OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

2年遅れのクリムゾンの宮殿

2009-05-17 09:44:56 | Weblog

In The Court Of Crimson King / King Crimson (Island)


ブログレッシヴ・ロック、通称プログレの金字塔にして大衆音楽のひとつの側面を見事に確立させた人類の遺産!

そう言い切って、決して過言ではない超名盤でしょう、これはっ!

しかし、それは今となっての感想で、我が国での発売状況を鑑みれば、果たして最初から、そうだったのか!?

そんなふうに私は思う時があります。

何故って?

オリジナルの発表はイギリスで、1969年10月とされていますが、我が国では確か1971年! しかも私の記憶によれば、キング・クリムゾンでは通算3作目にあたる「リザード」の次に発売されたのですよっ!

しかも最初は、それほど話題にはならなかったと思います。何しろ当時の一番人気はレッド・ツェッペリンになっていましたし、他にもクリーデンス・クリアウォーター・リバイバル=CCR、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング=CSN&Y、ブラッド・スエット&ティアーズ=BS&T、テン・イヤーズ・アフター=TYA、スリー・ドッグ・ナイト=3DN、グランド・ファンク・レイルロード=GFR等々、やったらに長ったらしいバンド名の人気グループが、歴史に残る名盤を連発していた時期です。

もちろんビートルズのメンバー達やストーンズは別格!

さらにオールマン・ブラザース・バンドやロッド・スチュアート、ディープ・パープルといったハードロック系に加えて、キャロル・キングやジェームス・テイラー、エルトン・ジョンあたりの所謂シンガーソングライターが、さらにブラスロックのシカゴやラテンロックのサンタナあたりが、時期スタアの座を狙っていたのですから、本当に当時のロックは熱かったです。

で、そんな中で発売された、このキング・クリムゾンの名盤は、ジャケットにアルバムタイトルもバンド名も記載されておりませんから、日本盤には特有の「帯」が巻かれ、その邦題がご存じ「クリムゾン・キングの宮殿」ですし、何よりも怖いジャケットのイラスト!

これじゃ、最初っから腰が引けてしまいますよね。

ところが、ここに凄い「ウリ文句」が広まります。

それはビートルズの「アビイロード」をチャートの首位から引きずり下ろした!?!

これは現在では、真っ赤なウソとして扱われていますが、情報が不足していた1971年当時の我が国の青少年ロックファンは、それだけで偉大な金字塔として、このアルバムを聴かなければならないという逼迫感に苛まれたのです。

もちろんサイケおやじも、そのひとりでした。

そして昭和46(1971)年の暮になって、ようやく入手して聴くことが出来たそこには、確かに恐ろしく、しかも耽美な世界が封じ込められていたのです。

キング・クリムゾンは1968年12月頃に正式発足し、紆余曲折の末に翌年のデビュー時にはイアン・マクドナルド(sax,fl,key,vo,vib,etc.)、ロバート・フリップ(g,key)、グレッグ・レイク(el-b,vo)、マイケル・ジャイルズ(ds,per)、そして曲作りやステージの演出を担当する詩人のピート・シンフィールドの5人組として、この名盤アルバムを作っていますが、既にデビュー前から業界関係者の間では評判も高く、それは新しいロックのスタイルとして、所謂プログレの需要が高かった証かもしれません。

ちなみに当時のプログレでは、ピンク・フロイドが、あの「原子心母」を出し、またムーディ・ブルースが名作アルバムを意欲的に連発ヒットさせていた黄金期ですし、他にもイエスとかソフトマシーンのようなロックジャズ系のバンドさえも、プログレ街道へと歩み始めていたのは、言わずもがなでしょう。

