■Django / The Modern Jazz Quartet (Prestige)
今年の年末は世界的な大不況、深刻な経済状況と暗い話題ばかりですが、そんな中に飯島愛の孤独死というのも、哀しいものがあります。芸能界から引退していたとはいえ、ネットのブログは人気を集めていたそうですし、訃報が伝えられた後からもコメントが殺到しているのは、AV時代も含めて決して平穏な人生ではなかった飯島愛という人に共感出来る何かがあるのでしょう。世の中の男達が癒されたのは間違いないところですが、女性のファンが多いのも、さもありなん……。
実は今年の夏前に、夜の街の某所で彼女を見かけました。その時は数人の男達にとまかれていましたが、タレント時代と変わらないギャル系のファッションで華やかな雰囲気でしたねぇ……。そういう彼女が孤独の変死というのは、本当に人生の空しさを感じてしまいます。
さて、本日の1枚、ジャズ史的にも名盤の中の大名盤というMJQの代表作ですが、あまりにも有名な表題曲、そしてアルバム全編を貫くジェントルで陰鬱、荘厳なムードは黒人ジャズでありながら、所謂ハードバップとは一線を隔した、味わい深い演奏ばかりです。
そしてこの中の「ニューヨークの秋」が、かなり以前ですが、飯島愛が出ていた旅の番組で使われていたのを、私は印象的に覚えています。そこで本日は追悼の意味で選んでみました。
録音は1953年~1955年までの間に行われたセッションを集めていますが、メンバーはミルト・ジャクソン(vib)、ジョン・ルイス(p)、パーシー・ヒース(b)、そしてケニー・クラーク(ds) という初代の面々です。
A-1 Django (1954年12月23日録音)
MJQの代表曲というよりも、今やモダンジャズを超えて20世紀の名曲となった、そのオリジナルバージョンがこれです。ちなみに「Django」とは、ベルギーの名ギタリストだったジャンゴ・ラインハルトを指すのは言わずもがな、その死を悼んでジョン・ルイスが書いたメロディは静謐な重厚さに満ちている、まさに魂の鎮魂歌です。
そしてMJQの4人が作りだすブルーなアンサンブルと気分はロンリーな演奏は当然素晴らしく、ミトル・ジャクンソンのソウルフルな余韻を含んだヴァイブラフォン、泣きのメロディをシンプルに紡ぎ出すジョン・ルイスのピアノ、緊張と緩和を演出するパーシー・ヒースのペースワーク、落ち着いたビートでバンドを支えるケニー・クラークと、まさに名演ばかりです。というかバンドとしての一体感が見事過ぎるほどです。
モダンジャズとしての粋なセンスとスリルも、当然ながら存在していますから、やはりジャズが好きになったら避けて通れない演奏でしょうね。
A-2 One Bass Hit (1954年12月23日録音)
ジャズ史の中の名人ベーシストのひとりであるオスカー・ペティフォードが書いたオリジナル曲を、これも名手というパーシー・ヒースが薬籠中の物として演じています。そしてもちろん、それはMJQだけのバンドアンサンブルが存分に活かされているのですから、抜かりはありません。
パーシー・ヒースの、如何にもウッドペースという響きも、当時としては見事に美しく録音されていますねぇ♪♪ こういうのを聴くと、ヴァン・ゲルダーの手腕は全く見事だと思います。
A-3 La Ronde Suite (1955年1月9日録音)
ジョン・ルイスがバンドメンバー4人の個人技を活かすために書いた組曲ですが、元ネタはMJQの面々が在籍していたディジー・ガレスピー楽団の十八番という「Two Bass Hit」だと思います。
まずは初っ端、ジョン・ルイスのピアノがスピード感満点に疾走し、次はパーシー・ヒースがじっくりとハードバップ! ここはバンドアンサンブルが、如何にも「らしい」というMJQの本領でしょう。
