OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

JuttaとZootのコートにすみれ♪

2008-12-03 12:09:34 | Jazz

Jutta Hipp With Zoot Sims (Blue Note)

主役よりも脇役が目立ってしまうのは芸能界の常であり、一般社会でも珍しくないわけですが、しかし個人芸がウリのジャズの世界では、その功罪半ばする事象さえ許されてしまうのではないでしょうか。

例えば本日ご紹介のアルバムは、その最たるものだと思います。

主役はドイツから渡米してきた美人ピアニストのユタ・ヒップなんですが、実は共演者のズート・シムズが大名演! あえてジャケットに「with zoot sims」とタイトルクレジットされたのが当然という素晴らしさです。

録音は1956年7月28日、メンバーはジェリー・ロイド(tp)、ズート・シムズ(ts)、ユタ・ヒップ(p)、アーメド・アブダル・マリク(b)、エド・シグペン(ds) という、ブルーノートにしては珍しい人選です――

A-1 Just Blues
 いきなりズート・シムズがノリまくったブルースを聞かせてくれる大名演♪ もう全てが歌のアドリブフレーズとドライヴ感満点の快適グルーヴには、思わず「指パッチン」の世界です♪
 もちろんこのセッションはユタ・ヒップの名義になっていますが、こりゃ~、どう聴いてもズート・シムズが主役でしょうねぇ~。失礼ながら、ついつい同じブルーノートにあるキャノンポール・アダレイの「Somethin' Else」、あの一曲目「枯葉」を思い出してしまったですよ。
 と、すれば、このアルバムもプロデューサーのアルフレッド・ライオンがズート・シムズを録音したくて仕組んだ疑似リーダーセッションか!? これはあくまでもサイケおやじの妄想ですから、決して信じないでほしいとは言え、う~ん……。
 ちなみにユタ・ヒップはドイツ時代のクールスタイルから、ここではハードバップ流儀に方針転換を試みていますが、同時期に我が国から渡米した秋吉敏子に比べると、些か迫力が不足していると感じます。
 しかしリアルタイムでの彼女は、そのクールビューティな佇まいもあり、業界では様々な思惑も絡んだ人気があったそうで、ブルーノートからもリーダー盤がこれ以前に発売されています。

A-2 Violets For Your Furs
 これは私の大好きなメロディのスタンダード曲で、テナーサックスではジョン・コルトレーンやJ.R.モンテローズの大名演が残されていますが、このズート・シムズのバージョンも素晴らしすぎて涙がボロボロこぼれます♪
 まあ、ここであえて「ズート・シムズの」と書いた理由は言わずもがな、その繊細で内気な感情表現、そしてテナーサックスの音色の魅力も、ほど良いサブトーンの使い方に顕著ですし、とにかく泣きのメロディフェイクやアドリブフレーズには胸キュンです。
 しかし主役のユタ・ヒップも、ここでは本領発揮というか、優しく美しいピアノタッチと恋愛の機微を表現したようなアドリブフレーズのせつなさなが♪♪~♪
 まさに粋な恋の儚さを綴っていく大人の世界だと思います。特にズート・シムズは、自分の差し出したスミレの花を、相手に受け取ってもらえなくても、私はそれで良いんですというような、ちょっとネクラな感情の微妙が良いムード……。実にハードボイルドだと思います。

A-3 Down Home
 モダンスイングっぽいメロディが楽しいジェリー・ロイドのオリジナル曲で、快適なテンポでドライブしまくるズート・シムズが、ここでも最高です。もちろん十八番のアドリブフレーズは出し惜しみしていません!
 しかし続くユタ・ヒップが迷い道というか、明らかに自分の音楽性とは異なる雰囲気だったんでしょうねぇ……。それでも懸命にハードバップしようと頑張るのですが、些かの無理がイジラシイというか、ついつい守ってあげたくなるような……。
 このあたりのムードはセッション参加メンバーにも伝染しているのでしょうか、アブダル・マリクのペースが殊更に強靭なウォーキングに徹すれば、ジェリー・ロイドもクールな熱演が空回り……。
 それでもラストテーマに向けてのソロチェンジとか、流石の纏まりを聞かせてくれます。

