目指せ! 標高1122メートル

山の神にお供して歩きつづける、ある山のぼら~の記録。ネイチャー、冒険の本もとりあげるよ。

単独行者アラインゲンガー

2011-06-11 | 山・ネイチャー・冒険・探検の本

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冒頭の章は、加藤文太郎の北鎌尾根遭難後のシーンから始まるが、テンポが悪すぎる。登場人物が多すぎで、状況を理解するには一苦労だし、通読して初めてわかるシーンも入っている。読了後に冒頭をまたパラパラとめくって確認してしまった。次の章から、この小説は始まるといっていい。ようやく著者本来のテンポのいい文章のエンジンがかかってくる。

加藤文太郎がなぜ、遭難したのか。彼の登山経歴、登山スタイル=単独行が時系列で描写されていき、その謎が少しずつ解き明かされいてく。すさまじいばかりの登高意欲。体力にモノをいわせて、がむしゃらに登高するさまは恐れ入るばかりだ。すべての優先順位の筆頭に「登山」が来る彼の生活は、まさに登山をするために生まれた人間である証明であるように思えてくる。

それを描写していく谷甲州氏の筆力はすごい。氏自身が理系出身であるから、エンジニア的な理詰めで、そのときどきの加藤文太郎の行動や考えを、こうだったのではないかという仮説をもとにどんどん読者に提示する。文太郎の行動ひとつひとつが跡付けられていくのだ。たぶんそうなんだろうと、いちいちが納得させられてしまう。読んでいるうちに谷甲州信者になってしまい、加藤文太郎の遭難にいたるまでの経緯、文太郎の言動や行動は、ほぼここに書かれていることが事実のような気がしてきた。

読後感は「充実」の一言。久々に重量感のある山岳小説を読んだ気がする。谷甲州氏の他の山岳小説「神々の座」は2冊とも面白かったが、軽快なエンタメ本という印象、こちらは偉大な登山家を丹念に調べ上げて仮説を積み上げ、その成果を基に著された研究書という印象を受ける。

参考記事;加藤文太郎の本
http://blog.goo.ne.jp/aim1122/d/20100725

単独行者 アラインゲンガー 新・加藤文太郎伝 上 (ヤマケイ文庫)
クリエーター情報なし
山と渓谷社
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