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OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ソニー・クラークの秘宝

2008-12-11 12:30:21 | Jazz

My Conecption / Sonny Clark (Blue Note / 日本キング)

秘宝発掘という文字通りのインディーズ盤は何時だって嬉しいものですが、このアルバムが出た時の驚きは、今もって筆舌につくしがたいものがありました。

まあ、これはサイケおやじだけの大袈裟な思い出かもしれませんが、ジャケットに記載されたメンツ良し、さらに演目が興味深々という、ほとんど聴く前から夢見心地の1枚です。

録音は1959年3月29日、メンバーはドナルド・バード(tp)、ハンク・モブレー(ts)、ソニー・クラーク(p)、ポール・チェンバース(b)、アート・ブレイキー(ds) というハードバップのドリームオールスタアズ♪ しかも詳しくは後述致しますが、演目が全てソニー・クラークの代表的なオリジナル曲ばかりという、まさにウルトラ級のセッションです――

A-1 Junka
 ソニー・クラークが「タイム」レーベルに残したピアノトリオの決定的な名盤「Sonny Clark Trio」に初出収録されたハードバップ曲で、それはこのセッションから約1年後の1960年3月の録音でしたから、このクインテットバージョンの成り立ちと経緯が気になるところです。
 ここでの演奏は、「せーの」でいきなりテーマの合奏からハンク・モブレーがこれしか無いの勢いでアドリブソロに突入! グイノリのスピードがついていながら、独特のタメとモタレの至芸は、まさにモブレーマニアが感涙の桃源郷ですし、アート・ブレイキーのパッキングも十八番のリックと煽りがハンク・モブレーとの相性の良さを証明しています。
 そして続くドナルド・バードが、これまたツボにはまった得意技を連続披露ですから、ソニー・クラークのアドリブも粘っこくてスイングしまくったシングルトーンの魅力を完全に発揮するのです。
 こういう雰囲気の良さは、気心の知れた顔馴染みのメンバーゆえの事だと思いますが、そこは御大アート・ブレイキーの存在がビシッとした締め付けになっているようです。
 ただし個人的にはテーマの前にソニー・クラークならではのイントロが欲しかったところで、このあたりにもオクラ入りしていた原因があるのでしょか……?

A-2 Blues Blue
 これも前述「Sonny Clark Trio (Time)」に収録されていた人気のブルースですが、このクインテットバージョンは、そのトリオ演奏に比べると、かなりライトタッチのテーマ合奏からアドリブの応酬へと展開されています。
 しかしアート・ブレイキーを要としたリズム隊にゴスペルグルーヴが濃厚ですから、ハンク・モブレーやドナルド・バードも粘っこくて淀みないアドリブソロを存分に聞かせてくれますし、ソニー・クラークの伴奏には何時もながらゾクリとする瞬間が楽しめるのです。そしてもちろん、アドリブに入ってはファンキーな節回しが全開♪ シンプルな短音フレーズの全てがハードバップのツボという素晴らしさです。
 またポール・チェンバースのペースソロもイヤミなく、まあ、このあたりのアクの無さもオクラ入りの要因だったかもしれませんが、こんなにズバリとキマったハードバップって、今では全く演奏出来ないんじゃないでしょうか。

A-3 Minor Meeting
 アート・ブレイキーのアフロなドラムリックから、お馴染みのファンキーメロディというテーマ♪ こういう当たり前の展開にグッと惹きつけられてしまうのが、ハードバップ黄金期の素晴らしさですねっ♪
 勢い満点の演奏ではドナルド・バードのアドリブを激しく煽って爆発する、アート・ブレイキーの所謂「ナイアガラ」が豪快至極に炸裂し、ハンク・モブレーの流麗にしてハートウォームなフレーズの連発を呼び込むのですから、サイケおやじにとっては、全くたまらん心持♪ ソニー・クラークのアドリブパートに至っては、もはや冷静ではいられないほどです。
 ちなみにこの曲も前述「Sonny Clark Trio (Time)」で演じられていますが、そこでのドラマーだったマックス・ローチと比べても、アート・ブレイキーの個性は勝るとも劣らず、このリズム隊だけの演奏が聴きたくなるのでした。

B-1 Royal Flash
 前述「Sonny Clark Trio (Time)」では「Nica」という曲名で演奏された人気メロディで、ブルーノートでは同じくオクラ入りしていたとはいえ、このセッションに先立つ1957年12月にも吹き込まていたところからして、ソニー・クラークが自信のオリジナルだったと思われます。
 ここではミディアムテンポの力強いグルーヴの中でソニー・クラークが特有のネバネバファンキー節を存分に聞かせてくれますし、ハンク・モブレーも俺に任せろっ! まろやかで黒っぽいという十八番のアドリブが冴えまくりです♪
 またドナルド・バードのトランペットからは、どこかしら知的な雰囲気が滲みでいるのも、私の気の所為ばかりではないと思うのですが……。
 まあ、それはそれとして、前述した1957年のバージョンは、これも後年発掘された日本盤アルバム「Sonny Clark Quintets (Blue Note / 東芝)」に収録されていますし、CD化もされていますから、聴き比べも楽しいところでしょうね♪

B-2 Some Clark Bars
 アップテンポでバンドがハードバップ魂を炸裂させた名演です。
 クレジットではソニー・クラークのオリジナルとされていますが、なんとなくテーマがハンク・モブレー調なのは興味深く、その所為でしょうか、アドリブ先発のハンク・モブレーが大ハッスル! 流れてモタレる独特の「モブレー節」が、これでもかと楽しめますし、横溢する抑えきれないファンキームードは見事にドナルド・バードへとリレーされていきます。
 そして当然ながら、ドナルド・バードにも抜かりはありませんし、ソニー・クラークのハードバップど真中のピアノにはシビレが止まらないのです♪ またアート・ブレイキーの緩急自在、その場の空気を読みきって巧みなリードのドラミングも流石だと思います。 ゛

B-3 My Conception
 オーラスはソニー・クラークのシンミリ系メロディの真髄という素敵なバラード演奏♪ 灰色のトーンでテーマを奏でるハンク・モブレーのテナーサックスは、スタンドプレーが無い純朴さで好感度も高く、またソニー・クラークのアドリブからは、そこはかとない情感とマイナーメロディのキメがジワジワと漂ってきます。
 そしてドナルド・バードの朗々とした中にも曲想を壊さないトランペットのせつなさは、最後の最後で若気の至りっぽいところが憎めません。

ということで、何故、これがオクラ入りだったのかは理解に苦しむところなんですが、冷静に聴いてみると、アルバム全体にある種の「アク」が足りない雰囲気です。それは当たり前すぎるハードバップの快演として、平均点以上なのが逆に禍したのでしょうか……、

このあたりのプロデュース感覚はアルフレッド・ライオンの気分次第かもしれませんが、例えば既に述べたとおり、「Junka」に感じられるソニクラ節のイントロの欠如とか、誠実過ぎる演奏の仕上がりには、他のブルーノートの諸作に比べて、確かに何かが足りないと感じるのは偽りの無い私の気持ちです。

しかし今となっては、これほど濃密なハードバップはやはり秘宝ですし、我が国でデザインされた、些かトホホなジャケットも味わい深いような気がしています。

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マーティ・ペイチのトリオこれっきり

2008-12-10 12:29:38 | Jazz

Marty Paich Trio (Mode)

モダンジャズばかりでなく、ハリウッド音楽産業界では超一流のアレンジャーとして歴史に名を刻んだマーティ・ペイチは、もちろん ピアニストとしても優れた腕前の持ち主でしたが、なんとピアノトリオ作品は本日ご紹介の1枚っきりというのは残念でした。

しかもそれがマイナーレーベルで作られたウルトラ級の幻盤なんですから、リアルタイムで楽しんだファンがどれだけ居たのかも疑問という、その名声を思えば不可思議な出来事です。

