OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

辿り着いたラムの魅力の裏表

2012-05-30 14:40:55 | Beatles

RAM / Paul & Linda McCartney (Apple / Capitol)

1971年のポールについては、何をどう言っていいかのか……?

それは現在の偽りの無い気持であって、当時を回想してみても、例えマスコミ主導の作為があったかもしれないとは思いつつ、ジョンとの対立は本当に意地の張り合いという様相もあり、また元ビートルズの立場では、他の3人から孤立しているという印象がありました。

ですから、丸っきりジョンとヨーコに対抗する形で愛妻のリンダと共に音楽活動を始めたポールに対し、何を今更という気分があった事は確かです。なにしろリンダの本職は写真家であって、ポールと一緒の音楽活動なんてのは、その足をひっぱるんじゃ~なかろうか……?

そりゃ~、ヨーコだって音楽家ではなく、前衛芸術家だったわけですから、ジョンの純粋な音楽活動にどれだけ貢献していたかについては、決して確かな結論はありませんでしたが、少なくも「前衛芸術」というイメージがジョンという稀代のロックアーティストの触媒になっているのではないか!?

賛否両論は「否」が多かったとはいえ、そんな漠然としたベクトルが良い方向に作用していたとファンに思い込ませる「何か」があった事は間違いありません。

そして、そうした状況こそが、リアルタイムの我国洋楽好きには常識化(?)していた最中、会心のシングルヒット「Another Day」に続いて発売されたアルバムが「ラム」だったんですが、これがヤバかったのは、リーダー名義がポール&リンダになっていたことでしょう。

ご存じのとおり、ポールには以前に「マッカートニー」というソロ名義とはいえ、ほとんどデモテープの域を出ない不完全燃焼のアルバムを出してしまった前科(?)があり、なんだぁ……、今度は夫婦の家内工業かよぉ……。

という悪い予感に満たされた失望感が、少なくもサイケおやじには先入観念としてあったのですから、友人から貸していただいた「ラム」のエアチェックテープを鑑賞したところで、共感出来るはずもないのは当然という言い訳も、今となっては成立するほどです。

で、このあたりの事情については、既に「出ておいでよ、お嬢さん / Eat At Home」の項でも書いたつもりですが、付け加えるならば、このヘタウマ感満点のジャケットデザインからは全くロック魂が感じられなかったのもマイナスでり、確かに当時の流行りのひとつとしての「ホームメイドな田舎暮らし」というテイストは認められますが、個人的にはなんだかなぁ……。

ところが、虚心坦懐に中身の音楽に接してみれば、これが実にジャストミートな仕様であって、極言すれば、このジャケットデザインでなければ、「ラム」という名盤が成立しないと思うほどです。

 A-1 Too Many People
 A-2 3 Legs / 3本足
 A-3 Ram On
 A-4 Dear Boy
 A-5 Uncle Albert ~ Admiral Halsey / アンクル・アルバート~ハルセイ提督
 A-6 Smile Away
 B-1 Heart Of The Country / 故郷のこころ
 B-2 Monkberry Moon Delight
 B-3 Eat At Home / 出ておいでよ、お嬢さん
 B-4 Long Haired Lady
 B-5 Ram On
 B-6 The Back Seat Of My Car

まず、告白しておくと、サイケおやじが一番に魅力を感じる「ラム」の本質としては、ポールのボーカルに寄り添う、時には対等以上の存在感を聞かせてくれるリンダのコーラスと歌声なのです♪♪~♪

いゃ~、これが本当に素敵なんですよねぇ~♪

もちろん全篇にぎっしりとつまったポールならではの「マッカートニー節」は、例えば刹那の名曲「Dear Boy」や美味しいメロディがテンコ盛りの「The Back Seat Of My Car」、ハートウォームな「故郷の心 / Heart Of The Country」、お気楽なムードと辛辣な歌詞のコントラストがニクイ「Ram On」等々で全開しているわけですが、果たしてこれがポールだけの独演独唱であったなら如何に……。

