日帰りの出張で疲れています。
しかし、どうせ疲れるなら、このアルバムを聴いて爽やかに疲れようという目論みが――
■West Coast Jazz / Stan Getz (Verve)
このジャケットに、このタイトル! そして、このメンツ♪
ジャズを本格的に聴き始めて2年ほどたった頃に出会ったアルバムでしたので、てっきり爽やかさいっぱいのスマートな内容かと思っていたら、なんとバリバリのハードバップ盤でした。
録音は1956年8月15日、メンバーはコンテ・カンドリ(tp)、スタン・ゲッツ(ts)、ルー・レヴィ(p)、リロイ・ビネガー(b)、シェリー・マン(ds) というオールスターズです――
A-1 East Of The Sun
素材はスタンダードなんで、スタン・ゲッツは余裕を持ってテーマを変奏していきますが、リズム隊がなんとも黒っぽい雰囲気です。う~ん、ルー・レヴィのピアノがイントロから重心の低いノリなんですねぇ。もちろんリロイ・ビネガーも、何時に無く粘っこいウォーキングベースを響かせています。
演奏テンポも、この曲にしてはゆったりとしたミディアムですから、スタン・ゲッツもじっくりと腰を据えた中に素晴らしい歌心は健在ですが、どこか曇りガラスのような……。
またコンテ・カンドリも日頃のシャープな勢いよりも、温か味を追求したようなフレーズ展開で、ジンワリさせられます。
そしてルー・レヴィが最高ですねっ♪ ちょっとデューク・ジョーダンっぽいフレーズと歌心に白人らしいスマートさが上手くブレンドされていて、なかなかグルーヴィ♪ これもハードバップと決め付けて良いと思います。
A-2 Four
マイルス・デイビスのオリジナルというハードバップに果敢に挑戦して、全く独自の展開から名演をやってしまったという雰囲気です。
それはまず、スタン・ゲッツの悠々自適のアドリブソロが最高に歌っており、こんな単純テーマメロディから、よくもまあ、こんなに「歌」が出るもんだ! と驚愕する他はありません♪
またコンテ・カンドリも前曲に続いて丁寧な吹奏ですが、溌剌とした本来の持ち味を捨てていないので、まんま、ハードバップになっていくのです。
そして、またまたルー・レヴィが素晴らしすぎ! ちょっとホレス・シルバーを意識したようなタッチと黒っぽい躍動感がたまりません。
全体的に黒人バンドのようなグルーヴとは異質の粘っこさが、妙な心地にさせてくれます。
A-3 Suddenly It's Spring
これもルー・レヴィのノリが良いイントロから、快適な演奏が楽しめます。そしてとくにかく、スタン・ゲッツが物凄いの一言です。
それはミディアムテンポの穏やかな曲調ですから、歌心を優先させてフワフワとアドリブを始めつつも次第に熱を帯び、クールに熱いフレーズの連なりへと発展させていく、まさに至芸♪ 聴いていて本当に幸せな気分にさせられます。
リズム隊ではホレス・シルバー調のルー・レヴィ、タイトにリズムをキープするリロイ・ビネガー、そしてブラシでサクサクとビートを刻むシェリー・マンが、コンテ・カンドリの登場と共にスティックに持ち替えてグイノリに転じていくあたりが、たまりません!
そのコンテ・カンドリがミュートで勝負してくるのも、流石ですねぇ♪
B-1 A Night In Tunisia / チュニジアの夜
お馴染み、ビバップ~ハードバップの代名詞という名曲ですから、ここでも最初っからラテンビートで熱くスタートし、中間部で快適な4ビート、さらにキメのリフでは勢いも素晴らしく、お待ちかねのブレイクでは、意表をついてルー・レヴィが飛び出すという芸の細かさです。
ベースとドラムスのグルーヴも素晴らしく、ルー・レヴィはアドリブ先発の名誉に恥じない熱演を聴かせますが、続くコンテ・カンドリも大ハッスルで、クリフォード・ブラウンに迫る勢いが感じられる一瞬もあるほどです。
そしてスタン・ゲッツの登場する舞台演出としてセカンドリフが演奏され、お楽しみのブレイクとなりますが、あぁ、なんということかっ! やや気抜けのビール状態……。続くアドリブパートでも白熱の名演を目論みますが、マンネリ状態でしょうか……。最初の躓きが大きいと、こういう結末になるという勿体無さでした。
B-2 Summertime
いきなりスタン・ゲッツが暗い情念でテーマを吹奏していく、その雰囲気に呑まれてしまいます。あぁ、このテーマの膨らませ方からアドリブパートに移っていくところのリズム隊の恐さも、印象的です。
本当に自由自在にアドリブして演奏を作っていく雰囲気が濃厚ですねぇ。細かいところまで聴いていると、気が遠くなってきます。
するとコンテ・カンドリが和み優先で素直に吹いてくれますから、リズム隊も安心したのか、安定したグルーヴを取り戻し、ルー・レヴィの擬似ファンキーにも余裕の対応です。
しかしスタン・ゲッツがラストテーマで烈しく困ったフレーズばっかり吹いてくるので……。後の祭というか、祭の後とでも申しましょうか、困惑いっぱい、和みに疲れるという、油断ならない演奏になっています。
B-3 S-h-i-n-e
ところが、この曲では、そんなスタン・ゲッツが初っ端からウルトラ快演です!
アップテンポで鋭く爽やかにテーマを吹奏し、そのまま突入するアドリブパートでは、全く疲れ知らず全力疾走♪ もちろん全部が「歌」になっているフレーズばかりを吹き続けていきます。あぁ、このリズムアプローチも天才ですねぇ~♪
あまりの凄さに、バックで思わずリフを付けてしまうコンテ・カンドリも楽しそうですし、アドリブパートでは負けじと大ハッスルです!
シェリー・マンのドラムスもようやく本領発揮の熱いものになり、リロイ・ビネガーのベースが岩のごとき不動のビートを放出すれば、スタン・ゲッツもバックのリフで好き放題!
そしてルー・レヴィがジャズ魂全開の激ノリ! もう完全にハードバップになっているのでした。スタン・ゲッツ万歳です♪
ということで、東海岸のハードバップとは一味違っているのですが、これだって、やっぱりハードバップだと思います。
なにしろ演目がほとんど東海岸寄りですし、リズム隊の独特の黒っぽさが良い感じです。惜しむらくはシェリー・マンが、ちょっと遠慮気味なところでしょうか。
しかしスタン・ゲッツの本気度の高さには、必ずや熱くさせられるはずですし、繰り返しますがルー・レヴィの頑張りも捨てがたく、私が時折、このアルバムを取り出すのは、そのピアノが聴きたいがためでもあります。
う~ん、このアルバムタイトル、シャレなんでしょうか? センスが分からんというか、当時はまだまだ西海岸ジャズが優勢だったというツッパリ!?