当然ながら、私もそれが「在る」ということ知っただけで、長い間聴くことが叶わず、ですから我が国で復刻盤が出た時には速攻でゲット♪

録音は1957年6月、メンバーはマーティ・ペイチ(p)、レッド・ミッチェル(b)、メル・ルイス(ds) という、なかなか魅力的なトリオです――

 A-1 I Hadn't Anyone Till You
 A-2 The Facts About Max
 A-3 Dusk Light
 A-4 The New Soft Shoe
 B-1 A Dandy Line
 B-2 El Dorado Blues
 B-3 What's New
 B-4 By The River St. Marie

――上記演目を見ると、有名曲が「What's New」ぐらいですから、ちょいと嫌な予感も漂いますが、全篇に横溢するスマートなやすらぎムード、ほど良いファンキーフィーリングには、やはりピアノトリオならではの楽しみいっぱいです。

というのも、マーティ・ペイチのピアノスタイルが意外なほどにハードドライヴィングなんですねぇ~。力強いタッチと歯切れの良いフレーズはハンプトン・ホーズみたいな感じもありますし、所々には、あそこまではいかなくとも、アンドレ・ブレヴィンが十八番としていた手法も使っています。

つまりマーティ・ペイチはなかなかのテクニシャンなんですねぇ~。一応はピアニストというアレンジャーの中には、例えば失礼ながらギル・エバンスのように???という腕前の名手もおりますが、マーティ・ペイチは流石にピアノトリオ盤を作るだけのことがあります♪

ラウンジっぽい安らぎがハードバップに変質していく「I Hadn't Anyone Till You」、ドギモを抜かれる衝撃のイントロからやさしいテーマメロディをジンワリとフェイクしていく「What's New」、如何にも白人ジャズっぽい「By The River St. Marie」というスタンダードの解釈は、それなりの「あざとさ」が良い方向に作用していると思います。

逆にハードバップの本質に鋭く斬り込んだ「The Facts About Max」では、既に述べたようにアンドレ・ブレヴィンかハンプトン・ホーズを想起させられるドライヴ感が見事ですし、弾みまくった「A Dandy Line」では対位法のさりげない使い方がニクイという、オリジナル曲の魅力も捨て難いところでしょう。

そのあたりは超スローなテンポがダレる寸前で自作のメロディのキモに繋がるという、誠に激ヤバのオリジナル曲「Dusk Light」で、さらに顕著です。

サポートのレッド・ミッチェルも要所で素晴らしいペースソロ、そして太めの音色で豪快な4ビートウォーキングと、全く期待を裏切らない存在感ですし、メル・ルイスが熟達のスティックも流石にスカっとしています。

そして個人的には「The New Soft Shoe」や「El Dorado Blues」で聞かれるソフトファンキーな和みの世界が、一番しっくりとくるんですが、実は聴くほどに濃密なムードの虜になってしまうのでした。

一見、地味なアルバムではありますが、味わいの深さは天下一品じゃないでしょうか。

ちなみに先日、店頭で紙ジャケ仕様のCDを発見♪ ちょっと試聴させてもらったら、リマスターも良好なんで、これも即ゲットでした。もちろんモノラルミックスですよっ♪

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グラント・グリーンのラテンでゴーゴー

2008-12-09 12:26:37 | Jazz

The Latin Bit / Grant Green (Blue Note)

グラント・グリーンの人気盤と言えば「Feelin' The Spirit」か「Idle Moments」あたりのゴスペルファンキー物がイノセントなジャズ者にはお好みだと思われますが、本日ご紹介のラテン物も楽しい仕上がりでした。

とにかくオトボケなジャケ写からして、たまりませんねっ♪

録音は1962年4月26日、メンバーはグラント・グリーン(g)、ジョニー・エイシア(p)、ウェンデル・マーシャル(b)、ウィリー・ボボ(ds,per)、パタート・バルデス(per)、ガーヴィン・マッソー(per,chekere) という、ブルーノート正統派路線では馴染みの薄い顔ぶれなんですが、実は結論から言うと、このリズム隊は以降のラテンジャズ系セッションでは、ブルーノートの屋台骨を背負った面々ですから、ここでの手堅く熱いサポートは素晴らしいかぎりです――

A-1 Mambo Inn
 ウキウキするようなラテンリズムに心躍る楽しいメロディ♪ まさにラテンミュージックのエッセンスをモダンジャズに溶かした名演で、もちろんアドリブパートでは4ビートにドドンパのリズムがゴッタ煮状態です。
 あぁ、実に楽しいですねぇ~~~♪
 グラント・グリーンが何時もながらの単音弾きで淀みのないフレーズを弾きまくれば、ピアノのジョニー・エイシアはハーマン・フォスターの親戚みたいなスタイルという、オルガンタッチでソニー・クラーク系のアドリブを聞かせてくれますよっ♪
 もちろんコンガとシェケレがメインとなったリズムの饗宴も本格的ですから、これ1曲だで全篇を聴かずにはいられなくなると思います。

A-2 Besame Mucho
 さてさて、ラテンジャズには無くてはならない人気曲ですから、グラント・グリーンがこれを演じるというだけでワクワクしてきますねぇ~♪ そして結果は妖しいムードが濃密に漂う大名演!
 テーマ部分のイナタイ雰囲気、アドリブパートのゴスペルファンキーな4ビート、さらにラテン歌謡ならではの、胸キュンの歌心を活かしきったメロディフェイク♪ そんなこんなが絶妙に混ぜ合わせられた快楽の時間が楽しめます。
 う~ん、それにしても、じっくりとしたグルーヴを醸し出すリズム隊の実力は流石ですねぇ。ジョニー・エイシアは疑似「ソニクラ節」ですし、大衆音楽の奥底は本当に知れません。

A-3 Mama Inez
 チャーリー・パーカー(as) がラテンジャズを演じたリーダー盤「Fiesta (Verve)」にも収録されていた楽しい名曲ですが、ここでの浮かれた調子も最高です。リズム隊の存在感も強く、それはアドリブパートのドドンパな4ピートに入ると、尚更に鮮やかなんですねぇ~。
 グラント・グリーンがホーンライクなフレーズを積み重ね、さらにコード弾きのサービスまでも披露すれば、ジョニー・エイシアが正統派ハードバップのファンキー節で対抗するんですから、もう辛抱たまらん状態♪
 そしてラストテーマの前に、もうひとつアドリブで盛り上げていくグラント・グリーンの心意気! バンドアンサンブルもビシッとキマッて、実に気持E~です。

B-1 Brazil
 これもお馴染み、ラテンの楽しい名曲をアップテンポのハードバップに焼き直していくバンドのグルーヴは、もう最高としか言えません。あぁ、このキメのリズムパータンは、キワドイ衣装の美女が舞い踊る雰囲気ですよ♪
 そしてアドリブパートのスピード感は、グラント・グリーンが十八番の単音弾きにはジャストミートですから、続くジョニー・エイシアのピアノも大ハッスルという、まさにラテンジャズのブルーノート的展開になっています。

B-2 Tico Tico
 これまたチャーリー・パーカーが「Fiesta (Verve)」で演奏していたラテンの名曲で、しかしその浮かれたテーマメロディが、アドリブパートでは全く正統派モダンジャズでシンプルに解釈されていくという、極めてブルーノート的に仕上がりがニクイところです。
 グラント・グリーンは如何にもジャズギタリストとしての実力を誇示しているかのようですし、リズム隊のドドンパ系4ビートからも真っ黒なグルーヴが噴出して、これが何処を切ってもブルーノート! それもまた、快感だと思います。
 そしてラストテーマ直前からのラテングルーヴが、実に地味~な場面転換で結果オーライですが、この部分の、ほとんどラテン歌謡なノリが私は大好きです♪

B-3 My Little Suede Shoes
 オーラスは、またしてもチャーリー・パーカー所縁の楽しいラテンバップという嬉しい企画です♪♪~♪ そしてメリハリの効いたリズム隊にグラント・グリーンのギターも良く乗っかって、これが間違いなくモダンジャズのグルーヴだと痛感してしまいますねぇ~♪
 ジョニー・エイシアのファンキーピアノも心地良く、コンガ&シェケレ組も強い印象を残しています。

ということで、安易な企画物と思って聞くと完全にドギモを抜かれるほど、濃密な作品です。グラント・グリーンはソウルイチバンなギタリストというイメージですが、実はラテンの快楽性もおまかせ状態だったんですねぇ~♪

