■Sonny Stitt Plays Arrangements From The Pen Of Quincy Jones (Roost)
世の中には主役を立てつつ、自分もしっかり目立ってしまう人が確かにいます。そんな目論見がミエミエな場合はなんともイヤミな事ではありますが、逆に協調性を大切にしての結果らなら、決して憎めないでしょう。
例えば本日ご紹介のアルバムは、アドリブ名人のソニー・スティットを主役にクインシー・ジョーンズがアレンジとプロデュースを手掛けた名盤の中の大名盤ですが、これが何故にそうなのかと言えば、2人の立場が実に見事な主従関係になっているからではないでしょうか? もちろんそれは、どちからどうのという事ではありません。建前は「主従」の関係になっていても、本音は「協調」という現実は、一般社会での理想的な常識でもありますからねぇ。
録音は1955年9月30日&10月17日、メンバーはソニー・スティット(as,ts)を主役に、サド・ジョーンズ(tp)、ジョー・ニューマン(tp)、アーニー・ロイヤル(tp)、ジミー・ノッティンガム(tb)、J.J.ジョンソン(tb)、ジミー・クリーヴランド(tb)、セルダン・パウエル(ts,as,fl)、アンソニー・オルテガ(fl,as)、フレディ・グリーン(g)、ハンク・ジョーンズ(p)、オスカー・ペティフォード(b)、ジョー・ジョーンズ(ds) 等々という、主力は当時のカウント・ベイシー楽団の面々で、もちろんアレンジャーのクインシー・ジョーンズはカウント・ベイシーとも関わりがあったのですから、納得の名演ばかり――
A-1 My Funny Valentine
膨らみのあるハーモニーに彩られたソニー・スティットのサックスが、ゆったりしたテンポで優しいメロディを優雅に歌いあげる、そのテーマ部分を聴いただけで、このアルバムは間違いなく名盤だと実感されるでしょう。
ソニー・スティットが十八番とするダブルテンポのオカズのフレーズとか、マイナースケールを使わない大らかなアドリブの妙技が、この1曲の中に凝縮された感じです。実際、それは上手過ぎて、イヤミがギリギリのところまで来ていますが、この「ギリギリ」が出来そうで出来ないところでしょうねぇ~~♪
私は素直にシビレます。
A-2 Sonny's Bunny
ソニー・スティットのグルーヴィなオリジナル曲が、クインシー・ジョーンズの完全なるモダンベイシー調のアレンジによって、さらに痛快な演奏になっています。
フレディ・グリーンのリズムギター、素晴らしくジャズっぽいホーンのアレンジ、ハンク・ジョーンズのソフトスイングも冴えまくりですから、主役のソニー・スティットも明朗闊達に吹きまくり♪
A-3 Come Rain Or Come Shine
これがまた膨らみのある編曲が素晴らしすぎる演奏で、その中を縦横無尽にメロディをフェイクするソニー・のスティット名人芸が楽しめるという、まさに2人の協調関係が最も良い成果となった快演じゃないでしょうか。
良く言われるようにソニー・スティットのアドリブスタイルは、偉大なるチャーリー・パーカーに酷似していますが、そこまでのエキセントリックな雰囲気やハードなドライヴ感は無く、むしろ適度にリラックスしたスリルが上手いところだと思います。そうした良さが、特にこの演奏では顕著に楽しめるのでした。
A-4 Love Walked In
スタンダード曲を気楽にスイングさせた楽しい演奏で、これもクインシー&スティットのコンビネーションが最高です! 自然体でノビノビとアドリブを演じるソニー・スティットには何のためらいも無い雰囲気で、本当に素晴らしいですねぇ~~♪
B-1 If You Could See Me Now
さてさて、これはチャーリー・パーカーが十八番としてスタンダード曲ですから、常にその偉人と比較され続けていたソニー・スティットの演奏は如何に!?
という興味と懸念が最大の聴きどころかもしれませんが、結果は決して居直りではないソニー・スティットの名人芸が存分に味わえる名演になっています。とにかくこの歌心、メロディフェイクの上手さは、もうひとりの天才の証明じゃないでしょうか。
余裕さえ滲む倍テンポのアドリブフレーズがイヤミにならないのも、流石だと思います。
B-2 Quince
如何にも「らしい」クインシー・ジョーンズのオリジナル曲で、まずはミディアムテンポで名人芸を聞かせてくれるオスカー・ペティフォードのペースソロ、続くハンク・ジョーンズのジェントルなピアノのアドリブが、いきなり最高の雰囲気を作り出しています。
そしてジンワリとしたブルースフィーリングとグルーヴィなムードを醸し出すホーンのアンサンブルは、まさに当時のクインシー・ジョーンズが得意技! その中でアドリブを演じるサド・ジョーンズはソニー・スティットが登場するまでの露払いとしては素晴らしすぎますし、肝心のソニー・スティットにしても、力まない軽さが逆に熱いところです。
B-3 Stardust
これがお目当てのファンも多いという超有名曲にして大名演♪ ストレートに素敵なメロディを活かすアレンジも秀逸ですし、何よりもソニー・スティットの分かっているサービス精神というか、変に気取らない姿勢のメロディフェイクが絶品です。
あぁ、この分かり易さが多くのジャズファンを逆に戸惑わせるんでしょうか……。確かにちょっと気恥ずかしいところもありますが、やっぱり素直に「良さ」が心に染み入るんじゃないかと思いますねぇ~♪
B-4 Lover
そして大団円はアップテンポで痛快なモダンジャズの典型的な演奏です。
バンド全体も疑似カウント・ベイシー楽団というか、ソニー・スティットがカウント・ベイシー楽団にゲスト出演したら!? という素晴らしき演出がたまりません♪ もちろんソニー・スティットのアドリブは流麗にして和みのスリルに満ちています。
ということで、当時は弱冠21歳だったクインシー・ジョーンズが上手すぎるアレンジ、そしてその場の仕切りの見事さに、まずは感服させられます。
もちろんソニー・スティットも自分に忠実な姿勢が潔く、このあたりはゲスの勘ぐりかもしれませんが、このセッション前の同年5月には、ソニー・スティットが比較されまくったチャーリー・パーカーが亡くなった事実となんらかの心理的影響関係があったように思いますが、いかがなもんでしょう?
チャーリー・パーカーが活躍していた時代のソニー・スティットは、意図的にアルトサックスよりはテナーサックスを吹くことが多かったと言われているほどの自意識過剰な現実も、ここでは本当にノビノビと演奏した名人サックスプレイヤーの魅力となって、グッと惹きつけられます。
正直言えば、ソニー・スティットは膨大な録音を残した天才プレイヤーですが、常に安定した上手すぎる演奏ゆえに、聴き飽きるという贅沢な気分にさせられる天才です。つまり何時も同じだから、いろんなアルバムを集めても……、というわけで、決してコレクター心理を刺激される対象では無いと思います。
その意味で、何か1枚と言われれば、このアルバムか、あるいはパド・パウエルと白熱の共演を繰り広げた「Stitt, Powell & J.J. (Prestige)」が定番でしょう。特にリアルジャズの緊張感と迫力がいっぱいの後者は、完全に歴史的な名盤であり、その対極的な楽しさや和みでは、この作品だと私は思います。
リズム隊ではジョー・ジョーンズとフレディ・グリーンの参加が、些か古臭いイメージかもしれませんが、これが実に見事なモダンジャズのビートとグルーヴを生み出したという、流石の不変性は「クインシーの魔法」かもしれません。