■Gravy Train / Lou Donaldson (Blue Note)
主役よりも脇役を好きになって許されるのが芸能界の良いところで、特にジャズの世界では完全に許される「掟」じゃないでしょうか。
と、今日もまた「主役と脇役」ネタでご機嫌をうかがう事になりました。
で、本日ご紹介のアルバムは、ブルーノートの看板スタアだったルー・ドナルドソンのリーダー盤ですが、個人的には助演参加のハーマン・フォスターを聴くためにあるといって過言ではありません。
皆様がご存じのように、ルー・ドナルドソンとハーマン・フォスターの2人は1950年代後半からレギュラーバンドの主従関係にあり、共演したヒットアルバムも例えば「Blues Walk (Blue Note)」に代表されるような、ガイド本の定番傑作も出しているほどに相性は最高です。
しかしそれゆえに新しい展開を求めたのか、この2人は1962年に入るとレコーディングではコンビを解消し、ルー・ドナルドソンはオルガン奏者が要となったリズム隊と共演していくことになるのですが、このアルバムはその一応の終焉を収めた好盤♪
録音は1961年4月27日、メンバーはルー・ドナルドソン(as)、ハーマン・フォスター(p)、ベン・タッカー(b)、デイヴ・ベイリー(ds)、アレック・ドーシー(pre) という気心の知れた面々――
A-1 Gravy Train
ルー・ドナルドソンが書いたアーシー&ファンキーなブルース曲で、いきなりグッと重心の低いベン・タッカーのペースのリフ、チャカポコしながら猥雑なパーカッション、粘っこくてシャープなドラムスが最高の雰囲気を作ります。
そしてルー・ドナルドソンが泥臭いアルトサックスでシンプルなテーマメロディを吹き出せば、何時の間にか傍にはハーマン・フォスターのピアノが寄り添っているという、実に美しい光景が♪♪~♪
さらに演奏はマーチビートがメインのグルーヴィなリズム隊に主導され、ルー・ドナルドソンがソウルフルなフレーズを積み重ねていきますが、続くハーマン・フォスターがジンワリと醸し出すファンキー衝動をグイグイと盛り上げ、ブロックコードとオルガンっぽいピアノタッチで魂の高揚を見事に表現するのです。
あぁ、ここは何度聴いても興奮させられます!
告白すれば、私が最初に聴いたルー・ドナルドソンのリーダー盤は、これが最初だったんですが、このハーマン・フォスターのピアノには同系のボビー・ティモンズ以上に熱くさせられ、以降しばらくの間、魘されるほどでした♪♪ もちろんジャズ喫茶では頻繁にリクエストもしていたほどです。
A-2 South Of The Border
一転して軽快に吹きまくったルー・ドナルドソンの快演♪
曲はお馴染み、一抹の哀愁を含んだメロディが心地良く、パーカッションの参加ゆえにラテンリズムと4ビートのゴッタ煮が、これまた気持ち良すぎます♪ 特にルー・ドナルドソンのアドリブパートでは正統派4ビートの痛快さが顕著ですし、ハーマン・フォスターのピアノは飛び跳ねとオルガンタッチのブロックコード弾きがミスマッチの快感となるのですから、たまりませんねっ♪
A-3 Polka Dots And Moonbeams
そしてこれが些かクサイ芝居という艶やかな名演です。
原曲の甘いメロディを活かしきったルー・ドナルドソンのアルトサックスが実に素晴らしく鳴りますねぇ~♪ 寄り添うベン・タッカーのペースも強い音出しが印象的ですし、意外にもジェントルなハーマン・フォスターのピアノも良い感じ♪
さらにラストテーマではルー・ドナルドソンのミエミエの演技というか、如何にものケレンが賛否両論かもしれませんが、その最後の無伴奏パートが私は憎めずに大好きです。
これは聴いてのお楽しみっ♪
A-4 Avalon
パーカッションの参加があって、最高に「らしい」というルー・ドナルドソン! 単なるパーカー派のアルトサックス奏者とは一線を隔した快楽性が、この人の持ち味なんでしょうねぇ~。本当に楽しいアドリブは、こんなにジャズが分かって良いのか!? なんて自問自答してしまうほどです。
もちろん、そのあたりはハーマン・フォスターにも共通する長所かもしれませんねぇ。
B-1 Candy
さてB面の初っ端が、これまた素敵な名演で、ズッシリと粘っこいグルーヴを醸し出すリズム隊とメロディを大切にしたルー・ドナルドソンのアルトサックスが絶妙のコンビネーションというテーマだけでシビレます。
そしてハーマン・フォスターがハードバップの楽しさを完全披露する、実にゴスペルファンキーなピアノを存分に聞かせてくれます。オルガンタッチのスタイルは、好きな人に宝物を見つけたような気分になるでしょう♪
さらにルー・ドナルドソンが会心のアドリブというか、このアルバムでは一番纏まった十八番のファンキー節ですから、思わずニンマリさせられますよ。ラストテーマへの持って行き方も自然体の絶妙さです。
B-2 Twist Time
ルー&ハーマン組のファンキー熱がジワジワと高くなり、最後にはドロドロになっていくブルースの饗宴♪ じっくりと粘っこく、スイングしまくったリズム隊も流石の存在です。特にハーマン・フォスターは、本当に唯一無二の素晴らしさで、これが嫌いなハードバップファンは居ないと思われるほどです。あぁ、このブロックコードの鳴り響きは最高!
B-3 Glory Of Love
さて、オーラスは、楽しくて、やがて悲しき別れかな、というせつないメロディが全篇に横溢した名演です。ルー・ドナルドソンの思わせぶりが入ったフェイクとアドリブの旨みは最高の美味しさですよっ♪ 適度なブルースフィーリングが絶妙のスパイスでもあります。
またそのあたりの心情を充分に理解して、これも忌憚のない心情吐露を爽やかに演じるハーマン・フォスターも潔く、短い演奏ですが、アルバムの締め括りはこれしかなかったと納得してしまうのでした。
ということで、人気盤が多いルー・ドナルドソンの諸作中では、それほど目立つアルバムではないかもしれませんが、ハーマン・フォスター中心に聴けば、これほどの名演はありません。
もちろん、この盲目のピアニストはルー・ドナルドソンのバンドに入ってから人気を集め、リーダー盤も何枚か出していますから、ジャズ者には大切にしておきたいマニアックな存在でもありますが、まずはこのアルバムのA面ド頭「Gravy Train」を聴いて下さいませ! 必ずシビレますよっ♪
う~ん、なんというか、お目当ての女の子とグループ交際にこぎつけたら、彼女が連れてきた友達の方を好きになってしまったというか、そんな決して浮気では無いピュアな恋心みたいな……。上手くいえませんが、このアルバムってそんな感じです。
ごめんね、ルー、ハーマン・フォスターが好きなんだ♪