OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

バイアグラはいらない

2006-10-04 18:06:51 | Weblog

最近、バイアグラとか得体の知れない精力剤のオススメメールがガンガン来ます。

俺には必要ないんだぜっ! と声を大にしても、相手は電脳世界の遥か彼方ですから、届くわけもなし……。

結局、自動的に振り分けて消去される運命ですから、儲かっているのは通信会社だけという虚しさです。

ちなみに「必要ない」というのは、またまだ十分に使用可能という意味で、気力が無いという事ではありませんから、念のため! いや、これは言い訳ではないのです。

と苦し紛れになったので、本日は痛快な1枚を――

Memphis Underground / Herbie Mann (Atlantic)

ジャズ喫茶全盛期の我国で、徹底的に軽く見られていたのが、ハービー・マンでしょう。

なにしろその姿勢はシャリコマ、と言われてバカにされていましたからねぇ。ちなみに「その姿勢」とはR&Bやロックのリズムを大胆に使った演奏、「シャリコマ」とは商業主義にジャズ魂を売り渡した軟弱者という意味合いです。

実際、ハービー・マンの演奏はラジオからも流れるほどに楽しく、分かり易いノリでしたから、ビヤガーデンやゴーゴー喫茶のハコバンでは定番演目でしたし、日本映画のサントラにも、良く似た演奏が用いられていましたので、ジャズは悩んで聴くものという風潮が強かった当時、つまり1970年前後のジャズ第一線では、コケにされて当然だったのです。

しかし本当は皆、この人の演奏が好きなはずですよ♪ 特にロックやソウルからジャズに入ったファンには、かけがえのない傑作として、このアルバムが存在していると思います。

録音は1968年8月21日のニューヨーク、メンバーはハービー・マン(fl)、そしてリズム隊はレジー・ヤング(g)、ボビー・エモンズ(org)、ボビー・ウッド(p,elp)、トミー・コグビル(b)、マイク・リーチ(b)、ジーン・クリストマン(ds) という、わざわざメンフィスから呼び寄せた現地の凄腕達を起用しています。そしてさらにロイ・エアーズ(vib,per)、ソニー・シャーロック(g)、ラリー・コリエル(g)、ミロスラフ・ビトウス(b) という、当時のバンドレギュラーも加わる強力セッションでした――

A-1 Memphis Underground
 メンフィスのリズム隊が作り出す、分厚く横揺れするリズムとビートが、まず最高です。このシンプルでノリの良い8ビートこそが、当時の最先端でした。それはズバリ、南部ソウルです!
 ハービー・マンが書いたテーマメロディはモードでありながら親しみやすく、それはアドリブパートの祭囃子みたいフレーズでさえも、抜群のグルーヴに煽られてクールに熱く深化していきます。
 しかし続くギターソロは多分、ラリー・コリエルでしょうか? 烈しくフリーに近いサイケ感覚で燃え上がります。そしてそれをジャズに引き戻すのが、ロイ・エアーズのクールなヴァイブラフォンという仕掛けも冴えています。
 ただしここでの一番の聞き物は、右チャンネルから終始、どっしりとしたグルーヴを叩きだしてくれるメンフィスのリズム隊♪
 彼等は名プロデューサーのチップス・モーマンが運営するアメリカン・スタジオ子飼いのミュージシャンで、R&Bからカントリー、ゴスペル、そして後にはエルビス・プレスリーのレコーディングまでも支えていた名手達です。もちろん当時流行していた南部系ヒット曲の大半に参加していたのは言わずもがなで、流行り物に敏感なハービー・マンが目をつけたのもムベなるかなです♪ 果たして結果は大成功! それは地元南部では無く、ニューヨーク録音というあたりに抑制の効いた仕上がりの秘密があるようです。

A-2 New Orleans
 タイトルどおり、ニューオリンズ・サウンドに根ざしたブルースですが、ここでは特にロック感覚も打ち出した痛快な演奏になっています。
 バンド全体のノリも良く、途中1分31秒目あたりからのハービー・マンのブレイクとジーン・クリストマンのドラムスのツッコミが痛快の極み♪

A-3 Hold On, I'm Conin'
 ダブル・ダイナマイトこと、サム&デイブのあまりにも有名なヒット曲を、熱く聴かせてくれます。もちろんリズム隊のグルーヴは最高で、なにしろミロスラフ・ビトウスがエレキベースで加わっていますから、分厚いビートがさらに重厚さを増しています。
 ハービー・マンは例の小刻みなお祭フレーズで勝負していますが、ここでも1分36秒目から始まる、ジーン・クリストマンとの対決がクライマックスです。もちろん続けて入ってくるオルガンやリズムギターの存在も強烈です。
 また後半に登場するラリー・コリエルのジャズロック丸出しのギターソロが、如何にも当時のノリで憎めません♪ そしてロイ・エアーズも張り切り過ぎて暴走し、つられてミロスラフ・ビトウスも我を忘れてしまう瞬間がっ!
 さらに大団円に登場するソニー・シャーロックのフリーロックなエレキギターソロは、ご愛嬌を超越した凄さ! ジミヘン真っ青ですよ、本当に! 勝負させてみたかったですねぇ~♪ もちろん刺激された他のメンバーも爆裂大会に雪崩込み、またまたメンフィスのリズム隊の冷静さが光るのでした。
 何事もなかったかのように終わるラストも流石です。

B-1 Chain Of Fool
 ソウルの女王=アレサ・フランクリンがリアルタイムでヒットさせていた名曲をカバーしています。
 ここでは南部ソウルの重いノリに加えて、全体にゴッタ煮状態のポリリズム・グルーヴが発生しています。それはロックやソウルに加えてフリーやラテンの要素も混ぜ込んだ、当にこのメンツでなければ生み出しえないものでしょう。なんとなく1973年頃のマイルス・デイビスのバンドのようでもあります。
 その中で暴走するラリー・コリエルのギターソロは、今聴くと本当にニューロック丸出しで微笑ましくもありますが、現代のファンにはどう聞こえるのでしょうか……?
 とにかくメンバー全員が熱演の連続で、肝心のハービー・マンは完全に影が薄くなっています。

B-2 Battle Hyme Of The Republic / リパブリック賛歌
 爆裂演奏が続いた後の和みの時間というか、有名な伝承ゴスペル歌が厳かにスタートします。
 もちろんこういう演奏が十八番のリズム隊はソツが無く、自在なテンポで熱く盛り上げていくところが快感です。
 ハービー・マンのフルートからも正統派のフレーズが流れてきますし、ロイ・エアーズのラテン系パーカッションが、これまた快感を呼びます。しかもかなりハードな演奏なんですよっ、これがっ! ジーン・クリストマンのドラムスの重さも特筆物です。

ということで、これは軟弱どころか、とんでも無く硬派な演奏集だと思います。シャリコマとしてジャズ喫茶で敬遠されていたのは、タイトル曲がシングル盤として発売されヒツトしたことに加えて、ラリー・コリエルやソニー・シャーロックのギターからニューロックの臭いがプンプンしたからでしょう。なにしろ当時は、ここまでガチガチに素直なロックギターは、イノセントなジャズ者の敵でしたから!

しかし虚心坦懐に聴いてみれば、これほど強烈なアルバムは滅多にありません。後年の軟弱フュージョン等、足元にも及ばないクールでハードな演奏ばかりです。こういうブツが遠ざけられていた所為で、ハービー・マンの我国における評価が真っ当ではなかったと、今にして痛感しています。

機会があれば、ぜひとも体験していただきたい世界が、このアルバムにはあります。それは当時のニューロックと南部ソウルの融合から生み出された新しいジャズです。カッコイイ、もう、その一言♪

バイアグラなんて必要無しです。

コメント (2)
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