さて昨日は緊急出張のために、おやじバンドの初練習に出られず、いきなり迷惑をかけてしまいました。尤も、私なぞが居なくても、バンドは成り立つように出来ているんですが、ちょっとさみしいな……。
また韓国で夜に行った某クラブには、なかなか粋なピアノトリオが出ていましたですね♪ きっと、こんなアルバムを聴いていたに違いないと思っています――
■Red Garland At The Prelude (Prestige)
1950年代中期のマイルス・デイビス(tp) を支えたピアニストとして、あまりにも有名なレッド・ガーランドは、単独でも夥しいリーダー盤を出していますが、必ず言われる悪口がカクテルピアニスト!
つまりマイルス・デイビスのバンド以外での演奏は緊張感が無いとか、リラックスしすぎるという点を揶揄しているんでしょうが、それで何故悪い!?
と反抗したくなるのが、若い頃からの私でした。
そりゃ~、ビル・エバンスのようなクールな緊張感に満ちた歌心とは違いますし、ウイントン・ケリーのような颯爽としたドライヴ感もありませんが、ブルースフィーリングと和みの歌心、そして絶妙の間を活かしたスイング感は「ガーランド節」として忘れられないものになっているはずです。
そしてリラックスしすぎ、という点が気になるならば、いっそ、そういう世界にどっぷりの作品を聴くほうが、精神衛生に良いと思うのですが、そこで、このアルバムです♪
録音は1959年10月2日、ニューヨークのプレリュード・クラブにおけるライブセッションで、メンバーはレッド・ガーランド(p)、ジミー・ロウサー(b)、スペックス・ライト(ds) となっています――
A-1 Satin Doll
デューク・エリントン楽団でお馴染みのヒット曲というよりも、ジャズでは永遠のスタンダード曲ということで、こういうクラブでは必須の演目だと思います。
もちろんレッド・ガーランドは快適なテンポでツボを押えた演奏に徹しており、決して難しいことはやりません。トリオとしてのキメの部分も、完全にお約束の世界にどっぷりで、心地良さは満点です。
特にドラムスとベースは、例えば同レーベルに数多く残されたアート・テイラー&ポール・チェンバースのコンビによる演奏とは異なり、鋭いドライブ感よりは和みの伴奏を心がけているようです。
しかし盛り上げるところは、きちんと演じますから、立派なモダンジャズになっているのでした。
ちなみに録音エンジニアは、ご存知、ルディ・ヴァン・ゲルダーですが、この人はライブレコーディングも上手いですねぇ~♪ お客さんのざわめき、食器の触合う音なんかが、絶妙のバランスで録られていて、雰囲気満点だと思います。
A-2 Perdido
これまたデューク・エリントン楽団のヒット曲なんですが、こういう営業では欠かせない演目だったんでしょうねぇ。ここでも快適すぎる演奏に嬉しくなってしまいます。
玉を転がすようなレッド・ガーランドのピアノタッチはもちろんのこと、余計な手出しをしないスペックス・ライトのブラシとハイハットのコンビネーションが、秀逸♪ ブロックコードを交えたレッド・ガーランドの盛り上げに、きちんと対応するあたりも最高です! 個人的にはドラムスばっかり聴いてしまう演奏なのが本音です。
A-3 There Will Never Be Another You
これも選曲が良いですねぇ、こういうクラブで、こんな演目が出たら、それだけで満足してしまいますが、演奏がこれまた快適にスイングしまくっています♪
レッド・ガーランドとしては、まあ、当たり前の出来だと思いますが、ここでもドラムスのスペックス・ライトが素晴らしく、トリオ全体からビシッと纏まったグルーヴが生み出されていると感じます。
また音に、ややシマリが無いのが残念ですが、ベースのジミー・ロウサーのアドリブソロは流石だと思います。
A-4 Bye Bye Blackbird
マイルス・デイビスのバンドでも名演を残しているレッド・ガーランドにすれば、十八番なんでしょう、ここでも素晴らしく和んだ演奏を聞かせてくれます。まず、テーマメロディの素直な解釈から薬籠中のアドリブに入っていくあたりが、たまりません♪ まあ、冷静に聴けば、それなりの出来かもしれませんが、こういうマンネリ的な快感は、なかなか生み出せるものではありませんから!
もちろんスペックス・ライトも最高です♪
B-1 Let Me See
A面がエリントンでいったからでしょうか、B面では冒頭からカウント・ベイシー楽団でお馴染みの曲が演奏されています。あぁ、この快適なノリはジャズを聴く喜びに満ちていますねぇ♪ 適度な荒っぽさが良いんです♪
特にクライマックスでのピアノ対ドラムスが、スリル満点です。
B-2 Prelude Blues
タイトルどおり、出演した店に捧げられたブルースが粘っこく演奏されます。
ジミー・ロウサーのベースからも本領発揮のグループが感じられ、レッド・ガーランドは安心してソウルフルな心情吐露に撤していきますから、本当にグッときます。
う~ん、それにしても強力なビートが出ていますねぇ~♪ トリオが一丸となってグイグイと盛り上がっていくあたりは、何度聴いていも凄いと思いますが、お客さんは雑談や飲食に一生懸命という店内の状況が完全に録音されており、これまた別の意味で素晴らしいジャズフィーリングだと思います。
何から何まで、当に名演!
B-3 Just Squeeze Me
そして、またまた快適なこの曲は、デューク・エリントンでお馴染みのスタンダードなんですから、全く上手く編集してあるアルバムだと思います。
しかし演奏は絶妙なブルースフィーリングがゴスペル感覚に変質していくという隠し味が効いており、熱くなります! やっぱりレッド・ガーランドのブロックコード弾きは魅力ありますねぇ~♪ 和みと力強さのバランスが素晴らしいかぎりです。
もちろんトリオとしての一体感も見事だと思います。
B-4 One O'clock Jump
アルバムの締めは、実際のステージでのクロージングで演奏されていた、カウント・ベイシー楽団でお馴染みの曲ですから、違和感がありません。
「間」を活かしたレッド・ガーランドのピアノは、明らかにカウント・ベイシーを意識した「芸」の世界だと思いますが、そこで活躍するのがスペックス・ライトのシンバルですから、最高に盛り上がっていきます。この曲は、お約束として最後の最後にテーマが出る仕掛けですから、こういう上手さは、本当にたまりませんねぇ~♪
ということで、演奏はもちろん楽しさに満ちていますが、アルバム全体の演目と編集が、それ以上に絶妙だと思います。実はこの日の演奏からは、都合4枚のアルバムが作られているのですが、纏まりは、これが一番でしょう。まあ、スローな演奏が1曲ぐらいは欲しいところではありますが……。
また近年は、コンプリートに集大成したCDボックスも発売されているようですが、まずはこのアルバムから聴くのが王道ではなかろうか、と思います。
ちなみにサイドメンのスペック・ライトとジミー・ロウサーはフィラデルフィア周辺で活動していたローカルミュージシャンらしいですが、なかなかの実力者であり、この当時は本場ニューヨークでも仕事が出来ていたのでしょう。こういうシブイ名手が聞けるのも、ライブ音源の魅力だと思います。