OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

名盤天国

2006-08-09 20:04:15 | Weblog

暑くてダウン寸前です。麦茶がぶ飲み状態から冷水シャワー天国、そして熱波の地獄行きと、そんな積み重ねで日が暮れて……。

疲労困憊には、こんな定番・大名盤が、分かっちゃいるけど快感です――

Now He Sings, Now He Sobs / Chick Corea (Solid State)

鳴り出すと、その場の空気が変わるという盤が、確かにあります。特にジャズ喫茶では、例えばジョン・コルトレーンの「ビレッジ・バンガード」はA面初っ端の「Spiritual」が鳴り出すと、なんかその場が本当に厳かになって、真剣に聴かないとバチが当りそう……。

本日の1枚もその類というか、バチこそ当らないものの、いきなり真剣勝負の場に放り込まれたような気分にさせられます。

録音は1968年3月、メンバーはチック・コリア(p) だけしかオリジナル盤のジャケットに明記されていませんが、他にミロスラフ・ビトウス(b) とロイ・ヘインズ(ds) が加わったビアノトリオの超名演が繰り広げられています――

A-1 Steps - What Was
 いきなり不安な色彩に満ちたチック・コリアのピアノが始まり、バックではかすかに打楽器が響いているところが、また悪い予感に満たされているのですが、すぐにリズミックな展開でモードがバリバリのアップテンポに突入していくあたりが、痛快です。
 そのキモはオカズが多くてメシが無いというロイ・ヘインズのドラムスです!
 また完全一人旅状態のミロスラフ・ビトウスのベースは、その軋みまでもが鮮明に録音れさていて、これまたエグミの強いプレイだと思います。
 つまり、あえてメンツをジャケットに記載しなくとも、聴けば分かるというあたりがモロなんですねぇ~♪ それにしても凄いリズムコンビです。
 肝心のチック・コリアはリズム的興奮を織込んで、さらに地獄まで突っ走る勢いですが、中盤からは思い直したように思索的展開に突入し、ここでロイ・ヘインズの亜空間ドラミングが炸裂します。あぁ、この小刻みなパルスビートは、全くこの人だけの持ち味で、最高です。
 そしてお膳立てが出来たところで、いよいよチック・コリアが十八番の地中海モードでの哀愁パート! これが「Waht Was」という曲なんでしょうか? とにかくアッという間に、その魔法にかかって呻くのはリスナーという仕掛けです。
 実際、ここは何度聴いても快感です♪ そして盛り上げきったところで、余韻を残しつつミロスラフ・ビトウスのベースソロに受け渡す頃には、感涙が滲むのでした。ズバリ、大名演だと思います!

A-2 Matrix
 快適なテンポの変形ブルースですが、テーマが内容している幾何学性がアドリブパートにも活かされているので、一筋縄ではいかない雰囲気です。しかしそこが見事にジャズ的な快感に直結しているんですねぇ~♪
 バックの2人も、次にチック・コリアが何をしてくるのか読みきったような余裕があり、しかし緊張感を失っていないところは流石、百戦錬磨の強者です。特にロイ・ヘインズは、名前だけはビバップ時代からの生き残りという雰囲気ですが、例えばジョン・コルトレーンとの最先端セッションやここでの強烈なツッコミで、ジャズ界では唯一無二のスタイリストと認識されました。

B-1 Now He Sings, Now He Sobs
 フリーに見せかけたスパニッシュモードが鮮やかな展開を聴かせる名演です。やはりチック・コリアには、これを出してもらわなければ納得出来ません。本当に良いフレーズの連発で、それは余韻とミステリアスな雰囲気の両立、厳しさと安らぎの交錯という素晴らしさです。
 ロイ・ヘインズのドラムスも鋭く、またミロスラフ・ビトウスも野太いグルーヴを発散して、トリオはどこまでも新主流派としての面目を模索していくのでした。もう、最高です!

B-2 Now He Beats The Drum - Now He Stops
 チック・コリアの限りなくフリーに接近したソロピアノから、少しずつ独自の秩序を模索していく展開がスリリングな演奏です。そして4分30秒目あたりから、ようやく入って来るベース&ドラムスの導きによって、チック・コリアが抜群のスイング感を発揮していく後半が、痛快です。
 というか、分かっていてもノセられてしまう快感があるんですねぇ~♪ これもこのトリオの上手いところです。しかし予定調和という事ではなく、ミロスラフ・ビトウスはそんなものは何処吹く風のツッコミを連発するのでした。もちろん、打ち震えるような繊細なペースソロが圧巻です。

B-3 The Law Of Falling and Catching Up
 これもフリー色が強い演奏で、静寂の中から蠢くベースやピアノの不協和音、さらに空間に穴を穿つような打楽器の響きが絡み合いながら、奈落の底へ一直線! トリオの完全な自己満足に、私は発狂寸前になるのでした……。

ということで、これはもう、名盤の中の大名盤! これなくしては現代のピアノトリオは成立しえないとまで断言出来ます。

もちろんそれはビル・エバンスが確立した方程式の発展形ではありますが、ビル・エバンスほどディープにならずとも、リズムやビートに変化を持たせることで万人が納得出来るというか、もっと広いスタイルでビル・エバンスを解釈していこうという姿勢が潔いと思います。

もちろんチック・コリアも天才ではありますが♪

そしてこの3人は1980年代に入って再度結集したセッションを持ち、ライブやスタジオで名演を残していきます。そしてそこでも全く妥協の無い演奏に終始して、ますますこのアルバムの存在価値を高めていくのでした。

近年はこの時のセッションから未発表曲も入れたCDが出ていますが、まずはオリジナル仕様で聴いてみて下さい。揺ぎ無い感動が押し寄せてきます♪ 

コメント (2)
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