このあたりは黒人音楽の汎用性とゴッタ煮感覚が、ジャズというハイブリットな大衆音楽に結びついたポイントかもしれません。

しかし、それはそれとして、こんなに楽しい演奏が残されたのは、バンドメンバー全員のウマが合ったからでしょう。実際、もう1枚ぐらいは同種のアルバムが作られて欲しかったという思いが強くなるのでした。

楽しいジャズを求めては必聴の名盤じゃないでしょうか。

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ジョージ・ウォーリントンの優雅なハードバップ

2008-12-08 11:59:25 | Jazz

Jazz For The Carrage Trade / George Wallington (Prestige)

ジョージ・ウォーリントンは白人ながらビバップという元祖モダンジャズ、つまりは黒人のアングラ音楽に若い頃から関わっていたピアニストで、1940年代としては相当にスノッブな人だったんじゃないでしょうか。

そしてビバップが一過性のブームで終わり、白人主導の西海岸系モダンジャズに流行が移っても、何故かそれにどっぷりと迎合したような録音を残していないのは、スジを通した頑固さがあるのかもしれません。

しかし1950年代中頃には、ついにハードバップの先駆的なバンドを結成し、そこにはドナルド・バードやジャッキー・マクリーン等々の精鋭を集めていたのですから、やっぱり黒人的な音楽性を追求する意志が強かったのでしょう。

さて、このアルバムはジョージ・ウォーリントンが率いていた当時のレギュラーバンドによるハードバップ作品ですが、驚いたことにアルバムタイトルが「上品な富裕層のためのジャズ」なんですから、吃驚仰天!

しかも前作「At The Cafe Bohemia (Progressive)」ではジョージ・ウォーリントン以外のバンドメンバーが全て黒人だったのに、ここではジャケットをご覧になっても一目瞭然の白黒混成になっています。

録音は1956年1月20日、メンバーはドナルド・バード(tp)、フィル・ウッズ(as)、ジョージ・ウォーリントン(p)、テディ・コティック(b)、アート・テイラー(ds) という強力な布陣! ちなみにジャケ写にはアート・テイラーが登場しておらず、原盤裏解説によれば、撮影時のレギュラードラマーは Junior Bradley という白人だったそうですから、恐らくこのレコーディングが行なわれた直後に交替があったのかもしれません――

A-1 Our Delight
 黒人アレンジャーとしてビバップ期から注目されていたタッド・ダメロンが書いたモダンジャズの聖典曲ですから、ここでもアップテンポで熱気満点の演奏が展開されていますが、同時に非常にスマートな感覚も横溢しています。
 流麗なドナルド・バード、ウネリとスピード感のフィル・ウッズ、そしてアート・テイラーの躍動的なドラミング! テディ・コティックのペースも野太い弾みが良い感じです。しかしジョージ・ウォーリントンのピアノはタッチが弱いのか、まるで弱音ペダルを踏んでいるかのような貧弱な存在感が……。
 まあ、その分だけ他のメンバーが目立ちまくりと言えば、全くそれまでなんですが、う~ん。

A-2 Our Love Is Here To Stay
 ガーシュイン兄弟が書いた有名スタンダードをハードバップ化した演奏というよりも、モダンジャズの心地良い快演でしょう。もちろんここでも、当時としては先端の表現だったであろう、お洒落な雰囲気が漂っています。
 ミディアムテンポの快適なスイング感は、それでも強靭な黒人的なグルーヴも併せ持った素晴らしさですから、ジョージ・ウォーリントンのソフトタッチのピアノと優雅なアドリブもジャストミート♪
 それを受け継ぐフィル・ウッズの熱血の歌心、またドナルド・バードの素直なハードバップ魂も、自然体でありながら実は緻密にアレンジされていたのかもしれないリズムセクションの働きがあっての成果でしょうか。バンドアンサンブルの控え目な見事さにも、聴く度にハッとさせられます。

A-3 Foster Dulles
 どこかで聞いたことがあるようなファンキーなテーマから豪快なハードバップ演奏がスタートしますが、ここでも気の利いたアレンジとバンドアンサンブルがイカシています。
 そしてアドリブパートではドナルド・バードがいきなりの快速球で真っ向勝負♪ 続くフィル・ウッズもツッコミ鋭いウネリ節でハッスルしていますし、アート・テイラーのヘヴィなドラミングは、まさにハードバップしています。
 しかしジョージ・ウォーリントンの寂しそうなピアノは??? 一応はパド・パウエル系のスタイルなんですが、タッチの弱さやアドリブフレーズの精彩の無さは、全く理解に苦しむところです……。う~ん……。

B-1 Together We Wail
 このアルバムでは最高に熱いアップテンポの大名演!
 昭和の運動会みたいな騒がしくもスピード感満点のテーマ、それに続くアドリブパートでは、なんとフィル・ウッズとドナルド・バードが同時に自分本位のソロを演じてしまうという恐ろしさ! しかもそこからドナルド・バードがスルリと抜けだし、白熱のトランペットを鳴らしていくんですから、もうここは何度聴いても大興奮です。
 もちろんその目論見はフィル・ウッズのパートでも再現され、執拗なドナルド・バードの絡みからフィル・ウッズがマジギレしたかのように豪快な「ヴッズ節」を炸裂させます。あぁ、この熱気と快感! これがジャズですねっ♪♪~♪
 ジョージ・ウォーリントンも若手に煽られたかのような懸命の力演ですし、タイトでハードなドライヴ感を作り出しているドラムスとベースも、流石に強力な存在感だと思います。

B-2 What's New
 そして前曲の興奮を、すうぅ~と冷ましつつ、今度は情緒たっぷりという夢の世界へご案内♪
 別れても好きな人というスタンダード曲を、ちょいとネクラに歌いあげるジョージ・ウォーリントンのピアノは、ソフトなタッチが弱気なフィーリングへ上手く繋がった大名演だと確信させられます♪ とにかくこの優雅なムードは、まさにアルバムタイトルに偽り無しでしょう。
 これほどのスローなテンポでもビートの芯を失っていないベースとドラムスの実力も侮れず、さらに終盤で登場するフィル・ウッズの優しい「泣き」、またドナルド・バードの思わせぶりもニクイほどです。
 有名曲ということで、モダンジャズのインストバージョンは星の数ほど残されていますが、これは間違いなく十指に数えられる名演じゃないでしょうか。

B-3 But George
 オーラスは如何にフィル・ウッズらしいオリジナル曲で、メンバーそれぞれが躍動的なキメを聞かせるテーマの構成が楽しい限り♪ ジョージ・ウォーリントンもキラリと輝くブレイクでリーダーの貫禄を示しています。
 しかしアドリブパートは、やはり断然に若手メンバーの方がイキイキとした快演で、思わずゾクゾクさせられるフィル・ウッズの登場に続き、明朗闊達なドナルド・バードが、ハードバップの黄金期を導くのでした。

ということで、ジャズのガイド本ではジョージ・ウォーリントンの最高傑作とされるアルバムですが、特にB面を聴けば完全に納得させられるでしょう。とにかく「Together We Wail」と「What's New」の2連発にはモダンジャズ最良の瞬間が感じられますよっ♪

そして全体の仕上がりでは、演奏そのものにオール黒人のバンドでは絶対に醸し出しえないスマートさ、優雅さが顕著です。しかもハードにドライヴした突進力もあるのですから、西海岸製のハードバップとも一線を隔したというあたりが、実に個性的だと思います。

ジョージ・ウォーリントンのピアニストとしての実力は、その迫力不足のピアノタッチもあって、決して満点の人ではないでしょう。しかしバンドリーダー、あるいはプロデューサー的な感覚は流石というか、この手のハードバップは結局は主流から微妙に外れていたわけですが、それゆえに貴重な楽しみとして、私は偏愛しているのでした。

とにかくB面を聴けば、納得していただけるんじゃないかと思っています。

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ブッカー・リトルの未完成の美

2008-12-07 13:59:41 | Jazz

Booker Little & Friend (Bithlehem)

モダンジャズの輝ける新星でありながら、病魔によってアッという間に天国へ旅立ってしまった黒人トランペッターのブッカー・リトル……。独特のマイナームードが素敵なメロディ感覚、斬新なハーモニーと温かい音色の妙には、残されたレコードを聴く度に胸に迫るものを感じます。

