OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ラウズとクイニシェットの和みのバトル

2008-12-12 12:27:20 | Jazz

The Chase Is On / Charlie Rouse & Paul Quinchette (Bethlehem)

個人芸という側面が強いモダンジャズのひとつのウリがバトル物、つまり対決セッションですが、特に同種の楽器のぶつかりあいはアドリブ饗宴の醍醐味だと思います。

しかしそこにギスギスしたものばかりが強くなると、聴いている側は決して和めません。むしろ協調と対話が成立した真剣勝負こそが、一番望まれる姿勢だと思います。

と、いきなりこんなことを書いてしまったのは、最近の仕事が完全に仁義なき戦いになっているからで、誰を信用していいのか、疑心暗鬼の暗中模索で連日、鬼のようなことをやっている自分がいるからです。

そこで、まあ、せめても聴くレコードぐらいは和みを求めてしまうわけですが、本日ご紹介のアルバムは、一応はバトル物の体裁ながら、実に協調性の高い緊張と緩和が見事な仕上がりになっています。

その主役たるチャーリー・ラウズは、セロニアス・モンクのバンドレギュラーを長年務めた黒人テナーサックス奏者で、いつも同じようなフレーズばっかり吹いている印象もありますが、本音はビバップの伝統を立派に継承している実力派♪

また相手役のポール・クイニシェットは、レスター・ヤング直系のソフトな歌心と絶妙のスイング感を持ち合わせた名手で、黒人ながら白人的なスマートさも漂わせるあたりが、私のお気に入り♪ テナーサックスそのものの音色もフガフガしながら、ハスキーなサブトーンが実に心地良いのです。

録音は1957年8月29日&9月8日、メンバーはチャーリー・ラウズ(ts)、ポール・クイニシェット(ts)、ウイントン・ケリー(p / 8月29日)、ハンク・ジョーンズ(p / 9月8日)、フレディ・グリーン(g / 9月8日)、ウェンデル・マーシャル(b)、エド・シグペン(ds) という味わい深い組み合せが楽しめます――

A-1 The Chase Is On (1957年8月29日録音)
 ウイントン・ケリーの勢いが表出したイントロから景気の良いテーマ、それに続くアドリブ合戦の先発はチャーリー・ラウズです。
 ちなみにバトル物はステレオミックスがやはり楽しく、右チャンネルにはチャーリー・ラウズ、対して左チャンネルには、もちろんポール・クイニシェットが定位して、ブリブリとスカスカの自己主張となっています。
 ウイントン・ケリーの弾みまくったピアノも絶好調ですし、エド・シグペンのドラミングも流石の上手さですが、惜しむらくは録音の状態からピアノが幾分引っこんでいるのが残念です。

A-2 When The Blues Come On (1957年9月8日録音)
 しっとりとした泣きのメロディが心にしみる名曲にして名演です。とにかく初っ端からポール・クイニシェットが最高のメロディフェイク♪ 音色の妙も素晴らしく、サビで登場するチャーリー・ラウズのハートウォームなテナーサックスとは好対照の演出です。
 もちろんアドリブパートでも両者は持ち味を存分に発揮していますが、ここはポール・クイニシェットに軍配が上がるでしょう。
 ちなみにピアノはハンク・ジョーンズに交替し、フレディ・グリーンのリズムギターが参加したのも曲想にはジャストミートしています。そしてこの日の録音では、左にチャーリー・ラウズ、右にポール・クイニシェットが定位したステレオミックスなので、要注意かもしれません。まあ、このあたりは聴けば納得だと思います。

A-3 This Can't Be Love (1957年8月29日録音)
 お馴染みの楽しくて胸キュンのスタンダード曲で、イントロから飛び跳ねまくりのウイントン・ケリー♪ そして絶妙のバンドアンサンブルからチャーリー・ラウズのアドリブに入るあたりは、ステレオミックスの良さが上手く活用されています。
 そのチャーリー・ラウズのテナーサックスが、幾分ソフトな音色とフレーズ展開になっているのも興味深く、あの思い出し笑いのような頻発フレーズも尚更に憎めません。
 そして続くポール・クイニシェットが、ここでも淀みない歌心と楽しすぎるドライヴ感♪ そこへ密かに絡みついていくチャーリー・ラウズのテナーサックスにも、瞬間的にグッとシビレてしまいます。
 またウイントン・ケリーが最高級のアドリブを聞かせてくれるのも嬉しいプレゼントで、途中で誰かが、思わず「イェ~」とか声を発してしまうんですねぇ~~♪ まさにジャズの喜びって感じです。
 さらにクライマックスではテナーサックスのバトルが「お約束」ながら、その和みのムードが素晴らしく、これぞ協調! しかし決して八百長ではない、リアルファイトなのは言わずもがなでしょう。