B-1 Almost Like Being In Love
 有名スタンダード曲のリラックスした解釈という、まさにズート・シムズが十八番のスイングが存分に楽しめます。もう上手すぎるメロディフェイクのテーマ部分だけで、グッとシビレますよ♪
 そしてアドリブパートの歌心とノリの良さ、サブトーンを要所で使うテナーサックスの音色の魅力が全開です。ユタ・ヒップの地味な伴奏も、ここでは結果オーライでしょう。
 ですからジェリー・ロイドもシンプルなアドリブで、ちょっと不調のマイルス・デイビスみたいなムードが憎めません。
 気になるユタ・ヒップは、なかなかに自己の表現が上手くいったような、あまり冴えないフレーズが逆に新鮮という苦しい言い訳も許せるんじゃないでしょうか。

B-2 Wee-Dot
 J.J.ジョンソンが書いたハードバップの有名ブルース曲ですから、ここでも熱いムードは必須のはずですが、実際にはズート・シムズだけが浮いてしまったような……。つまりハードドライブなテナーサックスに対し、あまりジャストミートしていないリズム隊が……。
 しかしユタ・ヒップのアドリブパートになると、その場は急に活気づいたというか、ユタ・ヒップ自身が相当に入れ込んだ雰囲気で、かなり変態的なアドリブフレーズが聞かれます。
 また続くジェリー・ロイドもノリが良く、終盤での2管の絡みは定番の楽しさでしょうね。ズート・シムズも、このセッションでは頻繁に使う十八番のフレーズで対抗する潔さです。

B-3 Too Close For Confort
 これはリアルタイムでサミー・デイビスJr.がヒットさせていた有名曲で、インストではアート・ペッパーのバージョンが代表的な名演でしょうが、ここでのズート・シムズも素晴らしいかぎり!
 力強いミディアムテンポのグルーヴを提供するリズム隊の纏まりも良く、実はこのトリオは実際にライブ活動もやっていたと言われていますから、ユタ・ヒップのアドリブも自分のペースで安定感があります。
 またハスキーな音色でシンプルなアドリブを聞かせるジェリー・ロイドもシブイですねぇ♪

ということで、明らかにズート・シムズを楽しむアルバムだと思います。そこで最初に書いた妄想ですが、もしアルフレッド・ライオンがズート・シムズのレコードを作るためにユタ・ヒップをダシに使ったとしたら、いやはやなんともです。

しかし当時のブルーノート周辺で関わりのあったピアニストはホレス・シルバーやウイントン・ケリー、あるいはエルモ・ホープあたりでしたから、とてもモダンスイング王道のズート・シムズと相性が良いとは想像も出来ません。

そこでユタ・ヒップの登板となったのかもしれません。そして結果は大成功!

もし私の妄想がそれなりの事実だったとしたら、アルフレッド・ライオンが後年、マイルス・デイビスのレコーディングを行うためにキャノンボール・アダレイをリーダーにした「Somethin' Else」の前例かもしれないという、些か考古学的な楽しみのあるのでしょうか。

まあ、これはあくまでも私の妄想ですから、念のため。

肝心のユタ・ヒップは、こういうハードバップ系の演奏よりも、それ以前のクールスタイルの方が私の好みですから、ブルーノートでは2枚残されているトリオでの人気ライブ盤も??? なんですが、このアルバムだけは愛聴しています。

特に「Violets For Your Furs」は絶品ですよ♪♪~♪ 所謂「ズートの56年物」としても最高だと思います。

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2 コメント

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やはりコートにスミレですよね♪ (bob)
2008-12-03 18:35:14
本作は私もズートのアルバムとして楽しんでいます。
ライオンの計らいは推測の域を出ませんが、私もズートがBLUE NOTEに登場したこと自体に違和感(?)を感じております。
実はこの違和感がたまらなくイイんですがね…(笑)。

脇役に追いやられてしまった感のあるヒップについては、「Violets For Your Furs」で畢生の名演が楽しめますね。
ボクサー上がりの無骨なガーランドでは到底表現できない“女性らしさ”を感じてしまいます♪

TB送らせていただきました、よろしくお願いします。
返信する
ユタ・ヒップの素敵な助演 (サイケおやじ)
2008-12-04 12:40:51
☆bob様
コメント&TB感謝です。

いゃ~、やはり「コートにすみれ」ですよねっ♪
ズートはもちろんですが、ユタ・ヒップが弾いてこその名演だったと思います。
その意味で、やはりアルフレッド・ライオンの目論見は正解だったんでしょうね。

こちらからもTB、送りました。
よろしくお願い致します。
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