■Marty Paich Trio (Mode)
モダンジャズばかりでなく、ハリウッド音楽産業界では超一流のアレンジャーとして歴史に名を刻んだマーティ・ペイチは、もちろん ピアニストとしても優れた腕前の持ち主でしたが、なんとピアノトリオ作品は本日ご紹介の1枚っきりというのは残念でした。
しかもそれがマイナーレーベルで作られたウルトラ級の幻盤なんですから、リアルタイムで楽しんだファンがどれだけ居たのかも疑問という、その名声を思えば不可思議な出来事です。
当然ながら、私もそれが「在る」ということ知っただけで、長い間聴くことが叶わず、ですから我が国で復刻盤が出た時には速攻でゲット♪
録音は1957年6月、メンバーはマーティ・ペイチ(p)、レッド・ミッチェル(b)、メル・ルイス(ds) という、なかなか魅力的なトリオです――
A-1 I Hadn't Anyone Till You
A-2 The Facts About Max
A-3 Dusk Light
A-4 The New Soft Shoe
B-1 A Dandy Line
B-2 El Dorado Blues
B-3 What's New
B-4 By The River St. Marie
――上記演目を見ると、有名曲が「What's New」ぐらいですから、ちょいと嫌な予感も漂いますが、全篇に横溢するスマートなやすらぎムード、ほど良いファンキーフィーリングには、やはりピアノトリオならではの楽しみいっぱいです。
というのも、マーティ・ペイチのピアノスタイルが意外なほどにハードドライヴィングなんですねぇ~。力強いタッチと歯切れの良いフレーズはハンプトン・ホーズみたいな感じもありますし、所々には、あそこまではいかなくとも、アンドレ・ブレヴィンが十八番としていた手法も使っています。
つまりマーティ・ペイチはなかなかのテクニシャンなんですねぇ~。一応はピアニストというアレンジャーの中には、例えば失礼ながらギル・エバンスのように???という腕前の名手もおりますが、マーティ・ペイチは流石にピアノトリオ盤を作るだけのことがあります♪
ラウンジっぽい安らぎがハードバップに変質していく「I Hadn't Anyone Till You」、ドギモを抜かれる衝撃のイントロからやさしいテーマメロディをジンワリとフェイクしていく「What's New」、如何にも白人ジャズっぽい「By The River St. Marie」というスタンダードの解釈は、それなりの「あざとさ」が良い方向に作用していると思います。
逆にハードバップの本質に鋭く斬り込んだ「The Facts About Max」では、既に述べたようにアンドレ・ブレヴィンかハンプトン・ホーズを想起させられるドライヴ感が見事ですし、弾みまくった「A Dandy Line」では対位法のさりげない使い方がニクイという、オリジナル曲の魅力も捨て難いところでしょう。
そのあたりは超スローなテンポがダレる寸前で自作のメロディのキモに繋がるという、誠に激ヤバのオリジナル曲「Dusk Light」で、さらに顕著です。
サポートのレッド・ミッチェルも要所で素晴らしいペースソロ、そして太めの音色で豪快な4ビートウォーキングと、全く期待を裏切らない存在感ですし、メル・ルイスが熟達のスティックも流石にスカっとしています。
そして個人的には「The New Soft Shoe」や「El Dorado Blues」で聞かれるソフトファンキーな和みの世界が、一番しっくりとくるんですが、実は聴くほどに濃密なムードの虜になってしまうのでした。
一見、地味なアルバムではありますが、味わいの深さは天下一品じゃないでしょうか。
ちなみに先日、店頭で紙ジャケ仕様のCDを発見♪ ちょっと試聴させてもらったら、リマスターも良好なんで、これも即ゲットでした。もちろんモノラルミックスですよっ♪