その活動歴では弱冠20歳で大抜擢となったマックス・ローチのバンドレギュラー、あるいはエリック・ドルフィーとの伝説的な双頭バンドでの録音が名演とされていますが、もちろんリーダー盤も全てが素晴らしく、人気盤になっているのは皆様が良くご存じのとおりでしょう。

さて、このアルバムは一般的にはブッカー・リトルのラストレコーディングとされるリーダーセッションで、録音は1961年夏、メンバーはブッカー・リトル(tp)、ジュリアン・プリースター(tb)、ジョージ・コールマン(ts)、ドン・フリードマン(p)、レジー・ワークマン(b)、ピート・ラロッカ(ds) という新進気鋭が参加しています――

A-1 Vectory And Sorrow
 ホーン3人によるアンサンブルと合奏をイントロに、ブッカー・リトルならではのマイナー感覚がたまらないテーマメロディ♪ このあたりは完全に好き嫌いがあると思いますし、これは一種の「アク」なんですが、シャープなリズム隊のバックアップがありますから、アドリブパートは爽快な雰囲気が横溢して結果オーライでしょう。
 正統派のジョージ・コールマン、爆発力を秘めたジュリアン・ブリースター、流麗なブッカー・リトルと続くアドリブソロは何れもがモード節なんですが、今もって斬新なフィーリングがたまりません。
 またドン・フリードマンが、エバンス派としては最も「らしい」雰囲気から脱却した力強さで感動的! 結論から言えば、実はドン・ブリードマンの参加が全篇でキメのスパイスになっている感があります。

A-2 Forvard Fright
 これがまた風変りなテーマメロディというブッカー・リトルのオリジナル曲で、幾何学的な構成と思わせぶりが妙に合致してしまった雰囲気でしょうか……。
 しかしアドリブパートでは、まずブッカー・リトルが十八番のマイナー節♪ 刺激的な「泣き」のフレーズは、どこかしら突き放したような感覚があり、それがクールと言えばミもフタもありませんが、私は好きです。そしてドン・フリードマンの鋭い伴奏も良い感じですねぇ~♪
 もちろんジョージ・コールマンやジュリアン・ブリースターも真摯な好演ですし、ドン・フリードマンのアドリブに至っては短いのが残念無念です。

A-3 Looking Ahead
 初っ端からアップテンポで全力疾走していくバンドの勢い、そしてサビというか中間部でのテンポダウンとアンサンブルにグッと惹きつけられる名演です。
 当然なからブッカー・リトルは作者の強みを活かしきった快演アドリブでツッコミまくりですし、ジョージ・コールマンは後に加わるマイルス・デイビス・クインテット時代を予感させる、そのウネウネと出口を探すような迷い道が、なかなか素晴らしい魅力になっています。またネライがミエミエのジュリアン・プリースターも憎めませんし、ドン・フリードマンが「朝日のように~」を引用した名演アドリブを聞かせれば、ピート・ラロッカは幾分すてばちなドラムソロです!
 おまけにレジー・ワークマンの痛快なウォーキングベースに導かれるラストテーマの爽快感! アンサンブルのハーモニーも新鮮ですし、このセッションの中では白眉のトラックだと思います。

B-1 If I Should Lose You
 このアルバムでは唯一演じられたスタンダード曲♪
 スローなリズム隊のグルーヴも素晴らしい雰囲気ですから、ブッカー・リトルも柔らかくも輝かしい音色でトランペットを響かせれば、もう私なんかは胸キュンで落涙寸前です。
 そして当然ながらアドリブでも「泣き」のフレーズと感極まったような音選びが琴線に触れまくり♪ ドン・フリードマンの伴奏も実に上手いサポートです。
 あぁ、何度聴いても素晴らしいですねぇ~♪

B-2 Calling Softly
 そしてこれまた幾何学的なテーマが一筋縄ではなかない演奏で、ワルツタイムが4ビートとゴッタ煮となって、さらにニコゴリになったような濃密グルーヴがたまりません。
 しかしアドリブパートは実に分かり易く、ブッカー・リトルは如何にものフレーズばかりです。バンド全体のアンサンブルも纏まりがありますし、ジョージ・コールマンの灰色のテナーサックスからジュリアン・ブリースターの温もり系トロンボーンへの受け渡しも、短いながら充実しています。
 そしてここでもドン・フリードマンが実に味わい深いのです。あぁ、もっと長いアドリブが聴けたらなぁ……。

B-3 Booker's Blues
 このアルバムの中では一番ヘヴィなグルーヴが楽しめる変態ブルースです。
 というか、アドリブパートはストレートでありながら、要所に隠された仕掛けがあるようで、煮え切らないサビがついているのですから、この不思議な緊張感は、まさに時代の最先端なんでしょうねぇ。
 ブッカー・リトルの流麗にして斬新なアドリブが圧巻♪ ドン・フリードマンも素晴らしすぎです。

B-4 Matilde
 オーラスは、完全にブッカー・リトルだけの世界というシンミリ系バラード演奏♪
 このマイナーというかネクラなハーモニーとメロディの展開は、重厚なホーンのアンサンブルもありますが、悲壮感に酔っているわけでは決して無いと私は思います。
 正直言えば、青春の哀しみのようなクサイ芝居が実に心地良いのがツライところでもあります……。これがラストレコーディングという意味からも、尚更にせつないのでした。

ということで、冒頭に述べたように実は「未完成」作品のような感じも隠せない演奏集です。ステレオのミックスもそれほど良いとは言えませんし、もうすこし演奏そのものが練られていたらなぁ……、なんて思うこともあります。

しかしブッカー・リトルのアドリブは流石の輝きを放っていますし、新鮮なリズム隊の活躍が、このアルバムを何時までも古びないものにしていると思います。特にドン・フリードマンは最高! このセッションを聴いていると、次にはドン・フリードマンのリーダー盤が聴きたくなること請け合いですよっ♪

そしてブッカー・リトルの青春物語、最終章に落涙です。まずは「If I Should Lose You」だけでも聴いて下さいませ。

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ボビー・ティモンズが実力の初リーダー盤

2008-12-06 13:24:55 | Jazz

This Here Is Bobby Timmons (Riverside)

ゴスペルファンキーなハードバップのピアニストは大勢出現していますが、その第一人者といえば、やっぱりボビー・ティモンズでしょう。ジャズメッセンジャーズやキャノンボール・アダレイのバンドレギュラーとして、「Moanin'」「So Tired」「Dat Dere」「This Here」等々の強烈に真っ黒なソウルヒットを作曲し、そこで響かせたガンガンにコテコテなピアノは永遠に不滅だと思います。

このアルバムはそんなボビー・ティモンズの上昇期に作られた初リーダー盤で、録音は1960年1月13&14日、メンバーはボビー・ティモンズ(p)、サム・ジョーンズ(b)、ジミー・コブ(ds) という剛力トリオ――

A-1 Thes Here
 ワルツタイムで演じられるゴスペル風味のファンキー曲で、キャノンボール・アダレイのバンドに在籍中の1959年秋に吹き込まれたライブ盤「In San Francisco (Riverside)」を見事にヒットさせた原動力として、そのゴリゴリと蠢くピアノは圧巻でした。
 しかしここでは肩の力が上手い具合に抜けたライトタッチの演奏で、それは文字通りの「肩すかし」気味なんですが、短い演奏時間にトリオが一体となってガンガンぶっつけてくる硬質のグルーヴがハードエッジ!
 サム・ジョーンズとジミー・コブのコンビって、意外に相性が良いと納得でした。

A-2 Moanin'
 さて、これも説明不要というジャズメッセンジャーズの大ヒット曲にしてゴスペルファンキー不滅のメロディですが、神を恐れず、こういうテーマを臆面も無く書いたボビー・ティモンズには流石のソウルを感じます。
 もちろんアドリブは当時、連日連夜演奏していたであろう十八番のフレーズがテンコ盛り♪ わかっちゃいるけどやめられないグルーヴには、どうしてもシビレさせられますねっ♪

