OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ブッカー・リトルの未完成の美

2008-12-07 13:59:41 | Jazz

Booker Little & Friend (Bithlehem)

モダンジャズの輝ける新星でありながら、病魔によってアッという間に天国へ旅立ってしまった黒人トランペッターのブッカー・リトル……。独特のマイナームードが素敵なメロディ感覚、斬新なハーモニーと温かい音色の妙には、残されたレコードを聴く度に胸に迫るものを感じます。

その活動歴では弱冠20歳で大抜擢となったマックス・ローチのバンドレギュラー、あるいはエリック・ドルフィーとの伝説的な双頭バンドでの録音が名演とされていますが、もちろんリーダー盤も全てが素晴らしく、人気盤になっているのは皆様が良くご存じのとおりでしょう。

さて、このアルバムは一般的にはブッカー・リトルのラストレコーディングとされるリーダーセッションで、録音は1961年夏、メンバーはブッカー・リトル(tp)、ジュリアン・プリースター(tb)、ジョージ・コールマン(ts)、ドン・フリードマン(p)、レジー・ワークマン(b)、ピート・ラロッカ(ds) という新進気鋭が参加しています――

A-1 Vectory And Sorrow
 ホーン3人によるアンサンブルと合奏をイントロに、ブッカー・リトルならではのマイナー感覚がたまらないテーマメロディ♪ このあたりは完全に好き嫌いがあると思いますし、これは一種の「アク」なんですが、シャープなリズム隊のバックアップがありますから、アドリブパートは爽快な雰囲気が横溢して結果オーライでしょう。
 正統派のジョージ・コールマン、爆発力を秘めたジュリアン・ブリースター、流麗なブッカー・リトルと続くアドリブソロは何れもがモード節なんですが、今もって斬新なフィーリングがたまりません。
 またドン・フリードマンが、エバンス派としては最も「らしい」雰囲気から脱却した力強さで感動的! 結論から言えば、実はドン・ブリードマンの参加が全篇でキメのスパイスになっている感があります。

A-2 Forvard Fright
 これがまた風変りなテーマメロディというブッカー・リトルのオリジナル曲で、幾何学的な構成と思わせぶりが妙に合致してしまった雰囲気でしょうか……。
 しかしアドリブパートでは、まずブッカー・リトルが十八番のマイナー節♪ 刺激的な「泣き」のフレーズは、どこかしら突き放したような感覚があり、それがクールと言えばミもフタもありませんが、私は好きです。そしてドン・フリードマンの鋭い伴奏も良い感じですねぇ~♪
 もちろんジョージ・コールマンやジュリアン・ブリースターも真摯な好演ですし、ドン・フリードマンのアドリブに至っては短いのが残念無念です。

A-3 Looking Ahead
 初っ端からアップテンポで全力疾走していくバンドの勢い、そしてサビというか中間部でのテンポダウンとアンサンブルにグッと惹きつけられる名演です。
 当然なからブッカー・リトルは作者の強みを活かしきった快演アドリブでツッコミまくりですし、ジョージ・コールマンは後に加わるマイルス・デイビス・クインテット時代を予感させる、そのウネウネと出口を探すような迷い道が、なかなか素晴らしい魅力になっています。またネライがミエミエのジュリアン・プリースターも憎めませんし、ドン・フリードマンが「朝日のように~」を引用した名演アドリブを聞かせれば、ピート・ラロッカは幾分すてばちなドラムソロです!
 おまけにレジー・ワークマンの痛快なウォーキングベースに導かれるラストテーマの爽快感! アンサンブルのハーモニーも新鮮ですし、このセッションの中では白眉のトラックだと思います。

B-1 If I Should Lose You
 このアルバムでは唯一演じられたスタンダード曲♪
 スローなリズム隊のグルーヴも素晴らしい雰囲気ですから、ブッカー・リトルも柔らかくも輝かしい音色でトランペットを響かせれば、もう私なんかは胸キュンで落涙寸前です。
 そして当然ながらアドリブでも「泣き」のフレーズと感極まったような音選びが琴線に触れまくり♪ ドン・フリードマンの伴奏も実に上手いサポートです。
 あぁ、何度聴いても素晴らしいですねぇ~♪

B-2 Calling Softly
 そしてこれまた幾何学的なテーマが一筋縄ではなかない演奏で、ワルツタイムが4ビートとゴッタ煮となって、さらにニコゴリになったような濃密グルーヴがたまりません。
 しかしアドリブパートは実に分かり易く、ブッカー・リトルは如何にものフレーズばかりです。バンド全体のアンサンブルも纏まりがありますし、ジョージ・コールマンの灰色のテナーサックスからジュリアン・ブリースターの温もり系トロンボーンへの受け渡しも、短いながら充実しています。
 そしてここでもドン・フリードマンが実に味わい深いのです。あぁ、もっと長いアドリブが聴けたらなぁ……。

B-3 Booker's Blues
 このアルバムの中では一番ヘヴィなグルーヴが楽しめる変態ブルースです。
 というか、アドリブパートはストレートでありながら、要所に隠された仕掛けがあるようで、煮え切らないサビがついているのですから、この不思議な緊張感は、まさに時代の最先端なんでしょうねぇ。
 ブッカー・リトルの流麗にして斬新なアドリブが圧巻♪ ドン・フリードマンも素晴らしすぎです。

B-4 Matilde
 オーラスは、完全にブッカー・リトルだけの世界というシンミリ系バラード演奏♪
 このマイナーというかネクラなハーモニーとメロディの展開は、重厚なホーンのアンサンブルもありますが、悲壮感に酔っているわけでは決して無いと私は思います。
 正直言えば、青春の哀しみのようなクサイ芝居が実に心地良いのがツライところでもあります……。これがラストレコーディングという意味からも、尚更にせつないのでした。

ということで、冒頭に述べたように実は「未完成」作品のような感じも隠せない演奏集です。ステレオのミックスもそれほど良いとは言えませんし、もうすこし演奏そのものが練られていたらなぁ……、なんて思うこともあります。

しかしブッカー・リトルのアドリブは流石の輝きを放っていますし、新鮮なリズム隊の活躍が、このアルバムを何時までも古びないものにしていると思います。特にドン・フリードマンは最高! このセッションを聴いていると、次にはドン・フリードマンのリーダー盤が聴きたくなること請け合いですよっ♪

そしてブッカー・リトルの青春物語、最終章に落涙です。まずは「If I Should Lose You」だけでも聴いて下さいませ。

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