の舞台になることが多いですが、ポジティヴな場所に描かれることが少ないのが寂しいですね。
寒い、貧しい、人が少ないとかそんなんばかり。まあそれだけに人生を見つめ直したり、重厚な作品の舞台に使われることも多いわけですが、もうちょっとこう夏の北海道とかさ、良いところも表現してほしかったり(;^ω^)どうでもいい話でごめんなさい。
とにかく役所さんの演技が凄いのひと言ですね。表情が豊かで、神々しかったり怖かったり…翻弄されますわ。役者として演じていて楽しかっただろうと思います。
同じように福山さんも素晴らしい。重盛役は一見クールを装っていても、内面はどこかで人間を信じていたり優しさも持ち合わせていたり、弱さもある。一人の人間として三隅に心を寄せ、真実を知りたいと苦悩する難しい役を頑張っておられました。
好みが分かれるので万人向けではないのですが、色んな人と語り合いたい作品です。邦画の中では今のところ今年のベストだと思います。
最低でも「3度目の殺人」「散歩する侵略者」「ユリゴコロ」は絶対見たい。
で、18日の祝日夕方から時間が空いたもんで、さっそく「3度目の殺人」を見に行って参りました。
久々に見ごたえのある作品でした。大満足。
是枝監督作品ということで注目を集めていますが、多分賛否があるだろうと思います。観客も選ぶだろうと。
しかし、この結末を観客の創造力に委ね丸投げしちゃう感じ。大好き。見てスカっとする映画も感動して泣ける作品も好きですが、この作品のように「こ…これで終わり?真相は?」っていう作品も同じくらい好きなんだよなあ。そしてこの感覚を劇場で体験するのは久しぶりかなと思います。
↓以下激しくネタばれしています未見の方お気を付けください。
謎だらけな事件です。
映画の中で、監督は観客が今回の事件とその前科になった事件についてそのあらましや解決の糸口になりそうな事象を提示してくれてはいます。ですからある程度のところまでは推理が可能。
しかし肝心な箇所はグレーでぼけているので、どんな真相にたどり着いたとしても決め手に欠けると思います。そもそもそういった新犯人探し、謎解きミステリのような楽しみをさせないよう実は監督もその真相は決めないで書いているのかもと思いました。
罪とは、人を罰するとは、生まれてこないほうがいい人間とは。
3度目の殺人とは言わずもがな、自らを死刑になる方向へ持っていくように誘導させた?三隅自身のことでしょうね。裁判員制度だったというこの事件、結局真相や新犯人は二の次になり、粛々と裁判は進み予想された通りの判決が下るこの無力感。まるで見ている観客も三隅の死刑に関わったような後味の悪さが残ります。
作品の中で中国の小話が出てきますね。盲目の人たちが象を触ったら、その触った部位で同じ象でもまるで感想が違っていた。そりゃあ大きい象の鼻だけ触った人と耳だけ、脚だけじゃ全然違う意見になる。今回のテーマもそこなんでしょう。ひとつの事件をみんなで推理し構築させようと躍起になるものの、一人一人見方は異なるしその全貌を誰も把握していない。実際の事件や裁判も、案外そうなのかなと思います。辻褄の合う、誰もが納得のいくストーリーを導き出そうと弁護士にしても検察にしても自分たちの有利なようにすすめようとしますが、その真相は神のみぞ知るといったところ。意外と全く知られていない事実や動機が隠されていて、本来の真実と表向きの判決とは全く違っているのかも。私自身、普段事件の裁判などに於いて、犯人の生い立ちや動機やらで情状酌量の余地があったりするというのも中々興味深いなあと思っております。人を殺したのは同じなのに、理由があれば罪が軽くなるというのもどうなのかと。殺人は殺人なのにね。
というわけで、この作品、見終わった後も良い意味で非常にモヤモヤします。で、やはりこの作品を見た別な人と、語りたくなりますね。私はこう思うけど、あなたはどう?と。
私自身、数々の疑問があり今もまだ考え中です。
カナリアとか十字には特別な意味がありますかねえ。あと咲江がかなりファムファタール的というか謎に包まれていると同時に作品的にも色々背負わせ過ぎのような。足が悪い設定は目撃情報を得やすいから?生まれつきとか、幼い頃屋根から飛んだとか…嘘をつく子という情報じたい本当かな。あと食品偽装の話とか近親相姦の話とか、三隅が人の心を読めるような設定はちょっと唐突に感じましたね…。だからこそ、急な展開に重盛同様観客もこの三隅や事件の闇の深さに慄いてのめり込んでいくんですが。そのくせ観客に対してフェアじゃないと思うのが、被害者の男性の人物像には全く触れないし、三隅の実の娘さんに至っては全く姿を現さないという。見ていて、少ない情報を頼りに事件をたどる観客の心はゆらゆらと揺れていくわけです。役所さんの熱演も相まって、殺したのか殺してないのか全く読めない。わからない。
近親相姦の話は、ちょっと飛び道具的な感じがしました。あの母親と娘の関係、そんな闇が潜んでいるようには感じられないんだけど…。父親を殺したいほど憎む対象の裏付けとして、後から出てきた理由のような気がして、こういう問題は扱いが難しいですね。
あと父親以上に歳が離れた三隅と咲江はなんでそんなに親しくなるのかな。ちょっと理解しかねる。咲江は北海道大学を受験しようとしていて、相当三隅の影響を受けているようなので。
本筋と関係ないけど、北海道ロケを敢行しており寂れた不景気な町の代表みたいな扱いで留萌が出てきます。舞台も冬でいかにも寒々しく地の果てのよう。北海道はこれまでもたくさんの映画の舞台になることが多いですが、ポジティヴな場所に描かれることが少ないのが寂しいですね。
寒い、貧しい、人が少ないとかそんなんばかり。まあそれだけに人生を見つめ直したり、重厚な作品の舞台に使われることも多いわけですが、もうちょっとこう夏の北海道とかさ、良いところも表現してほしかったり(;^ω^)どうでもいい話でごめんなさい。
とにかく役所さんの演技が凄いのひと言ですね。表情が豊かで、神々しかったり怖かったり…翻弄されますわ。役者として演じていて楽しかっただろうと思います。
同じように福山さんも素晴らしい。重盛役は一見クールを装っていても、内面はどこかで人間を信じていたり優しさも持ち合わせていたり、弱さもある。一人の人間として三隅に心を寄せ、真実を知りたいと苦悩する難しい役を頑張っておられました。
好みが分かれるので万人向けではないのですが、色んな人と語り合いたい作品です。邦画の中では今のところ今年のベストだと思います。