A-3 Lush Life
 デューク・エリントン楽団の代表曲というジェントルなメロディを、しかもソロピアノで演じるというのは、ファンキーなボビー・ティモンズのイメージからは遥かに遠い目論見として、私なんかは演目を見ただけで嫌な予感に満たされていたのですが……。
 しかし結果は素晴らしくもジャズ魂に満ちた快演♪ その強めのピアノタッチで優しいメロディを奏でていく思わせぶりな展開もイヤミがありませんし、素直な感情表現にはボビー・ティモンズの別の顔を見たような感動があるというは、大袈裟ではないでしょう。

A-4 The Party's Over
 そして場面は再びゴスペルファンキーな世界へ逆戻りし、あまり有名ではないスタンダード曲をハードバップで煮〆たアップテンポの快演となります。ジミー・コブのズバッとキメるドラムスも気持ち良く、ブンブンブンのサム・ジョーンズにビリビリと転がるボビー・ティモンズのピアノからは、素敵なモダンジャズのエッセンスがたっぷりと放出されるのです。
 所々に顔を出すレッド・ガーランドっぽいフレーズも、ボビー・ティモンズ独特の硬いピアノタッチがありますから、意想外の面白さでしょうね。

A-5 Prelude To A Kiss
 これまたデューク・エリントンが書いた有名なメロディをジンワリと演じるトリオの名演です。それはパド・パウエルの影響を隠さない雰囲気が濃厚で、ボビー・ティモンズの器用な一面がここでも感じられますが、アナログ盤特有の「Aラス」というパートとしては成功しているのではないでしょうか。
 けっこう何度でも聴きたくなる演奏だと、私は思います。特にサム・ジョーンズのペースの入り方には、グッとシビレます♪

B-1 Dat Dere
 こうしてB面に入ると、またまたボビー・ティモンズが畢生のファンキーメロディ♪ というか、このリズムのニュアンスとファンキーなビートのアクセントがクセになる名曲だと思います。
 そして当然ながらゴリゴリと盛りあがっていく演奏は、このアルバムのハイライトでしょうねっ♪ ファンキーなピアノのフレーズを見事にサポートしていくサム・ジョーンズのペース、ゴスペルの雰囲気を活かしつつも新しいピートを敲き出すジミー・コブの強力なドラムス!
 さらにサム・ジョーンズのギスギスしたペースソロが、もう最高! 脂っこさも、ほどほどに美味しいのが実に良い雰囲気です♪  

B-2 My Funny Valentine
 そしてもうひとつのハイライトが、この名曲名演です。
 あくまでも個人的な感想なんですが、ビル・エバンスっぽいアプローチが驚くほどにキマっているんですねぇ~~~♪ テーマメロディを最初はソロピアノで聴かせ、アドリブパートからはベースとドラムスを呼び込んでのグイノリも、意外なほどに歌心優先主義が表出していて素晴らしいかぎりです!
 ジミー・コブのブラシも自己主張が強く、要所を締めるサム・ジョーンズのペースも良い感じ♪ ラストテーマの幾分大袈裟のところも憎めませんし、これは同曲の名バージョンのひとつだと確信しています。

B-3 Come Rain Or Come Shie
 これも良く知られたスタンダード曲を気楽にスイングさせた演奏で、トリオの纏まり具合も流石!
 ですからボビー・ティモンズも気負うことなく十八番のファンキーフレーズでアドリブを展開すれば、どっしり構えて4ビートのウォーキングを響かせるサム・ジョーンズが実は一番目立っていたりします。もちろんベースソロも地味ながらエグイですよ♪ このあたりはヴァン・ゲルダーではない、リバーサイド特有の録音が私の好みというわけです。

B-4 Joy Ride
 ジミー・コブの景気の良いドラムソロをイントロに弾けるピアノが痛快なハードバップ! 作曲はもちろんボビー・ティモンズですが、「曲」というよりは、自身のアドリブフレーズを抽出したようなテーマですから、全篇がアドリブみたいな潔さがたまりません。
 あぁ、何時までもエクスタシー寸前の快感が続くというような展開から、ピアノ対ドラムスの対決の場では、ジミー・コブが容赦の無いビシバシの責めで本気度が高く、アッという間に聴き終えてしまうのでした。

ということで、ゴスペルファンキーというボビー・ティモンズの一般的なイメージはもちろん、正統派モダンジャズのピアニストとしても素晴らしい才能が見事に発揮された好盤だと思います。

特にスタンダード曲の解釈には、「粋」というよりも「ピュア」なジャズ魂に好感が持てるほどの名演で、ドロドロにコテコテを期待していたサイケおやじには、思いっきり目からウロコでした。

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ハーマン・フォスターを好きになる

2008-12-05 13:45:22 | Jazz

Gravy Train / Lou Donaldson (Blue Note)


主役よりも脇役を好きになって許されるのが芸能界の良いところで、特にジャズの世界では完全に許される「掟」じゃないでしょうか。

と、今日もまた「主役と脇役」ネタでご機嫌をうかがう事になりました。

で、本日ご紹介のアルバムは、ブルーノートの看板スタアだったルー・ドナルドソンのリーダー盤ですが、個人的には助演参加のハーマン・フォスターを聴くためにあるといって過言ではありません。

皆様がご存じのように、ルー・ドナルドソンとハーマン・フォスターの2人は1950年代後半からレギュラーバンドの主従関係にあり、共演したヒットアルバムも例えば「Blues Walk (Blue Note)」に代表されるような、ガイド本の定番傑作も出しているほどに相性は最高です。

しかしそれゆえに新しい展開を求めたのか、この2人は1962年に入るとレコーディングではコンビを解消し、ルー・ドナルドソンはオルガン奏者が要となったリズム隊と共演していくことになるのですが、このアルバムはその一応の終焉を収めた好盤♪

録音は1961年4月27日、メンバーはルー・ドナルドソン(as)、ハーマン・フォスター(p)、ベン・タッカー(b)、デイヴ・ベイリー(ds)、アレック・ドーシー(pre) という気心の知れた面々――

A-1 Gravy Train
 ルー・ドナルドソンが書いたアーシー&ファンキーなブルース曲で、いきなりグッと重心の低いベン・タッカーのペースのリフ、チャカポコしながら猥雑なパーカッション、粘っこくてシャープなドラムスが最高の雰囲気を作ります。
 そしてルー・ドナルドソンが泥臭いアルトサックスでシンプルなテーマメロディを吹き出せば、何時の間にか傍にはハーマン・フォスターのピアノが寄り添っているという、実に美しい光景が♪♪~♪
 さらに演奏はマーチビートがメインのグルーヴィなリズム隊に主導され、ルー・ドナルドソンがソウルフルなフレーズを積み重ねていきますが、続くハーマン・フォスターがジンワリと醸し出すファンキー衝動をグイグイと盛り上げ、ブロックコードとオルガンっぽいピアノタッチで魂の高揚を見事に表現するのです。
 あぁ、ここは何度聴いても興奮させられます!
 告白すれば、私が最初に聴いたルー・ドナルドソンのリーダー盤は、これが最初だったんですが、このハーマン・フォスターのピアノには同系のボビー・ティモンズ以上に熱くさせられ、以降しばらくの間、魘されるほどでした♪♪ もちろんジャズ喫茶では頻繁にリクエストもしていたほどです。

A-2 South Of The Border
 一転して軽快に吹きまくったルー・ドナルドソンの快演♪
 曲はお馴染み、一抹の哀愁を含んだメロディが心地良く、パーカッションの参加ゆえにラテンリズムと4ビートのゴッタ煮が、これまた気持ち良すぎます♪ 特にルー・ドナルドソンのアドリブパートでは正統派4ビートの痛快さが顕著ですし、ハーマン・フォスターのピアノは飛び跳ねとオルガンタッチのブロックコード弾きがミスマッチの快感となるのですから、たまりませんねっ♪

