OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ジョージ・ウォーリントンの優雅なハードバップ

2008-12-08 11:59:25 | Jazz

Jazz For The Carrage Trade / George Wallington (Prestige)

ジョージ・ウォーリントンは白人ながらビバップという元祖モダンジャズ、つまりは黒人のアングラ音楽に若い頃から関わっていたピアニストで、1940年代としては相当にスノッブな人だったんじゃないでしょうか。

そしてビバップが一過性のブームで終わり、白人主導の西海岸系モダンジャズに流行が移っても、何故かそれにどっぷりと迎合したような録音を残していないのは、スジを通した頑固さがあるのかもしれません。

しかし1950年代中頃には、ついにハードバップの先駆的なバンドを結成し、そこにはドナルド・バードやジャッキー・マクリーン等々の精鋭を集めていたのですから、やっぱり黒人的な音楽性を追求する意志が強かったのでしょう。

さて、このアルバムはジョージ・ウォーリントンが率いていた当時のレギュラーバンドによるハードバップ作品ですが、驚いたことにアルバムタイトルが「上品な富裕層のためのジャズ」なんですから、吃驚仰天!

しかも前作「At The Cafe Bohemia (Progressive)」ではジョージ・ウォーリントン以外のバンドメンバーが全て黒人だったのに、ここではジャケットをご覧になっても一目瞭然の白黒混成になっています。

録音は1956年1月20日、メンバーはドナルド・バード(tp)、フィル・ウッズ(as)、ジョージ・ウォーリントン(p)、テディ・コティック(b)、アート・テイラー(ds) という強力な布陣! ちなみにジャケ写にはアート・テイラーが登場しておらず、原盤裏解説によれば、撮影時のレギュラードラマーは Junior Bradley という白人だったそうですから、恐らくこのレコーディングが行なわれた直後に交替があったのかもしれません――

A-1 Our Delight
 黒人アレンジャーとしてビバップ期から注目されていたタッド・ダメロンが書いたモダンジャズの聖典曲ですから、ここでもアップテンポで熱気満点の演奏が展開されていますが、同時に非常にスマートな感覚も横溢しています。
 流麗なドナルド・バード、ウネリとスピード感のフィル・ウッズ、そしてアート・テイラーの躍動的なドラミング! テディ・コティックのペースも野太い弾みが良い感じです。しかしジョージ・ウォーリントンのピアノはタッチが弱いのか、まるで弱音ペダルを踏んでいるかのような貧弱な存在感が……。
 まあ、その分だけ他のメンバーが目立ちまくりと言えば、全くそれまでなんですが、う~ん。

A-2 Our Love Is Here To Stay
 ガーシュイン兄弟が書いた有名スタンダードをハードバップ化した演奏というよりも、モダンジャズの心地良い快演でしょう。もちろんここでも、当時としては先端の表現だったであろう、お洒落な雰囲気が漂っています。
 ミディアムテンポの快適なスイング感は、それでも強靭な黒人的なグルーヴも併せ持った素晴らしさですから、ジョージ・ウォーリントンのソフトタッチのピアノと優雅なアドリブもジャストミート♪
 それを受け継ぐフィル・ウッズの熱血の歌心、またドナルド・バードの素直なハードバップ魂も、自然体でありながら実は緻密にアレンジされていたのかもしれないリズムセクションの働きがあっての成果でしょうか。バンドアンサンブルの控え目な見事さにも、聴く度にハッとさせられます。

A-3 Foster Dulles
 どこかで聞いたことがあるようなファンキーなテーマから豪快なハードバップ演奏がスタートしますが、ここでも気の利いたアレンジとバンドアンサンブルがイカシています。
 そしてアドリブパートではドナルド・バードがいきなりの快速球で真っ向勝負♪ 続くフィル・ウッズもツッコミ鋭いウネリ節でハッスルしていますし、アート・テイラーのヘヴィなドラミングは、まさにハードバップしています。
 しかしジョージ・ウォーリントンの寂しそうなピアノは??? 一応はパド・パウエル系のスタイルなんですが、タッチの弱さやアドリブフレーズの精彩の無さは、全く理解に苦しむところです……。う~ん……。

B-1 Together We Wail
 このアルバムでは最高に熱いアップテンポの大名演!
 昭和の運動会みたいな騒がしくもスピード感満点のテーマ、それに続くアドリブパートでは、なんとフィル・ウッズとドナルド・バードが同時に自分本位のソロを演じてしまうという恐ろしさ! しかもそこからドナルド・バードがスルリと抜けだし、白熱のトランペットを鳴らしていくんですから、もうここは何度聴いても大興奮です。
 もちろんその目論見はフィル・ウッズのパートでも再現され、執拗なドナルド・バードの絡みからフィル・ウッズがマジギレしたかのように豪快な「ヴッズ節」を炸裂させます。あぁ、この熱気と快感! これがジャズですねっ♪♪~♪
 ジョージ・ウォーリントンも若手に煽られたかのような懸命の力演ですし、タイトでハードなドライヴ感を作り出しているドラムスとベースも、流石に強力な存在感だと思います。

B-2 What's New
 そして前曲の興奮を、すうぅ~と冷ましつつ、今度は情緒たっぷりという夢の世界へご案内♪
 別れても好きな人というスタンダード曲を、ちょいとネクラに歌いあげるジョージ・ウォーリントンのピアノは、ソフトなタッチが弱気なフィーリングへ上手く繋がった大名演だと確信させられます♪ とにかくこの優雅なムードは、まさにアルバムタイトルに偽り無しでしょう。
 これほどのスローなテンポでもビートの芯を失っていないベースとドラムスの実力も侮れず、さらに終盤で登場するフィル・ウッズの優しい「泣き」、またドナルド・バードの思わせぶりもニクイほどです。
 有名曲ということで、モダンジャズのインストバージョンは星の数ほど残されていますが、これは間違いなく十指に数えられる名演じゃないでしょうか。

B-3 But George
 オーラスは如何にフィル・ウッズらしいオリジナル曲で、メンバーそれぞれが躍動的なキメを聞かせるテーマの構成が楽しい限り♪ ジョージ・ウォーリントンもキラリと輝くブレイクでリーダーの貫禄を示しています。
 しかしアドリブパートは、やはり断然に若手メンバーの方がイキイキとした快演で、思わずゾクゾクさせられるフィル・ウッズの登場に続き、明朗闊達なドナルド・バードが、ハードバップの黄金期を導くのでした。

ということで、ジャズのガイド本ではジョージ・ウォーリントンの最高傑作とされるアルバムですが、特にB面を聴けば完全に納得させられるでしょう。とにかく「Together We Wail」と「What's New」の2連発にはモダンジャズ最良の瞬間が感じられますよっ♪

そして全体の仕上がりでは、演奏そのものにオール黒人のバンドでは絶対に醸し出しえないスマートさ、優雅さが顕著です。しかもハードにドライヴした突進力もあるのですから、西海岸製のハードバップとも一線を隔したというあたりが、実に個性的だと思います。

ジョージ・ウォーリントンのピアニストとしての実力は、その迫力不足のピアノタッチもあって、決して満点の人ではないでしょう。しかしバンドリーダー、あるいはプロデューサー的な感覚は流石というか、この手のハードバップは結局は主流から微妙に外れていたわけですが、それゆえに貴重な楽しみとして、私は偏愛しているのでした。

とにかくB面を聴けば、納得していただけるんじゃないかと思っています。

コメント (1)
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