ちょっとした友人が選挙に出るというので、挨拶しに来たんですが、あんまり卑屈にペコペコするんで、ちょっと哀しくなりました。気持ちは分かりますが……。
ということで、本日はこれを――
■LD+3 / Lou Donaldson With The 3 Sounds (Blue Note)
夢の対決盤は数あれど、これぞレーベルを代表する人気者が一騎打ち!
となるはずだったんでしょうが、意外にも滋味あふれる作品だと思います。
もちろんルー・ドナルドソンはファンキー・コテコテ派という以前に、チャーリー・パーカー直系のビバップ魂を内包したモダンジャズ王道を行く名手ですし、スリー・サウンズだって、快楽的ピアノトリオというよりも、纏まりの良いリズムユニットとしの側面がありますから、無闇やたらにガリガリやるだろうというのは、リスナーの勝手な思い込みに過ぎないのでしょう。
録音は1959年2月18日、メンバーはルー・ドナルドソン(as)、ジーン・ハリス(p)、アンドルー・シンプキンス(b)、ビル・ドゥディ(ds) となっています――
A-1 Three Little Words
小粋なメロディのスタンダード曲ですから、このテが得意なスリー・サウンズが薬籠中のノリを活かしてルー・ドナルドソンを翻弄するかと思いきや、何といきなり冒頭から快調過ぎる吹奏で、場をグイグイと盛り上げていくルー・ドナルドソンが強烈です。
もちろんリズム隊は、スリー・サウンズの名に恥じない纏まりを聞かせてくれます。伴奏の部分では、やや気後れしている雰囲気もありますが、自分達だけのアドリブパートになれば、十八番のヘッドアレンジでリズム的興奮を呼ぶドライヴ感が見事ですし、ジーン・ハリスのピアノからはノリの良いフレーズしか出てきません。
心底、ジャズの楽しさに溢れた演奏は、もう最高です♪
A-2 Smooth Groove
どこを聴いても曲名どおりの雰囲気しか無い、ルー・ドナルドソンのオリジナルというブルースです。それは全くシンプルで分かり易いフレーズしか吹かない作者の思うツボ! 黒くてファンキーな「節」が連発されていくのですから、たまりません。
当然、それはスリー・サウンズにとっても望むところなんでしょう、アンドルー・シンプキンスのベースはグルーヴィに蠢き、ジーン・ハリスのビアノからはブルースの魂が放出されます。
しかしビル・ドゥディのドラムスはゴスペル色を強めながらも王道の4ビートを大切にしていますから、下卑た結論に達していないあたりが、賛否両論かもしれません。
A-3 Just Friends
これがまた、サックス奏者には必須のスタンダード曲ですから、終始快適なノリで飛ばしまくるルー・ドナルドソンが痛快です。楽しいテーマ吹奏から、その変奏に近いアドリブパートの歌心♪ 素晴らしいですねぇ~、これがモダンジャズの王道だと思います。
そして快適なグルーヴを提供するリズム隊の楽しさも格別です。ジーン・ハリスの小細工の無い演奏姿勢があればこそ、終盤の盛り上げを素直に楽しめるですねぇ~。ベースソロもドラムスとのソロチェンジも、軽いタッチで良い感じです♪
A-4 Blue Moon
ジャズに限らずポップス全般で人気のスタンダード曲ですから、ここでのメンツはどうかと思えば、全く肩から力の抜けた気楽な快演になっています。
自然体というか、ノーテンキ寸前の日暮系の気安さは、3分ほどの短い演奏という部分がミソになっているようです。
B-1 Jump Up
B面に入っては、トップを飾るに相応しい熱いモダンジャズを聞かせてくれます。
ルー・ドナルドソンの演奏スタイルは、ここで完全にチャーリー・パーカー直系のスタイルを披露していますが、エキセントリックなところは全く無く、逆に分かり易くて、どうもすみません! あぁ、これこそジャズの真実かもしれませんですね。
しかし続くアンドルー・シンプキンスの攻撃的なベースソロからは、楽しさと同時に、ある種の頑固さが感じられて好感が持てますし、それを受けて始まるジーン・ハリスのアドリブは、嫌な予感から快楽的な広がりへと、猛烈に飛翔していく素晴らしさです。クライマックスのブロックコード弾きあたりの団子状のグルーヴは、最高ですねぇ~♪
そして、こうなると黙っていられない雰囲気のルー・ドナルドソンがラストテーマの前に大暴れ! しかし肩の力が抜けているで嫌味になっていませんです!
B-2 Don't Take Your Love From Me
大らかな歌心を存分に発揮するルー・ドナルドソンの一人舞台から、快調な吹奏に終始する演奏姿勢が素晴らしいと思います。けっして難解なフレーズも独り善がりのノリもやっていませんから、そこが物足りなくなるのがジャズファンの欲張りなところかもしれません。
しかしスリーサウンズの面々も、そこは百も承知のナイスフォロー! 特にアンドルー・シンプキンスのベースソロが最高です。
そして終盤では、それに気がついたのか、ルー・ドナルドソンが目の覚めるような痛快なアドリブフレーズを連発してくれるので、熱くなりますよ♪
B-3 Confirmation
アルバムの締め括りは、モダンジャズ定番のビバップ聖典曲!
ただしルー・ドナルドソンから、何故か気抜けの雰囲気が漂うのが……。けっして悪い出来ではないんですが、やはりどうしても神様チャーリー・パーカーと比較されてしまう運命から逃れきれていないという悪循環だと思います。
そこへいくと、ジーン・ハリス以下の面々は気楽にスイングして、グルーヴィな雰囲気を自然に生み出していくところがありますから、これだけは、このセッションでは無かったことにするべきかも……。
と、まあ、最後に不遜な事を書きましたが、全体としては気軽に楽しんでいけるアルバムだと思います。特に初っ端の「Three Little Words」は、同曲のジャズバージョンとしても決定的な名演ではないでしょうか。
あと、もう少しコテコテ色が強かったら、どうなっていたか? 3年ほど後に共演していたら、ジャズロックとかゴスペルハードバップの聖典のような作品になっていた可能性も……♪ そういう妄想も秘めた快楽盤ということで、お楽しみ願います。