A-3 Polka Dots And Moonbeams
 そしてこれが些かクサイ芝居という艶やかな名演です。
 原曲の甘いメロディを活かしきったルー・ドナルドソンのアルトサックスが実に素晴らしく鳴りますねぇ~♪ 寄り添うベン・タッカーのペースも強い音出しが印象的ですし、意外にもジェントルなハーマン・フォスターのピアノも良い感じ♪
 さらにラストテーマではルー・ドナルドソンのミエミエの演技というか、如何にものケレンが賛否両論かもしれませんが、その最後の無伴奏パートが私は憎めずに大好きです。
 これは聴いてのお楽しみっ♪

A-4 Avalon
 パーカッションの参加があって、最高に「らしい」というルー・ドナルドソン! 単なるパーカー派のアルトサックス奏者とは一線を隔した快楽性が、この人の持ち味なんでしょうねぇ~。本当に楽しいアドリブは、こんなにジャズが分かって良いのか!? なんて自問自答してしまうほどです。
 もちろん、そのあたりはハーマン・フォスターにも共通する長所かもしれませんねぇ。

B-1 Candy
 さてB面の初っ端が、これまた素敵な名演で、ズッシリと粘っこいグルーヴを醸し出すリズム隊とメロディを大切にしたルー・ドナルドソンのアルトサックスが絶妙のコンビネーションというテーマだけでシビレます。
 そしてハーマン・フォスターがハードバップの楽しさを完全披露する、実にゴスペルファンキーなピアノを存分に聞かせてくれます。オルガンタッチのスタイルは、好きな人に宝物を見つけたような気分になるでしょう♪
 さらにルー・ドナルドソンが会心のアドリブというか、このアルバムでは一番纏まった十八番のファンキー節ですから、思わずニンマリさせられますよ。ラストテーマへの持って行き方も自然体の絶妙さです。

B-2 Twist Time
 ルー&ハーマン組のファンキー熱がジワジワと高くなり、最後にはドロドロになっていくブルースの饗宴♪ じっくりと粘っこく、スイングしまくったリズム隊も流石の存在です。特にハーマン・フォスターは、本当に唯一無二の素晴らしさで、これが嫌いなハードバップファンは居ないと思われるほどです。あぁ、このブロックコードの鳴り響きは最高!

B-3 Glory Of Love
 さて、オーラスは、楽しくて、やがて悲しき別れかな、というせつないメロディが全篇に横溢した名演です。ルー・ドナルドソンの思わせぶりが入ったフェイクとアドリブの旨みは最高の美味しさですよっ♪ 適度なブルースフィーリングが絶妙のスパイスでもあります。
 またそのあたりの心情を充分に理解して、これも忌憚のない心情吐露を爽やかに演じるハーマン・フォスターも潔く、短い演奏ですが、アルバムの締め括りはこれしかなかったと納得してしまうのでした。

ということで、人気盤が多いルー・ドナルドソンの諸作中では、それほど目立つアルバムではないかもしれませんが、ハーマン・フォスター中心に聴けば、これほどの名演はありません。

もちろん、この盲目のピアニストはルー・ドナルドソンのバンドに入ってから人気を集め、リーダー盤も何枚か出していますから、ジャズ者には大切にしておきたいマニアックな存在でもありますが、まずはこのアルバムのA面ド頭「Gravy Train」を聴いて下さいませ! 必ずシビレますよっ♪

う~ん、なんというか、お目当ての女の子とグループ交際にこぎつけたら、彼女が連れてきた友達の方を好きになってしまったというか、そんな決して浮気では無いピュアな恋心みたいな……。上手くいえませんが、このアルバムってそんな感じです。

ごめんね、ルー、ハーマン・フォスターが好きなんだ♪

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スティット&クインシーのスターダスト♪

2008-12-04 12:29:57 | Jazz

Sonny Stitt Plays Arrangements From The Pen Of Quincy Jones (Roost)

世の中には主役を立てつつ、自分もしっかり目立ってしまう人が確かにいます。そんな目論見がミエミエな場合はなんともイヤミな事ではありますが、逆に協調性を大切にしての結果らなら、決して憎めないでしょう。

例えば本日ご紹介のアルバムは、アドリブ名人のソニー・スティットを主役にクインシー・ジョーンズがアレンジとプロデュースを手掛けた名盤の中の大名盤ですが、これが何故にそうなのかと言えば、2人の立場が実に見事な主従関係になっているからではないでしょうか? もちろんそれは、どちからどうのという事ではありません。建前は「主従」の関係になっていても、本音は「協調」という現実は、一般社会での理想的な常識でもありますからねぇ。

録音は1955年9月30日&10月17日、メンバーはソニー・スティット(as,ts)を主役に、サド・ジョーンズ(tp)、ジョー・ニューマン(tp)、アーニー・ロイヤル(tp)、ジミー・ノッティンガム(tb)、J.J.ジョンソン(tb)、ジミー・クリーヴランド(tb)、セルダン・パウエル(ts,as,fl)、アンソニー・オルテガ(fl,as)、フレディ・グリーン(g)、ハンク・ジョーンズ(p)、オスカー・ペティフォード(b)、ジョー・ジョーンズ(ds) 等々という、主力は当時のカウント・ベイシー楽団の面々で、もちろんアレンジャーのクインシー・ジョーンズはカウント・ベイシーとも関わりがあったのですから、納得の名演ばかり――

A-1 My Funny Valentine
 膨らみのあるハーモニーに彩られたソニー・スティットのサックスが、ゆったりしたテンポで優しいメロディを優雅に歌いあげる、そのテーマ部分を聴いただけで、このアルバムは間違いなく名盤だと実感されるでしょう。
 ソニー・スティットが十八番とするダブルテンポのオカズのフレーズとか、マイナースケールを使わない大らかなアドリブの妙技が、この1曲の中に凝縮された感じです。実際、それは上手過ぎて、イヤミがギリギリのところまで来ていますが、この「ギリギリ」が出来そうで出来ないところでしょうねぇ~~♪
 私は素直にシビレます。

A-2 Sonny's Bunny
 ソニー・スティットのグルーヴィなオリジナル曲が、クインシー・ジョーンズの完全なるモダンベイシー調のアレンジによって、さらに痛快な演奏になっています。
 フレディ・グリーンのリズムギター、素晴らしくジャズっぽいホーンのアレンジ、ハンク・ジョーンズのソフトスイングも冴えまくりですから、主役のソニー・スティットも明朗闊達に吹きまくり♪

A-3 Come Rain Or Come Shine
 これがまた膨らみのある編曲が素晴らしすぎる演奏で、その中を縦横無尽にメロディをフェイクするソニー・のスティット名人芸が楽しめるという、まさに2人の協調関係が最も良い成果となった快演じゃないでしょうか。
 良く言われるようにソニー・スティットのアドリブスタイルは、偉大なるチャーリー・パーカーに酷似していますが、そこまでのエキセントリックな雰囲気やハードなドライヴ感は無く、むしろ適度にリラックスしたスリルが上手いところだと思います。そうした良さが、特にこの演奏では顕著に楽しめるのでした。

A-4 Love Walked In
 スタンダード曲を気楽にスイングさせた楽しい演奏で、これもクインシー&スティットのコンビネーションが最高です! 自然体でノビノビとアドリブを演じるソニー・スティットには何のためらいも無い雰囲気で、本当に素晴らしいですねぇ~~♪

B-1 If You Could See Me Now
 さてさて、これはチャーリー・パーカーが十八番としてスタンダード曲ですから、常にその偉人と比較され続けていたソニー・スティットの演奏は如何に!?
 という興味と懸念が最大の聴きどころかもしれませんが、結果は決して居直りではないソニー・スティットの名人芸が存分に味わえる名演になっています。とにかくこの歌心、メロディフェイクの上手さは、もうひとりの天才の証明じゃないでしょうか。
 余裕さえ滲む倍テンポのアドリブフレーズがイヤミにならないのも、流石だと思います。

B-2 Quince
 如何にも「らしい」クインシー・ジョーンズのオリジナル曲で、まずはミディアムテンポで名人芸を聞かせてくれるオスカー・ペティフォードのペースソロ、続くハンク・ジョーンズのジェントルなピアノのアドリブが、いきなり最高の雰囲気を作り出しています。
 そしてジンワリとしたブルースフィーリングとグルーヴィなムードを醸し出すホーンのアンサンブルは、まさに当時のクインシー・ジョーンズが得意技! その中でアドリブを演じるサド・ジョーンズはソニー・スティットが登場するまでの露払いとしては素晴らしすぎますし、肝心のソニー・スティットにしても、力まない軽さが逆に熱いところです。

