OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

QMSの愛しのシェイディ

2010-01-06 11:11:29 | Rock

Shady Grove / Quicksilver Messenger Service (Capitol)

サンフランシスコのサイケデリックロックが全盛期に登場したクイックシルバー・メッセンジャー・サービス=QMSは、常にバンドの方向性を変えながら、決して持ち味を失わなかった稀有な存在だと思います。

というのも、例えば本日ご紹介のアルバム「シェイディ・グローヴ」はデビューから通算3作目の人気盤なんですが、実は前作の大ヒットアルバム「愛の組曲」で見事に繰り広げられていたエレキギターのアドリブ合戦をメインとした、所謂ギターロックの真髄から大きく離れてしまった造りでありながら、それゆえに全く別次元の傑作になっています。

その要因は前作までのレギュラーメンバーだったゲイリー・ダンカン(g,vo) が脱退し、新たにイギリスの有名セッションプレイヤーとして既に重要な活躍をしていたニッキー・ホプキンス(p,key) が正式に参加したことによります。

もう、あえて書くまでもありませんが、ニッキー・ホプキンスと言えばストーンズやジェフ・ペックが作り上げた名盤群では歴史的な名演を披露し、また広くイギリスの音楽業界では重宝されていた名手ですから、それが何故にQMSにレギュラー参加したのかが、大きなミステリでもありました。

こうして新生QMSはジョン・シポリナ(g,vo)、ニッキー・ホプキンス(p,key)、デヴィッド・フライバーグ(b,vo)、グレッグ・エルモア(ds,per) という4人組として再出発のレコーディングが1969年初夏頃からスタートし、結果的に出来あがった「シェイディ・グローヴ」は最高の売り上げを記録したのです。

 A-1 Shady Grove
 A-2 Flute Song
 A-3 Three Or Four Feet From Home
 A-4 Too Far
 A-5 Holy Mply
 B-1 Joseph's Coat
 B-2 Flashing Lonesome
 B-3 Words Can't Say
 B-4 Edward, The Mad Shirt Grinder

ただし以前からのギターロックのアドリブ合戦を高く評価していた評論家の先生方や業界関係者からは、発売直後のウケが悪かったようです。

何故ならば、この「シェイディ・グローヴ」はニッキー・ホプキンスの流麗なピアノがサウンドの要であり、それまでのウリだったジョン・シポリナの哀愁を含んで泣きまくるギターソロが大きく減少していたからに他なりません。

しかし収録の各楽曲は、それまでのブルースロック的なアプローチに加えて、ニッキー・ホプキンスが持ち込んだと思われる流麗なポップクラシック風味、英国流儀のジェントルなフィーリング、さらにアメリカ南部というか、後に所謂スワンプロックと称される味わいも強く滲ませた名曲ばかりですから、売れまくったのもムペなるかな!

まず冒頭のアルバムタイトル曲「Shady Grove」からして、流麗なニッキー・ホプキンスのピアノを要に、実にドラマチックなバンドアンサンブルが力強いロックへと変転していく流れが最高の気持良さ♪♪~♪ ジョン・シポリナと金属的なギターとニッキー・ホプキンスの流石のピアノが見事に溶け合った名演だと思います。

そして続く「Flute Song」では不思議なストリングやキーボードの多重録音も駆使した、実に物悲しい世界は、キング・クリムゾンの「Epitaph」と双璧の美意識に満たされているのです。あぁ、たまりませんねぇ~~♪

また一転してブルースロックの脱力的展開という「Three Or Four Feet From Home」は、黒人ブルースの古典「Sweet Home  Chicago」を替え歌的にやってしまった最高の息抜きとなり、いよいよA面ではもうひとつのハイライト「Too Far」へと繋がるのです。

う~ん、それにしても「Too Far」のじっくり構えて熱く盛り上がっていくゴスペルロックの真相は、ニッキー・ホプキンスの参加があるとはいえ、当時のストーンズやヴァン・モリソンあたりにも演じて欲しかったという贅沢を言いたくなるほどですが、QMSの名演は唯一無二の名唱名演♪♪~♪ それが極めて自然に続篇的な「Holy Mply」へと続いていく流れも極みつきだと思います。後半のフェイセスっぽさも良い感じ♪♪~♪

こうしてB面に針を落とせば雰囲気は一変、力強いサイケデリックロックの保守本流という「Joseph's Coat」が絶妙の安心感ですし、哀しみが美しさにまで昇華された「Flashing Lonesome」は、ニッキー・ホプキンスの的確なピアノのサポートとジョン・シポリナのジャズっぽいギターが怖いほど冴えています。加えてデヴィッド・フライバーグのペースが、地味ながら良い仕事なんですねぇ~♪

さらにフォークロックからウエストコーストロックへの懸け橋っぽい「Words Can't Say」も味わい深いです。

そして始まるのが、ニッキー・ホプキンスが一世一代の名曲名演として屹立する「Edward, The Mad Shirt Grinder」で、もう、イントロから流れ出る熱くて美しいピアノと力強いロックジャズのビートに酔い痴れても許される世界が素晴らしいかぎり!

しかも中盤からは、ジョン・シポリナが十八番のスペーシーなギターソロでニッキー・ホプキンスのピアノと最高のコラポレーションを聞かせてくれるんですねぇ~♪ もちろんドラムスとベースも完全無欠なサポートを繰り広げていますし、ニッキー・ホプキンスのオルガンが、これまた素敵な隠し味です。

あぁ、何度聴いても体内の血が逆流して、ヤル気が沸いてくる演奏ですよ。

ちなみにこの味わいは我国の井上バンドあたりが1970年代に担当していたテレビドラマの劇伴とか、同時期の映画サントラ音源に強い影響を与えていると思うのは私だけでしょうか。後半のオルガンソロやリズムパターンは、ほとんど太陽にほえたくなりますよ。

ということで、これも全くサイケおやじが大好きに愛聴盤です。

ウエストコーストロックという概念が何時、どうやって誕生したのかは知る由もありませんが、所謂ハリウッドポップスやサイケデリックロックとは明らかに違う何かが、このアルバムには濃厚に感じられます。

それはニッキー・ホプキンスという英国ロックのど真ん中で活動していたミュージシャンの参加が大きいのは言わずもがなでしょう。それゆえにジョン・シポリナのギターが時にはキング・クリムゾンのロバート・フリップに近くなったり、プログレやロックジャズの色合いを強く滲ませているところにも、その秘密があるのかもしれません。

そしてウエストコーストロックの初期というか、そのひとつの形が、この「シェイディ・グローヴ」だと、私は密かに思うほどですから、イメージ的には逆のものが融合しているのは、ちょいと不思議ですよねぇ。

しかしQMSという素晴らしいバンドにとっては、このアルバムでさえも通過点でありました。なんとまだまだ、その有為変転は続いていくのですが、それは別の機会に譲ることにして、まずは皆様には、この名盤をお楽しみいただきとうございます。

コメント
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