そしてお待ちかね、ミルト・ジャクソンのパートに入っては、軽快なドライヴ感に満ちたヴァイブラフォンのアドリブ、そしてバンド全体の纏まりが冴えまくり♪♪~♪ 今となっては、些か軽すぎる感じもしますが、演奏全体の流れからすれば結果オーライだと思います。
さらに最後のパートはケニー・クラークのドラムスが元祖モダンジャズの響きを聞かせてくれますし、そこからバンドが一丸となってハードバップしていくのは、実に美しい「お約束」としか言えません。
ただし、やはり全体としては纏まり過ぎて面白くない感も免れませんねぇ……。これはあくまでも個人的な我儘な思いなんですが……。
B-1 The Queen's Fancy (1953年6月25日録音)
MJQと言えば、クラシックっぽいアレンジによる演奏がウリのひとつですが、これもそうしたジョン・ルイスの嗜好がモロに出たオリジナル曲です。ペースとドラムスはグイノリ、ミルト・ジャクソンが歌心を全開させるのはハードバップの王道でありながら、テーマメロディの欧州的な雰囲気、そしてジョン・ルイスの優雅なムードのピアノとアドリブ♪
ハンドアンサンブルの味わいもイヤミが無いと思います。
B-2 Delaunay's Dilemma (1953年6月25日録音)
これまた如何にもヨーロッパに憧れました、というジョン・ルイスのオリジナル曲で、しかし黒人モダンジャズの矜持は失っていない名演です。ベースとドラムスの基本に忠実なグルーヴが実に心地良いですねぇ~~♪
しかもミルト・ジャクソンのアドリブが冴えまくりですよっ♪♪ ジョン・ルイスもシンプルでメロディ優先のピアノを聞かせてくれますが、背後では地味なブラシで強靭なビートを送りだしているケニー・クラークのイブシ銀! 流石だと思います。
B-3 Autumn In New York / ニューヨークの秋 (1953年6月25日録音)
これが私の大好きな演奏で、曲は哀愁のスタンダードですから、たまりません。
MJQはゆったりとしたテンポで、ミルト・ジャクソンのバラードの天才を証明していきます。あぁ、このシミジミとしてブルーなムードが横溢した味わいの深さ……。
細やかに行き届いたアレンジ、それを演奏で表現していくアンサンブルも最高です。
ちなみに飯島愛はニューヨークが大好きだったそうですね。
この曲を聴きながら、あらためて合掌です。
B-4 But Not For Me (1953年6月25日録音)
これも有名な歌物スタンダードをMJQならではのアンサンブルで聞かせた、実に完成度の高い演奏です。
緻密なテーマ演奏、そして緊張感が強くなるアドリブパートでは、ミルト・ジャクソンの強烈なアドリブに絡んでいくパーシー・ヒースのペースが全く見事! そしてそれが大団円のバンドアンサンブルに繋がっていく展開は、まさに唯一無二でしょうねぇ~♪
B-5 Milano (1954年12月23日録音)
さてオーラスは、これまたブルーなムードがいっぱいという、ジョン・ルイスが書いたメロディには、せつない気分がいっぱいです……。恐らくはイタリアのミラノをイメージしているでしょうが、この胸キュンな雰囲気は、本当にジンワリきます。
全体をリードするミルト・ジャクソンのヴァイブラフォンからは、実に品格漂う響きが流れだし、その場の空気を柔らかくしていきます。強いビートを維持するパーシー・ヒースのペース、小技に集中するケニー・クラークの対称性も流石の存在感!
ということで、MJQの諸作中では地味な演奏が多いアルバムですが、やはり名盤認定されているだけあって、その密度と完成度は聴くほどに納得する他はありません。
誰もが、いずれは目覚めぬ朝がやってくるわけですが、自分にとっても孤独死は決して人事ではなく、このアルバムを聴いていると、ほんとうにシミジミとした気分、悲壮感に酔いそうな気分が怖くなります。
まあ、それも今だけかもしれませんが……。