B-3 Stardust
 これがお目当てのファンも多いという超有名曲にして大名演♪ ストレートに素敵なメロディを活かすアレンジも秀逸ですし、何よりもソニー・スティットの分かっているサービス精神というか、変に気取らない姿勢のメロディフェイクが絶品です。
 あぁ、この分かり易さが多くのジャズファンを逆に戸惑わせるんでしょうか……。確かにちょっと気恥ずかしいところもありますが、やっぱり素直に「良さ」が心に染み入るんじゃないかと思いますねぇ~♪

B-4 Lover
 そして大団円はアップテンポで痛快なモダンジャズの典型的な演奏です。
 バンド全体も疑似カウント・ベイシー楽団というか、ソニー・スティットがカウント・ベイシー楽団にゲスト出演したら!? という素晴らしき演出がたまりません♪ もちろんソニー・スティットのアドリブは流麗にして和みのスリルに満ちています。 

ということで、当時は弱冠21歳だったクインシー・ジョーンズが上手すぎるアレンジ、そしてその場の仕切りの見事さに、まずは感服させられます。

もちろんソニー・スティットも自分に忠実な姿勢が潔く、このあたりはゲスの勘ぐりかもしれませんが、このセッション前の同年5月には、ソニー・スティットが比較されまくったチャーリー・パーカーが亡くなった事実となんらかの心理的影響関係があったように思いますが、いかがなもんでしょう?

チャーリー・パーカーが活躍していた時代のソニー・スティットは、意図的にアルトサックスよりはテナーサックスを吹くことが多かったと言われているほどの自意識過剰な現実も、ここでは本当にノビノビと演奏した名人サックスプレイヤーの魅力となって、グッと惹きつけられます。

正直言えば、ソニー・スティットは膨大な録音を残した天才プレイヤーですが、常に安定した上手すぎる演奏ゆえに、聴き飽きるという贅沢な気分にさせられる天才です。つまり何時も同じだから、いろんなアルバムを集めても……、というわけで、決してコレクター心理を刺激される対象では無いと思います。

その意味で、何か1枚と言われれば、このアルバムか、あるいはパド・パウエルと白熱の共演を繰り広げた「Stitt, Powell & J.J. (Prestige)」が定番でしょう。特にリアルジャズの緊張感と迫力がいっぱいの後者は、完全に歴史的な名盤であり、その対極的な楽しさや和みでは、この作品だと私は思います。

リズム隊ではジョー・ジョーンズとフレディ・グリーンの参加が、些か古臭いイメージかもしれませんが、これが実に見事なモダンジャズのビートとグルーヴを生み出したという、流石の不変性は「クインシーの魔法」かもしれません。

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JuttaとZootのコートにすみれ♪

2008-12-03 12:09:34 | Jazz

Jutta Hipp With Zoot Sims (Blue Note)

主役よりも脇役が目立ってしまうのは芸能界の常であり、一般社会でも珍しくないわけですが、しかし個人芸がウリのジャズの世界では、その功罪半ばする事象さえ許されてしまうのではないでしょうか。

例えば本日ご紹介のアルバムは、その最たるものだと思います。

主役はドイツから渡米してきた美人ピアニストのユタ・ヒップなんですが、実は共演者のズート・シムズが大名演! あえてジャケットに「with zoot sims」とタイトルクレジットされたのが当然という素晴らしさです。

録音は1956年7月28日、メンバーはジェリー・ロイド(tp)、ズート・シムズ(ts)、ユタ・ヒップ(p)、アーメド・アブダル・マリク(b)、エド・シグペン(ds) という、ブルーノートにしては珍しい人選です――

A-1 Just Blues
 いきなりズート・シムズがノリまくったブルースを聞かせてくれる大名演♪ もう全てが歌のアドリブフレーズとドライヴ感満点の快適グルーヴには、思わず「指パッチン」の世界です♪
 もちろんこのセッションはユタ・ヒップの名義になっていますが、こりゃ~、どう聴いてもズート・シムズが主役でしょうねぇ~。失礼ながら、ついつい同じブルーノートにあるキャノンポール・アダレイの「Somethin' Else」、あの一曲目「枯葉」を思い出してしまったですよ。
 と、すれば、このアルバムもプロデューサーのアルフレッド・ライオンがズート・シムズを録音したくて仕組んだ疑似リーダーセッションか!? これはあくまでもサイケおやじの妄想ですから、決して信じないでほしいとは言え、う~ん……。
 ちなみにユタ・ヒップはドイツ時代のクールスタイルから、ここではハードバップ流儀に方針転換を試みていますが、同時期に我が国から渡米した秋吉敏子に比べると、些か迫力が不足していると感じます。
 しかしリアルタイムでの彼女は、そのクールビューティな佇まいもあり、業界では様々な思惑も絡んだ人気があったそうで、ブルーノートからもリーダー盤がこれ以前に発売されています。

A-2 Violets For Your Furs
 これは私の大好きなメロディのスタンダード曲で、テナーサックスではジョン・コルトレーンやJ.R.モンテローズの大名演が残されていますが、このズート・シムズのバージョンも素晴らしすぎて涙がボロボロこぼれます♪
 まあ、ここであえて「ズート・シムズの」と書いた理由は言わずもがな、その繊細で内気な感情表現、そしてテナーサックスの音色の魅力も、ほど良いサブトーンの使い方に顕著ですし、とにかく泣きのメロディフェイクやアドリブフレーズには胸キュンです。
 しかし主役のユタ・ヒップも、ここでは本領発揮というか、優しく美しいピアノタッチと恋愛の機微を表現したようなアドリブフレーズのせつなさなが♪♪~♪
 まさに粋な恋の儚さを綴っていく大人の世界だと思います。特にズート・シムズは、自分の差し出したスミレの花を、相手に受け取ってもらえなくても、私はそれで良いんですというような、ちょっとネクラな感情の微妙が良いムード……。実にハードボイルドだと思います。

A-3 Down Home
 モダンスイングっぽいメロディが楽しいジェリー・ロイドのオリジナル曲で、快適なテンポでドライブしまくるズート・シムズが、ここでも最高です。もちろん十八番のアドリブフレーズは出し惜しみしていません!
 しかし続くユタ・ヒップが迷い道というか、明らかに自分の音楽性とは異なる雰囲気だったんでしょうねぇ……。それでも懸命にハードバップしようと頑張るのですが、些かの無理がイジラシイというか、ついつい守ってあげたくなるような……。
 このあたりのムードはセッション参加メンバーにも伝染しているのでしょうか、アブダル・マリクのペースが殊更に強靭なウォーキングに徹すれば、ジェリー・ロイドもクールな熱演が空回り……。
 それでもラストテーマに向けてのソロチェンジとか、流石の纏まりを聞かせてくれます。

B-1 Almost Like Being In Love
 有名スタンダード曲のリラックスした解釈という、まさにズート・シムズが十八番のスイングが存分に楽しめます。もう上手すぎるメロディフェイクのテーマ部分だけで、グッとシビレますよ♪
 そしてアドリブパートの歌心とノリの良さ、サブトーンを要所で使うテナーサックスの音色の魅力が全開です。ユタ・ヒップの地味な伴奏も、ここでは結果オーライでしょう。
 ですからジェリー・ロイドもシンプルなアドリブで、ちょっと不調のマイルス・デイビスみたいなムードが憎めません。
 気になるユタ・ヒップは、なかなかに自己の表現が上手くいったような、あまり冴えないフレーズが逆に新鮮という苦しい言い訳も許せるんじゃないでしょうか。

B-2 Wee-Dot
 J.J.ジョンソンが書いたハードバップの有名ブルース曲ですから、ここでも熱いムードは必須のはずですが、実際にはズート・シムズだけが浮いてしまったような……。つまりハードドライブなテナーサックスに対し、あまりジャストミートしていないリズム隊が……。
 しかしユタ・ヒップのアドリブパートになると、その場は急に活気づいたというか、ユタ・ヒップ自身が相当に入れ込んだ雰囲気で、かなり変態的なアドリブフレーズが聞かれます。
 また続くジェリー・ロイドもノリが良く、終盤での2管の絡みは定番の楽しさでしょうね。ズート・シムズも、このセッションでは頻繁に使う十八番のフレーズで対抗する潔さです。