そう思う他はありません。

ですからニューヨークでの本格的なスタジオ録音というメリットを活かすべく、当地の一流セッションミュージシャンだったヒュー・マクラッケン(g) やディヴィッド・スピノザ(g) を雇い、後にはウイングスの結成にも参加するデニー・シーウェル(ds) をオーディションから起用した演奏パートの充実も、またそれを想定しての事だったのでしょうか。

と言うよりも、安定したそれがあってこそ、ホール&リンダの魅惑の夫婦デュエットが活きたというべきかもしれません。

中でも既に述べたとおり、「出ておいでよ、お嬢さん / Eat At Home」の楽しさは絶品であり、全く意味不明の内容がR&Rの本質でもある「Monkberry Moon Delight」や完全にリンダを歌っている「Long Haired Lady」あたりは気恥ずかしくなるほどですが、それも許せるんですよねぇ~。

しかし一方、冒頭に述べたようなジョンとの確執を露骨に表現する事も辛辣の極みであり、イヤミ丸出しの「Too Many People」とか、三人ではビートルズは出来ないという苦言を呈したが如き「3本足 / 3 Legs」には、いやはやなんとも……。

う~ん、それがあればこそ、「Smile Away=笑いとばせ」とやらざるをえなかったポールの気持も分かるんですが、若気の至りと解するにはあまりにも……、ですよねぇ。

結局、ポールにはそうした攻撃性なんか似合うはずもなく、そこがイノセントなロックファンには物足りない部分とまで言われているんですが、その意味で「アンクル・アルバート~ハルセイ提督 / Uncle Albert ~ Admiral Halsey」のドリーミーなポップメドレーは効果音やオーケストラの使い方もニクイばかりの仕上がりで、アメリカではシングルカットされてのチャートトップもあたり前田のクラッカー!

ただし、サイケおやじとしては、あまり好きな曲ではありません。

それはポールの十八番とも言うべき、複数の異なる曲=メロディを強引とも思える手法で合体させる、ある意味での強姦主義にはイマイチ共感出来ないからなんですが、こうした遣り口はビートルズ時代の「恋を抱きしめよう / We Can Work It Out」とか「A Day In The Life」、さらには「アビイロード」のB面メドレーの卓越した構成力が見事な成果となった前例が忘れられないからなんでしょうか?

揚げ句、この「アンクル・アルバート~ハルセイ提督 / Uncle Albert ~ Admiral Halsey」がアメリカで大ヒットしてしまったのでは、殊更ウイングス時代にも同じ手口が繰り返される免罪符なんですかねぇ~~?

やっぱり天才的メロディメーカーのポールには、完結型の楽曲で勝負して欲しいわけですし、まさかとは思いますが、ジョンの「Happinees Is A Warm Gun」が大傑作と絶賛された事への対抗意識だとしたら、なんだかやりきれません。

ということで、最後に至って些か否定的な心情吐露もやってしまいましたが、それでも「ラム」は愛すべき名盤という思いに変わりはありません。

そしてジョンへの対抗意識という部分においては、「ラム」が出た同じ1971年末にジョンが畢生の大傑作「イマジン」を発表してしまったがために、尚更しょ~もない結末になってしまったわけですが……。

そんなこんなの長年のファン心理にポールがやっと応えてくれたというか、ついに発売なったのが、所謂「デラックスエディション」という豪華再発盤!



掲載したオフィシャル映像でご覧になれるとおり、それは「ラム」本体アルバムのリマスター、モノラルバージョン、アウトテイク入りのボーナスディスク、インストアルバム「スリリントン」、さらに映像DVDという5枚のディスクと手書きの歌詞カードや写真集等々のオマケをどっさりつけた豪華仕様は、イマイチ煮え切らないものを残す「ラム」という名盤の謎解きを秘めている!?

と思いたいところです。

またアナログ盤LPの2枚組も同時に出てしまうんですから、罪作りといっては贔屓の引き倒しでしょうか。

とりあえずサイケおやじは万難を排してゲット致しましたが、それとて「持っていないと安心出来ない」という精神衛生上の問題をクリアするためなんですから、情けない……。

結局、そんなブツを未開封のまんま、飾っておくバチアタリも、やっぱり最初のアナログ盤に針を落す行為で許されるはずと、自分に言い聞かせているのでした。

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする