流石にちょっと寒くなってきましたですねっ、もう、そろそろ11月ですから……。
こんな時な和みの演奏が聴きたくなりますので――
■Norman Granz' Jam Session #4 (Clef / Verve)
ジャズの醍醐味は、ズバリ、アドリブの共演に他なりません!
つまり参加演奏者の腕比べ! もちろん、その丁々発止を支えるリズム隊の凄さも堪能出来るのが、ジャムセッションと呼ばれる演奏スタイルです。
それは通常の営業が終了したクラプ等で、残り少ない居残りの客や関係者を前にしての演奏が原点です。なにしろ店の営業を考えなくても良いので、演奏者は自己満足に浸り、飛び入りの参加者も大歓迎! 全くジャズの本質に根ざしたものでした。
そして、それを初めて商業ベースに乗せたのが、ノーマン・グランツというプロデューサーで、同じステージに白人・黒人をいっしょに出演させ、巡業でも同じホテルに宿泊させ、また、ギャラの支払いも惜しまないその姿勢は、多くのミュージシャンから人望を得ていたそうです。
なにより凄いのは、ジャズをダンス音楽から鑑賞音楽に変化させていったことでしょう。客席にはダンスフロアが無く、観客は椅子席で演奏を聞き入るだけなのです。ちなみにそういう興行は、今日JATPと称されているものです。
さらにノーマン・グランツは、自分のレーベルまで作り、自分でプロモートしたジャムセッションの興行を録音し、発売するという画期的なことまでやっています。
プロデューサーとは本来、こういう仕事をするのが本当のところでしょう。実際、スタジオ等の現場でミュージシャンに口出しするのは、A&Rとかディレクターと呼ばれる職分です。
で、このアルバムは最初から録音を目的としたジャムセッションで、当時のスタアプレイヤーをスタジオに集めていますが、観客はいなくとも、一発録りの自然発生的なグルーヴが楽しめます。
録音は1953年8月3日、メンバーはハリー・エディソン(tp)、バディ・デフランコ(cl)、ウィリー・スミス(as)、ベニー・カーター(as)、ワーデル・グレイ(ts)、スタン・ゲッツ(ts)、カウント・ベイシー(p,org)、フレディ・グリーン(g)、ジョン・シモンズ(b)、バディ・リッチ(ds)、アーノルド・ロス(p) という、凄みに満ちた天才ばかりです――
A-1 Oh ! Lady Be Good
演奏される元ネタはガーシュインの名曲ですが、こういう演奏スタイルでは、あくまでも素材に過ぎません。しかし原曲が持つエッセンスをいかに上手く抽出しているかが、ジャムセッションにおける腕の見せ所かもしれません。
さて肝心の演奏は、ビシッと極まったバディ・リッチのシンバルワークから快適なテンポでカウント・ベイシーのビアノが鳴り出し、フレディ・グリーンの天才的なリズムギターとジョン・シモンズの基本に忠実なベースが土台を作りますから、もう、この劈頭のところでジャズにどっぷりです。
そしてホーン陣ではスタン・ゲッツが先発で類稀なるスタイルを披露♪ その独自グルーヴは、いささか古臭いリズム隊を逆に引張る雰囲気です。もちろんジャムセッションではお約束のリフの煽りにも負けていません。
続くワーデル・グレイも本領発揮で、素晴らしい歌心に満ちたフレーズの洪水を聴かせてくれるのですから、私は感涙悶絶です。実際、生涯のベスト25に入る名アドリブではないでしょうか!? バックのリフを先取りするズルさも聴かせますが、憎めません♪
そして次に登場するのが、こういうジャムは十八番のハリー・エディソン♪ ノリの良さは最高で、バディ・リッチとの遣り取りとか、艶やかな音色で伸びやかに吹きまくりのトランペットは、ジャズのひとつの完成形だと思います。
で、演奏はここでリズム隊のコンビネーションを聴かせるパートになり、バディ・リッチは天才的なリズム感とステックさばき、バスドラとタムの連打という奥義を披露していますが、嫌味になっていません。
まあ、リズムパターンが古いと言われればそれまでですが、それゆえに次に出る御大ベニー・カーターのアルトサックスが、すんなりとビバップの枠に入り込んでいくのですし、ウネリと艶の名手であるウィリー・スミスは大奮闘! 2人とも完全にモダンジャズ以前の古いスタイルを崩さずに自己を貫きとおすあたりは、流石です。
もっともカウント・ベイシーという、そういう自然体の巨匠がいますからねぇ~、ここにはっ!
しかしバディ・デフランコは違います! 徹底的にモダンなフレーズの連発で、当にクラリネットのチャーリー・パーカー(as) を証明していますが、実は、この人とワーデル・グレイは少し前にカウント・ベイシーのバンドに雇われていたという因縁がありますから、モダンとカンサススタイルの融合なんて全く問題無く、自然体の極みという雰囲気です。あぁ、最高です♪
B-1 Blues For The Count
この曲ではカウント・ベイシーがオルガンを担当し、アーノルド・ロスがピアノを演奏しています。
曲はリラックスしたブルースですが、コテコテでは無いカウント・ベイシーのオルガンに和みます。
アドリブの先発はベニー・カーターでしょう。全く悠々自適なブルーススタイルで、黒さもほどほどのセンスの良さです。
それは続くウィリー・スミスも同様で、背後から合の手を入れるカウント・ベイシーのオルガンも楽しく、ジンワリと心が温まる素敵な名演だと思います。
またバディ・デフランコは、トリッキーなビバップフレーズに加えて、余裕のタメとモタレを駆使してブルース・フィーリングを出す目論見だったようですが、結局はモダンジャズがモロ出しになるあたりが、ご愛嬌です♪
そしてそれを引き戻すのが、ハリー・エディソンのミュートトランペット♪ 難しいフレーズを出さなくとも、ジャズ魂全開の心意気が最高ですねぇ~♪
さらに続くワーデル・グレイが、これまた最高で、やや勿体ぶったスタイルではありますが、和みとスリルのコンビネーションが、ファンにはたまらないところ♪ 背後で唸るカウント・ベイシーのオルガンも素敵ですねぇ~♪
おまけに次に登場するスタン・ゲッツが、思い切った変化球勝負というか、かなりアグレッシブなフレーズ展開で、ハッとするほど良い感じです。ただし、後半で若干、遠慮があるような気も致しますが……。
ということで、溌剌としたA面、まったりとしたB面という濃厚な1枚です。
スタイル的にはモダン派とスイング派の邂逅という、所謂中間派的な演奏になっていますが、それにしてもバディ・リッチというドラマーは本物の天才です。なにしろ2つのスタイルをアドリブするプレイヤー毎に使い分け、その差異を自然体で融和させているのですからっ!
本当にジャズの楽しさが極まったアルバムだと思います。