デラシネ(deracine)

阪神タイガース・NOAH・BUCK-TICK・酒場・鉄道など

『雲出づるところ』(土田世紀)

2016-01-21 01:06:56 | weblog


この『雲出づるところ』は2012年に亡くなった土田世紀作の漫画です。
初めて読んだのはその土田世紀の追悼で行われた回顧展でした。
京都国際マンガミュージアム。

そこで土田世紀展を見ていたのですが、著作を自由に読めるコーナーがあり、
手に取ったのがまだ読んだことのなかったこの本でした。

手にしてから何十分でしょうか。
私の手がその本から離れることはなく(上下巻の交換以外に)、
私の目がその本から離れることはありませんでした。

後の予定も何も考えず、この漫画にひたすら引き込まれていきました。


悲しい話です。救いのない話です。
美女と野獣と呼んでもいいような外見の2人、出水とジューイチ(十一)はお互いに人には言えぬ暗い過去を持ち、
それがふとした縁から結婚し、駅で拾った黒人の子(陽子)を育てるも、出水は妊娠、しかも子宮頸ガンが見つかる。
産みたい、でもガンは待たない。でも産みたい。
ガンと出産との戦い、出水の父親とジューイチの戦い、荒れるジューイチ、優しい出水の母、とことん親身になってくれる医師・宮兄弟。
全ての場面が、登場人物の全てのセリフが心に突き刺さります。


苦しむだけの出水、ガンも出産も全てが悲しい結末になります。
自分の力ではどうにもならない。
何のために生まれてきたのだろう。
悪い事をしてもいないのにこの人生。

不条理です。理不尽です。
そんな出水を最後まで支えるジューイチ。
しかし陽子の実の父親が現れて・・・・


ひたすら悲しい話です。
そしてひたすら読み続けたくなる話です。
命とは。
人間とは。
生きる事とは。
死ぬ事とは。

我々に土田世紀が、問いかけます。
全ての、「生きる」人に読んでもらいたい衝撃作です。

本の表紙内側には土田世紀のコメントがありますが、
亡くなった今となれば深い深いコメントです。

私は、この本と出会えたことに感謝します。


最新の画像もっと見る

post a comment

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。