目指せ! 標高1122メートル

山の神にお供して歩きつづける、ある山のぼら~の記録。ネイチャー、冒険の本もとりあげるよ。

階段でいえば、踊り場にいる~竹内洋岳講演会

2012-11-11 | イベント

立正大学公開講座 竹内洋岳「挑戦し続ける想い~14座の軌跡を語る~」

2012年11月10日(土) 15:00~17:00

【プログラム】
立正大学学長挨拶/8000メートル峰14座完全登頂の軌跡映像竹内さん講演/立正大学在校生の質問コーナー

001img_6347五反田の立正大学で、竹内洋岳さんの講演を聞いてきた。こんなに弁がたつ人とは思っていなかったので、非常に驚いた。

冒頭、いきなり地球の太古の生物の話を引く。海から陸へ上がり始めた生物は、海から這い上がって2,3歩で苦しいといって海に帰り、次は5,6歩で苦しいといって海に帰り、結果陸にあがる。8000メートル峰の登山もそれと同じで、高度馴化のために、C1やC2に上がっては、BCに戻る。ちょっとずつ高度に体をならしていく。

人間のもつ潜在能力という面から、ジャック・マイヨールを引いたのも面白い。すでに故人であるが、海洋の潜水世界記録をもつフランス人だ。彼が生前いっていたのは、人間は人間に進化する前に海にいた記憶が機能として身体に刻み込まれている。だから自分は潜在能力としてのその機能を呼び覚ますことで、潜水記録を打ち立てることができたのだと。このエピソードから人間は、環境の変化によっては、鯨が陸から海へ生活の場を変えたように、人間も海に生活の場を変えるかもしれないというのだ。

印象深かったのは、ラルフやガリンダとの出会い。きっかけはラルフの公募隊への参加だ。それから毎年いっしょにヒマラヤの山を登るようになり、8000メートル峰をいくつも登った。そしていっそのこと14座すべてを目指そうとなる。ラルフはドイツで初めてのサミッター、ガリンダは世界で女性初のサミッター、竹内氏は日本で初めてのサミッターになるという目標がこの3人の中でつくられた。結果はご存知のとおり、全員がその目標を達成した。

圧巻は、あちこちで書かれたり、語られてきたガッシャーブルムⅡ峰で雪崩に巻き込まれた話だ。ついこの間の出来事のように、よどみなく語られていく。塩野米松さんの本にも書かれていたと思うが、入院中に毎日見舞い客が訪れ、雪崩のいきさつを説明するものだから、どんどん話なれてうまくなった。会場を沸かせたのは、「そのとき!」などと盛り上げ方もうまくなったと白状したときだった。

ガッシャーの事故は傾斜50度くらいのところを登高中のときだった。アックスを2本突きたてながらのルートファインディング中に足元の雪がどっと動いて300メートル落下した。同行していたドイツ人2人が亡くなっているから、よほど運がよかったのだろう。

このとき、竹内さんは「運」についての見解を披露した。「運」などという言葉で人の命を軽々には語れないと。自分はこの現場にいた山仲間に命を分けてもらって今ここにいる。本来なら自分の足で下山していないということは、もう死んでいるということなんだ。だからこの命は山に行くことで、その仲間たちに、たしかにここに存在するということを示さなければならない。

14座目のダウラギリのエピソードもまた強烈な印象を受けた。中島ケンロウさんが途中6800メートル地点で高山病でリタイアしたわけだけど、このとき中島さんはこういったという。「竹内さん、必ず迎えに行きます」。その言葉を信じて、竹内さんはダウラギリ登頂を、日没前のギリギリの時間まで粘ることになった。当初の山頂到着予定は12:00だったのだが、17:30の登頂と大幅に遅れた。それは下山途中で、仮にヘトヘトになっても、中島さんが来てくれるという安心感そして彼への信頼からだった。それに登るときに、道々ビバークポイントをチェックしていたというから恐れ入る。

締めは、よく聞かれる質問「14座の次は何をする? どこへ登る?」についてコメントした。14座完登は、自分にとってはたんなる通過点にすぎない。階段の踊り場みたいなもの。14座の目標を遂行するにあたって、排除してきた7000メートル級の山もあると添え、そうした山も視野にあるとした。また店頭でのケーキ選びにたとえて、とにかくどこの山に行くかあれこれ考えるのは楽しい時間であると。

行き先や時期は、内緒。それは決めて公言した時点で、セレクトしている楽しい時間の終わりを意味するだろうし、その山が日本人の登山者だらけになるかもしれないからだろう。

まだまだプロ登山家竹内洋岳さんの挑戦は続くのだ。

参考
竹内洋岳の友人が挑む「K2」の頂~ナショジオ2012年4月号
ついに8000メートル峰14座制覇! 竹内洋岳

写真は会場で配布された「立正大学学園新聞2012年7月1日発行 Vol.118」 


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