B-3 Too Close For Confort
 これはリアルタイムでサミー・デイビスJr.がヒットさせていた有名曲で、インストではアート・ペッパーのバージョンが代表的な名演でしょうが、ここでのズート・シムズも素晴らしいかぎり!
 力強いミディアムテンポのグルーヴを提供するリズム隊の纏まりも良く、実はこのトリオは実際にライブ活動もやっていたと言われていますから、ユタ・ヒップのアドリブも自分のペースで安定感があります。
 またハスキーな音色でシンプルなアドリブを聞かせるジェリー・ロイドもシブイですねぇ♪

ということで、明らかにズート・シムズを楽しむアルバムだと思います。そこで最初に書いた妄想ですが、もしアルフレッド・ライオンがズート・シムズのレコードを作るためにユタ・ヒップをダシに使ったとしたら、いやはやなんともです。

しかし当時のブルーノート周辺で関わりのあったピアニストはホレス・シルバーやウイントン・ケリー、あるいはエルモ・ホープあたりでしたから、とてもモダンスイング王道のズート・シムズと相性が良いとは想像も出来ません。

そこでユタ・ヒップの登板となったのかもしれません。そして結果は大成功!

もし私の妄想がそれなりの事実だったとしたら、アルフレッド・ライオンが後年、マイルス・デイビスのレコーディングを行うためにキャノンボール・アダレイをリーダーにした「Somethin' Else」の前例かもしれないという、些か考古学的な楽しみのあるのでしょうか。

まあ、これはあくまでも私の妄想ですから、念のため。

肝心のユタ・ヒップは、こういうハードバップ系の演奏よりも、それ以前のクールスタイルの方が私の好みですから、ブルーノートでは2枚残されているトリオでの人気ライブ盤も??? なんですが、このアルバムだけは愛聴しています。

特に「Violets For Your Furs」は絶品ですよ♪♪~♪ 所謂「ズートの56年物」としても最高だと思います。

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熱血! ホレス・シルバーのライブ盤

2008-12-02 11:50:59 | Jazz

Doin' The Thing / Horace Silver (Blue Note)

人生を振り返ると、あれが自分にとって一番良い時期だったという感慨が誰にでもあると思うのですが、それが第三者から見るとズレていることが少なくありません。

例えばホレス・シルバーというハードバップの作ったといって過言ではない黒人ピアニストの場合、やはり1960年代中盤ぐらいまでが全盛期だったと私は思うのですが、本人にとってはどうだったんでしょう……。

しかしレコードという媒体に記録された証拠には、やはり否定出来ないものがあります。もちろんそれは悲喜こもごもではありますが、本日の1枚には間違いなくホレス・シルバーの頂点があるんじゃないでしょうか?

録音は1961年5月19&20日、ニューヨークの有名クラブ「ヴィレッジ・ゲイト」でのライブセッションで、メンバーはブルー・ミッチェル(tp)、ジュニア・クック(ts)、ホレス・シルバー(p)、ジーン・テイラー(b)、ロイ・ブルックス(ds) という当時のレギュラーバンドです――

A-1 Filthy McNasty
 今夜はライブレコーディング、拍手して首やケツを振って楽しんでください♪
 なんて、ホレス・シルバーが挨拶してからは、調子の良すぎるファンキー大会です。バンド全員が合いの手を入れることに専心したというか、リードをとっているアドリブプレイヤーよりはバックの面々が目立つという素晴らしさ! 特にホレス・シルバーの伴奏は、それだけ聴いていてもウキウキしてくるほどです。
 もちろんブルー・ミッチェルやジュニア・クックも分かり易いフレーズと単純なコードしか吹かない潔さですし、ロイ・ブルックスの弾んだドラミングとか、理屈抜きにノリノリの演奏になっています。
 またホレス・シルバーのピアノは、ゴスペルとブルースをさらに単純化したようなグルーヴがファンキーの真相を追求しているのかもしれませんね♪
 そして演奏終了後、鳴りやまない拍手の中でのメンバー&曲紹介には、その場の熱気が今もって凄いと実感されますよっ♪

A-2 Doin' The Thing
 ホレス・シルバーの紹介どおり、アルバムタイトル曲はアップテンポのマイナーブルースで、このバンドが特有のビートに彩られたリズム隊のリフが嬉しいですねぇ~♪ もちろんテーマメロディも分かり易いので、アドリブパートも明快そのものです。特に終盤のソロチェンジは自分の出番が待ちきれないほどの熱さに満ちています♪
 しかしここでも私が本当にシビレるのは、リズム隊の強烈な煽りとグルーヴの物凄さです。もう、これ以上ないというラフ&タイトな纏まりはバンドが全盛期の証じゃないでしょうか。

B-1 Kiss Me Right
 如何にもファンキーな前節のリフ、そして妙な明るさが滲むフックの効いたメロディがイカシています。そしてテーマからグイノリ4ビートのアドリブという展開は、実にハードバップの黄金律が楽しめる演奏です。
 ただしそれゆえにジュニア・クックもブルー・ミッチェルも、些かお気楽度が高いアドリブで……。リズム隊にもA面のような緊張感が足りないと感じるのは私だけでしょうか。
 このあたりは、他の演目が凄すぎた所為かもしれませんね。ホレス・シルバーはそんなバンドをなんとか引き締めんと熱演しているのですが……。

B-2 The Gringo ~ The Theme
 という前曲のリラックスムードをブッ飛ばすような快演が、これです。
 イントロの混濁したリズム的興奮、ラテンビートが効いたテーマリフ! そして4ビートが交錯してのゴッタ煮グルーヴが痛快なアドリブパート♪ ジュニア・クックが前傾姿勢で突進すれば、ブルー・ミッチェルは「どうにもとまらない」という山本リンダ現象ですよっ! バックではほとんどドラムソロ状態のロイ・ブルックスも強烈な存在感ですねぇ~。
 さらにホレス・シルバーは十八番のラテンビートグルーヴをモダンジャズ本流の4ビートに合体させる、その強引なノリが激ヤバで、まさに一期一会の名演だと思います。
 そしてクライマックスはお待ちかねというロイ・ブルックスのドラムソロ! 微妙な軽さが心地良い分かり易さで、観客からも拍手喝采が♪
 演奏はこの後、ラストテーマからバンドテーマへと流れ込みますが、実はこの瞬間こそがアルバムのハイライト! 何度聴いても浮かれてしまう私を自覚してしまいます。

ということで、あまりにも分かり易い演奏ばかりなので、聴いていて飽きるのも本音です。しかしここに記録された「熱気」は間違いなく本物でしょう。それはモダンジャズ、そしてホレス・シルバー全盛期の証だと思います。

当時のホレス・シルバーのバンドは、例えば同時期のジャズメッセンジャーズに比べても決して超一流のメンツが居たとは言えませんが、そのあたりが大衆的なB級グルメ♪ なにも難しい時代の最先端をやることばかりがジャズの使命ではないと痛感されます。特にA面ド頭「Filthy McNasty」でのホレス・シルバーのアドリブからラストテーマに繋がっていくところには、それを強く感じますねぇ~♪ 鳴りやまない観客の拍手が、それを物語っているとも感じます。

おそらくこれが発売されたリアルタイムでは、我が国ジャズ喫茶でも忽ちの人気盤となったはずですが、それが1960年代末から1970年代には、時代遅れの象徴とされてしまった気がしています。

不変性が低いというのは流行物の宿命ではありますが、思えばホレス・シルバーほどの看板スタアが、その全盛期の公式ライブ盤これっきり! というのは驚くべき事実です。しかもバンドテーマ以外はピカピカの新演目だったのですから、その意気込みが見事に熱演に繋がったのもムベなるかな!

今日聴いてみると、「時代遅れが素晴らしい」という逆説的不変性に圧倒されるアルバムだと思います。つまり良いものは、良いんですねぇ~~♪

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