OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

忘れていた朝のショーター

2009-05-14 09:37:12 | Jazz

Schizophrenia / Wayne Shorter (Blue Note)

あれぇ、なんだっけ……?

という曲名を失念したメロディの断片が自意識の中に浮かんでしまうことは、誰にでもあることだと思いますが、昨夜の就寝前から私の感性を独占していたそれが、このアルバムに入っていることに気がついたのは、本日の早朝でした。

そこで早速、久々の鑑賞に入ってみると、これがタイトルどおりに分裂したウェイン・ショーターの幅広い音楽性が存分に楽しめる傑作盤だと再認識!

録音は1967年3月10日、メンバーはカーティス・フラー(tb)、ジェームズ・スポールディング(as,fl)、ウェンイ・ショーター(ts)、ハービー・ハンコック(p)、ロン・カーター(b)、ジョー・チェンバース(ds) という、実力派のセクステットです。

A-1 Tom Thumb
 これが前述した曲名失念のメロディ! その演奏です。
 ほとんどホレス・シルバー(p) の「Song For My Father」にクリソツというイントロから、そのリズムパターンをラテンロック系のモダンジャズへと発展させていくゴッタ煮感覚が、まず最高です。
 作曲はもちろんウェイン・ショーターですが、そのテーマをリードしていくのが、ジェームズ・スポールディングのウソ泣きアルトサックス! そしてもうひとつメインのメロディがテナーサックスとトロンポーンによるカウンターリフで演じられるアンサンブルの心地良さ♪♪~♪ ジョー・チェンバースの刺激的なドラミングとハービー・ハンコックの楽しい合の手ピアノにもウキウキさせられますよ♪♪~♪
 そしてウェイン・ショーターが演じるアドリブは、キメが十八番の脱力節! グッと煮詰めて、一瞬にしてズッコケさせるようなフレーズの使い方は、すべらない話だと思いますが、いかがもんでしょう♪♪~♪ 私は、これをやってくれるんで、ウェイン・ショーターが大好きなのです。
 さらにハービー・ハンコックのファンキーでありながら斬新なピアノ、今にも走りだしそうなジョー・チェンバースのヘヴィなドラミング、我が道を行くジェームズ・スポールディングのアルトサックスという共演者達の自己主張も侮れません。
 あぁ、名曲名演とは、こういう充実度を指すんだと思います。
 ちなみに、例えば作者本人がボビー・ティモンズ(p) と演じているように、この曲はワンホーン演奏も幾つかのバージョンが残されていますが、やはり複数管で表現されるテーマアンサンブルがあってこその魅惑曲じゃないでしょうか?
 あと、スティーリー・ダンは、これを聴いていたのか!? 彼等は絶対に好きなはず! 私は、そう信じています。Rikki Don't Lose That Number ♪♪~♪

A-2 Go
 ウェイン・ショーターが得意技というミステリアスな曲調は、後のウェザーリポートを強く感じさせます。
 アドリブパートも、まずはハービー・ハンコックの実に新鮮なハーモニー感覚が素晴らしく、またここでも刺激的なジョー・チェンバースのドラミング、さらに怖いロン・カーターのペースワークが圧巻!
 ですからジェームズ・スポールディングのフルートが些か委縮気味に聞こえてしまうんですが、いよいよ登場するウェイン・ショーターが隠れ名演の決定版を披露してくれますよ。それは演奏を貫く複合ビートの間隙を縫うような、まさに独特の浮遊感と過激なフレーズの化学変化とでも申しましょうか、一筋縄ではいきません。
 それゆえに、とっつきにくいムードも強いのですが、これの虜になると抜け出せないのは言わずもがなです。

A-3 Schizophrenia
 アルバムタイトル曲は、これまたモヤモヤした出だしから一転、激烈なアップテンポで豪快無比な演奏が楽しめます。
 それを徹頭徹尾リードしていくのがジョー・チェンバースのハッスルドラミングで、エルビン・ジョーンズとトニー・ウィリアムスの折衷スタイルは、ジャズ者の心を捕らえて放さないでしょう。
 溌剌としたテーマリフからストレートに天の邪鬼を演じるウェイン・ショーターのテナーサックスは、マイルス・デイビスのバンドでは表現を許されなかったフラストレーションの開放かもしれませんし、それを察したハービー・ハンコックの伴奏も楽しいかぎり!
 またカーティス・フラーの爆裂トロンボーンに呼応するジョー・チェンバースのヤケッパチのオカズとか、ジェームズ・スポールディングのイライラしたようなアルトサックスも強い印象を残します。
 その意味でハービー・ハンコックのクールで熱いジャズ魂は全く立派でしょう。熱血のアドリブソロから周りの意見を無視しない柔軟な伴奏まで、流石だと思います。
 この演奏は、ジャズ喫茶の大音量で聴くと、尚更にブッ飛びますよ!