A-4 Last Time For Love (1957年8月29日録音)
 そしてこれまた和みの極みという、せつないメロディの上手すぎるジャズ的な展開♪ まずはテーマ部分のアンサンブルとリラックスしたノリの良さ、そのゆったりとした感情表現には感涙してしまいます。
 それはアドリブパートにも見事に引き継がれ、ポール・クイニシェットが「全てが歌」のフレーズで絶妙にテナーサックスを泣かせれば、チャーリー・ラウズは思い切ったフレーズ展開で男泣き♪
 ウイントン・ケリーも最高のイントロと上手い伴奏で存在感を示していますし、何度でも聴きたくなる名演だと思います。

B-1 You're Cheating Yourself (1957年9月8日録音)
 フレディ・グリーンのギターが入っている所為でしょうか、かなりモダンスイング調の楽しい演奏になっていて、しかも原曲メロディに秘められた胸キュンの味わいが見事に活かされた、これも名演だと思います。
 しかしアドリブパートでは両者が相当に入れ込んだ熱血というか、特にチャーリー・ラウズはセロニアス・モンクとやっているような過激な音の跳躍も聞かせてくれますし、ポール・クイニシェットにしてもジョン・コルトレーンと対決したセッションのような、かなりツッコミの効いたフレーズを使っています。
 ただし演奏全体に歌心は決して蔑ろにはされておらず、ウイントン・ケリーのピアノは極上のハードバップを聞かせてくれるのでした。う~ん、最高っ♪♪~♪

B-2 Knittin' (1957年8月29日録音)
 グルーヴィな4ビートのペースウォーキングにハードボイルドなシンバルワーク、そして粘っこいウイントン・ケリーのピアノが最高のイントロ! さらにシャレの効いたテーマ合奏という、まさにジャズの楽しみが満載の演奏から、アドリブパートもメンバー全員が抜かりなしです。
 特にリズム隊の存在感は強い印象を残し、それゆえにチャーリー・ラウズもポール・クイニシェットも自分の持ち味を完全披露するのですが、特にポール・クイニシェットの品格を落とす寸前のプロー、それに続くウイントン・ケリーのファンキーピアノが、最高の相性なんですねぇ~♪
 そしてウェンデル・マーシャルのペースが手堅いアドリブとサポートの上手さを聞かせれば、エド・シグペンのドラミングもじっくり構えてシャープな切れ味です。

B-3 Tender Trap (1957年8月29日録音)
 確かフランク・シナトラが十八番にしているスタンダード曲だと思うのですが、ここでの和み優先の演奏は、テナーサックスの魅力を存分に活かしたテーマアンサンブルが心地良いかぎり♪ ウイントン・ケリーのピアノも、実にしぶとく活躍しています。
 もちろんアドリブパートもなかなかの出来なんですが、このサックスアンサンブルというか、テーマ部分のアレンジと上手い演奏は絶品だと思います。エド・シグペンのブラシは本当に至芸ですよっ♪
 
B-4 The Things I Love (1957年8月29日録音)
 これも2本のテナーサックスが抜群のハーモニーと美しい協調性を聞かせる名演で、曲も私の大好きなスタンダードですから、たまりません。
 ポール・クイニシェットが優しく歌えば、チャーリー・ラウズの些かケレンの効きすぎたフレーズの連発には苦笑するしかありませんが、ウイントン・ケリーのピアノが琴線に触れまくりですから、結果オーライ♪
 欲を言えば演奏時間の短さが残念です。

ということで、極めてモダンスイングに近いハードバップなんですが、そんなスタイル分類はどーでも良くなるほどに和みの演奏ばかりです。特にウイントン・ケリーが素晴らしいですねぇ~♪ ただし既に述べたように録音の状態から、ピアノの音が幾分引っこんでいる所為か、誰も名演とか褒めないのは勿体ないでしょう。まさに隠れた名演として、ファンは密かに楽しんでいるはずだと思うのですが。

肝心のチャーリー・ラウズとポール・クイニシェットは、見事な協調とミスマッチの個性が最高に発揮された快演です。個人的には贔屓のポール・クイニシェットが好調なのが嬉しところですが、チャーリー・ラウズもセロニアス・モンクとやっている時よりはノビノビとした吹きっぷりが微笑ましいですよ。

ちょっと地味なアルバムかもしれませんが、聴くほどに味わいが深くなる隠れ名盤だと思います。

コメント
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