A-1 21st Century Schizoid Man / 21世紀の精神異常者
 こんなに驚かされた曲と演奏もありませんっ!
 まずレコードに針を落として聞こえてくるのが、妙に不気味なノイズと雑音ですからねぇ~、一瞬、ステレオが壊れたのか思ったほどです。
 が、次の瞬間、あのヘヴィなリフの大合奏! そして歪みきった叫びのボーカル! グイグイと嵐の中を突き進んで行くが如き前向きな姿勢に、いきなり凄いなぁ~、と思わされましたですね。
 そして猛烈にスピードアップして、強烈なウネリと鉄壁のアンサンブルで演じられる驚愕のキメのリフ! そこからロバート・フリップのギターとイアン・マクドナルドのサックスが激情的なアドリブソロを聞かせつつ、その背後では好き放題に暴れるマイケル・ジャイルズのドラミングが、あらゆるリズムパターンを包括した素晴らしさ! また混濁しながらフリーロックに躍動するグレッグ・レイクのエレキベースも強烈です。
 そしてそれを収束させるのが、4分半あたりから突入して行く、ストップタイムを使いまくった危険極まりないキメのリフのスリルとサスペンスです。
 あぁ、さらに悶絶させられますねぇ~~~♪
 ここは分かってはいるんですが、何度聴いても、誰かがミスってしまうんじゃないかと、ハラハラドキドキさせられるんですよっ! しかし絶対に誰もミスらないという、そのギリギリの緊張感が、最高の極みとしか言えません。
 大団円のラストテーマがヘヴィに盛り上がり、ドス黒い余韻を残して終わるかと思いきや、またまたバンドが未練の雄叫びも、見事に次曲へと繋がっていきます。

A-2 I Talk To The Wind / 風に語りて
 そして一瞬の間合いで始まるのが、この和みのジャズフォークソング♪♪~♪
 イントロのストリングスオーケストラ系の音は、イアン・マクドナルドがフルートとメロトロンという、管弦楽の響きに近い音を作り出せるキーボードで演じたもので、この「音」の響きが全篇を決定づけています。
 もちろん歌メロのゆったりして和やかな魅力は言わずもがな、グレッグ・レイクのヘタウマボーカルが良い感じ♪♪~♪
 そして間奏で聞かれるイアン・マクドナルドのジャズっぽいフルート、またジム・ホールからパット・メセニーに繋がる美しき流れの間に位置するようなロバート・フリップのギターも最高です。
 また、ここでも実に刺激的なドラミングを聞かせるマイケル・ジャイルズは本来、モダンジャズの世界でも活躍していたそうですから、さもありなん! そのタイトにビシバシと印象的なスタイルは、ロイ・ヘインズとジャック・ディジョネットの折衷かもしれませんが、実はマイケル・ジャイルズだけにしか敲けないオリジナルでしょうねぇ~♪
 ちなみに、ここではジャズメンの名前を様々に出してしまいましたが、リアルタイムの高校生の時には、それを知っているはずもないサイケおやじですから、完全な後付けです。しかし、その新鮮な存在感というか、それまでのロックでは聞けなかった刺激的なピートとリズムには、怖いものを見てしまったような……。

A-3 Epitaph
 なんて思っていると、前曲の最終フェードアウト部分に被さって聞こえてくるのが、この感動の名曲の大袈裟なイントロです。マイケル・ジャイルズの劇的なドラミングとイアン・マクドナルドのメロトロン、そしてロバート・フリップのギターが絶妙のお膳立て!
 そしてグレッグ・レイクが畢生の入れこみ歌唱! 失礼ながら、そんなに上手いボーカリストでは無いと思うグレッグ・レイクにして、ここまでの「歌いっぷり」が実に素晴らしいです。
 いや、というよりも、バックの演奏の完璧さとギリギリの状態までテンションが上がっているボーカルの対比、それこそが感動を呼ぶんでしょうかねぇ~~♪
 曲そのものも、意味不明にして荘厳な歌詞、せつないメロディと演奏アンサンブルのドラマチックな展開が、もうこれ以上無いという危険な関係に発展しています。
 そして特筆すべきは、ここまでのA面の流れの素晴らしさでしょう。
 それがあってこそ、この曲と演奏が見事な大団円になっているんですねぇ~。
 これについては、様々なご意見があろうことは、百も承知の暴言だと、自分でも思います。しかし、何度聴いても、このA面の流れには血が騒ぎ、感動させられます。圧倒されます!
 ちなみにグレッグ・レイクは、自分のバンドのライブでは、今でもこの曲を歌っているそうですが、それが出ないと収まらないことは分かっていても、あまり必然性は無いでしょうねぇ……。それほど、ここでの感動は大きいということです。