B-1 Kryptonite
 このアルバムでは唯一、ジェームズ・スポールディングのオリジナル曲ですが、そのテーマメロディはジョージ・ラッセルの「Ezz-Thetic」にクリソツ!?
 しかし、その過激な勢いは熱い盤石のリズム隊に支えられ、フルートで思いっきりの心情吐露に徹する作者のジャズ魂は、決して憎めるものではありません。
 そのあたりを考慮したのでしょうか、ウェイン・ショーターの、これも得意技という「はぐらかし」が、いきなり使われるアドリブパートの潔さ♪♪~♪ もちろんその後はフリーフォームも含んだ思索的な展開へと進むのが「お約束」ながら、その最後の部分でのテナーサックの低音歪み奏法(?)は、ヴァン・ゲルダー録音だけが成し遂げた世界遺産でしょうか。ここは再生装置の故障ではない、必聴の名演だと、強く思います。
 そして続くハービー・ハンコックの爽快なピアノとリズム隊3者のコンビネーションも、実に素晴らしいです。あぁ、これが新主流派の面目躍如でしょうか、本当に痛快ですよ。ラストテーマのスマートな混濁も、さらに素敵です。

B-2 Miyako
 おそらくは、このアルバムでは一番有名だろうと思われるウェイン・ショーターが畢生のバラード♪♪~♪ もちろんタイトルどおり、愛する女性に捧げたワルツテンポの愛らしいメロディが、作者本人の好むミステリアスなムードで染め上げられていく演奏です。
 その陰の立役者は、皆様ご推察のようにハービー・ハンコックで、流石のコードワークが素敵ですねぇ~♪ 地味ながらツボを外さなロン・カーターのペース、しぶといブラシを聞かせるジョー・チェンバースも名演だと思います。
 そしてウェイン・ショーターの一期一会というか、ひとつひとつの「音」を大切にした優しい音色のテナーサックスがスピーカーから流れ出て、その場の空間に広がっていく心地良さは絶品♪♪~♪

B-3 Playground
 オーラスは如何にもブルーノートがど真ん中の熱血モードジャズ!
 テンション高いテーマアンサンブルや演奏全体の雰囲気には、当然ながら時代の要請でフリーな味わいも含まれていますが、アドリブパートは正統派4ビートがメインですから、ウェイン・ショーターにしろ、カーティス・フラーにしろ、決してデタラメは吹いていません。
 なによりもリズム隊のビシッと芯のはっきりしたノリが痛快です。
 そしてジェームズ・スポールディングの、どっちつかずの姿勢さえも結果オーライ! はっきり言えば迷い道かもしれませんが、それすらも名演の範疇にしてしまう当時のブルーノートのセッション現場の雰囲気の熱さは、本当に好ましいと思います。
 その意味で過激なフリー地獄へと足を踏み入れていくハービー・ハンコック以下のリズム隊が熱演が、時間切れでラストテーマへと繋がってしまうのは残念至極なんですが、そのテーマアンサンブル終盤での、フリーの嵐の再襲来には溜飲が下がるというものです。

ということで、今となっては中途半端な人気盤というか、現代のジャズ喫茶では、どの程度の鳴らされ方になっているのか知る由もありませんが、1970年代までのジャズ喫茶では、これが鳴り出すと店内の雰囲気がグッと本格的なジャズムードへと変化したほどの印象盤でした。当時の大学のジャズ研や学生バンドのメンバーにも人気があったと記憶しています。

大仰なアルバムタイトルと不気味なジャケットデザインゆえに、暴虐のフリージャズだとして聴かず嫌いになっている感もある作品ですが、中身はとっても楽しくて刺激的! 聴き易さも当然の如くですから、決して忘れてはならない作品じゃないでしょうか。

と、書きながらも、実は忘れていたサイケおやじは、深く反省をするのでした。

コメント
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