B-1 Moonchild
 そしてB面にレコードをひっくり返すと、ここでも静謐なフォーク系のメロディと夢幻的な歌詞が、幾分歪んだボーカルで歌われます。
 もちろんそのバックには、シンプルにして刺激的なジャズっぽい伴奏が存在していますから、なんと間奏のパートに入ると、ロバート・フリップ、マイケル・ジャイルズ、そしてイアン・マクドナルドがフリーにして環境音楽系のアドリブを演じてしまうんですねぇ~♪ エレピとヴァイブラフォンをメインに使うイアン・マクドナルドに対し、ジム・ホール系のギターで深淵なフレーズを投げかけるロバート・フリップ、その空間を埋めていくかのようなマイケル・ジャイズのドラムス……。
 正直言うと、これはリアルタイムのサイケおやじには、完全に???の世界でした。
 だって、音の出ていない時間があるというか、その時空の緊張感と歌心の無いアドリブフレーズの応酬、そしてアナログ盤ですから、音の強弱と針音ノイズの関係が、通常の大衆音楽とは反比例するように耳ざわりな……。
 今にして思えば、これはECMレーベルあたりで作られるジャズ作品と共通する味わいなんでしょうが、どうも私には苦手な世界ですし、フリージャズの要素が濃厚なのは言わずもがなでしょう。
 しかし、それを我慢して通り抜けてしまうと、再び安らぎのメロディがジンワリと滲んでくるという仕掛けが、憎たらしいほど! 何、この中華メロディは?
 こうした展開は、後のキング・クリムゾンでは常套手段となるのですが……。

B-2 In The Court Of Crimson King / クリムゾン・キングの宮殿
 こうして突入するアルバムタイトル曲は、例によって劇的なマイケル・ジャイルズのドラムス、大袈裟なイアン・マクドナルドのメロトロン、さらに上手すぎるロバート・フリップのギターに導かれたグレッグ・レイクの情緒不安定なボーカルが荘厳なメロディを歌うという、まさにキング・クリムゾンの黄金律が聞かれます。
 そして中間分の演奏パートではビートルズのマジカルミステリーっぽさ、あるいはピンク・フロイド流儀の作り込み、そしてムーディ・ブルースやプロコルハルム仕込みのクラシック趣味が、適度なジャズ味で煮〆られ、さらに盛り上がっていくのです。
 しかし……。
 告白すれば、今も昔もサイケおやじは、このB面の流れには些か、ついていけないものを感じています。
 イアン・マクドナルドのフルートによる素晴らしいアドリブから、最終パートの歌が始まり、ぐわ~~ん、と盛り上げておいてのワザとらしい疑似ラストシーン、さらにブチ切れたような終わり方にもイヤミを感じてしまうのですが、いかがなもんでしょうか?

ということで、何度聴いても圧倒されるアルバムでありながら、私は、ほとんどA面しか聴きません。CDだったらノー文句でB面ラストまで一気に聴かされてしまうんでしょうけど、それじゃ疲れてしまうと思うんですよ。

その意味でアナログ盤は、上手く出来ていますねぇ~♪

あと、キング・クリムゾンといえば、ロバート・フリップのバンドという雰囲気が、現在は濃厚になっていますが、このデビュー盤では、むしろイアン・マクドナルドとマイケル・ジャイルズが目立ちまくっています。そしてこの2人が、このアルバム発表直後のアメリカ巡業中に脱退を決意してしまうのですから、後はムべなるかな……。グレッグ・レイクにしても、あのエマーソン・レイク&パーマーの結成へと向かっていくのです。

その意味で、ギリギリのパワーバランスが最良の形となって、ここに記録されたのは、まさに人類にとっては幸せだったと思います。これは決して大袈裟な書き方ではないでしょう。このアルバムから出てくる音、そしてジャケットの雰囲気も含めて、これしか無い!

むろん、後は私がB面を好きになれるかが、今後の個人的な課題というわけですが、あぁ、ようやく4ビートが聴きたくなってきました。

最後になりましたが、ここでのマイケル・ジャイルズのドラミングの驚異的な凄さは、やっぱり最高です。演奏とドラムスが、これほど素晴らしく対峙して融合した例としては、例えば「Now He Sings, Now He Sobs / Chick Corea (Solid State)」でのロイ・ヘインズ、「Four & More / Miles Davis (Columbia)」におけるトニー・ウィリアムスと比較して、全く遜色が無いものと確信しております。そしてマイケル・ジャイルズは、この名演を残して以降、数々のセッションでも敲いておりますが、実はこれほどのドラミングは、二度と聞かせてくれないのでした……。

このアルバムでマイケル・ジャイルズを楽しむ! それがジャズ者の掟かもしれません。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする