今日から9月! 秋ですよ、秋!
そこで本日は爽やかさを求めて、これを――
■Rejoicing / Pat Metheny (ECM)
単にジャズの世界ばかりでは無く、ギタリストとしてトップを張っているパット・メセニーにも、1970年代はフュージョン系、あるいはECM的環境音楽の人? と受け取られていました。
それが1980年代に入ると、積極的にモロジャズの演奏に取組み、つまり4ビートを基本とする世界に入ってきたことから、決定的な人気を得ています。
しかもその姿勢が懐古趣味では無く、フレーズもアプローチも新しければ、得意技のギターシンセサイザーを嫌味無く使うなど、ガチガチのジャズファンにも許せる部分が良かったのです。
このアルバムは1984年に発売されたものですが、製作の段階から、その内容とメンバーが興味津々の話題にもなっていました。
それはパット・メセニーが、ジャズの革命児だったオーネット・コールマン(as) の楽曲を、当時のバンドメンバーと演奏するという、若干あざとい企画ではありますが、なにしろチャーリー・ヘイデン(b)、ビリー・ヒギンズ(ds)、そしてパット・メセニー(g) というトリオは、否が応でも聴いてみたくなる魅力がいっぱい♪
ちなみに録音は1983年11月29-30日とされています――
A-1 Lonely Woman
オーネット・コールマン楽曲集のド頭が「ロンリー・ウーマン」とあれば、ジャズ者の誰しもが、あぁ、あの曲か!? と思う次の瞬間、流れてくるのはホレス・シルバー(p) が作った隠れ名曲♪♪~♪
この強烈な背負投げは本来、シャレになっていませんが、実際の演奏はパット・メセニーの繊細で彩り豊かな生ギターの響きが最高ですし、チャーリー・ヘイデンの的確なベースワークとビリー・ヒギンスの緻密なブラシが、テーマ部分から完璧です。
そして曲が良いですから、徹底的にメロディを追求していくトリオの集中力は物凄いエネルギーを発散していて、少しずつ熱気が満ちていく様には圧倒されます。
この「つかみ」で、アルバムの良さが満喫出来るはずです。
A-2 Tears Inside
これは正真正銘、オーネット・コールマンの自作曲! 暗黙の了解で展開されるブルースですが、極めて自由な発想が可能というあたりが、ミソでしょうか。
パット・メセニーはエレキに持ち替えて、ジム・ホール的な音色とフレーズで勝負していますが、決してモノマネではなく、自己の表現を大切にしています。
また野太いチャーリー・ヘイデンのウォーキングベースや、歯切れの良いシンバルとスネアのコンビネーションが最高のビリー・ヒギンズも好調♪ かなり分かり易い4ビートジャズの醍醐味に浸れます。
ちなみにオーネット・コールマンはフリージャズの開祖的評価から、その演奏はデタラメのメチャクチャという先入観念がありますが、実際に初期の演奏から聴いてみると、全く自然なジャズそのものですから、ここでの解釈も肯けるのでした。
A-3 Humpty Dumpty
これもオーネット・コールマンのオリジナルで、幾何学的なテーマ構成ですが、ちゃんとジャズの文法が成り立っていますから、パット・メセニーは正統派4ビートとエレキギターで浮遊感に満ちたアドリブソロを展開しています。
それにしてもビリー・ヒギンズは良いですねっ♪ 軽やかで細かいオカズを主体にしていながら、ビートの芯がビシッと極まっています。この人はハードバップやジャズロックばかりでは無く、どんな演奏にも対応出来る実力者だと思います。
A-4 Blues For Pat
チャーリー・ヘイデンが書いたオトボケのブルースです。つまり黒っぽさはありませんが、ちゃんとジャズ特有のグルーヴが発生していますから、リラックスして聴けるのです。
アドリブパートでは、まずチャーリー・ヘイデンが得意の、歌心排除というフレーズばかりを積み重ねますが、パット・メセニーは幾分、鈍い音色のエレキギターで新しいブルースフィーリングを披露します。
さらにビリー・ヒギンズは快適なテンポを崩す事無く、短いソロでアクセントを付け、パット・メセニーとの対決に臨むのでした♪
A-5 Rejoicing
アルバムタイトル曲はアップテンポの擬似ビバップで、最初からビリー・ヒギンズとの対決で燃えるパット・メセニーが楽しめます。それはもちろん、正統派のエレキギターですし、そこに強引に割り込むチャーリー・ヘイデンの4ビートのベースが心地良さの極みです♪
B-1 Story From A Stranger
さてB面に入ると、いよいよパット・メセニーは十八番のギター・シンセを使い出します。そして自己のオリジナルを3連発で一気に聴かせてくれるのです。
まず最初は、そこはかとない哀愁がたまらないスローテンポのテーマメロディが生ギターで変奏されていき、その空間に入り込んでくるギターシンセのワン・フレーズから、もうKO状態になります。
もちろんこのあたりは多重録音という、ジャズ者が忌み嫌う手法になっていますが、これだけ「泣き」のメロディを連発されては、たまらないはずです♪
B-2 The Calling
そして続くのが、ほとんどプログレという攻撃的な擬似フリーの演奏です。
もちろん最初からギターシンセが全開ですし、ベースとドラムスもフリーなノリで対応していますから、やややっ、これこそオーネット・コールマンの世界か!? と誤解とも、徹底解釈ともつかない結論が導き出されるのでした。
B-3 Waiting For An Answer
完全な作り物なので、ガチガチのジャズファンには噴飯物かもしれない短い演奏です。
ただし静謐なパット・メセニーのギターシンセによるメロディは、どこまでも美しく、チャーリー・ヘイデンの濁ったアルコ弾きのベースと好対照なのが、狙いでしょうか……。
ということで、このアルバムは当時のジャズ喫茶では大ヒット! 一時は行く度に鳴っていたような記憶があります。
もちろんそれはA面で、4ビートだった事が「吉」と出たわけですが、個人的にはB面1曲目の「Story From A Stranger」を自宅で愛聴していました。それとA面初っ端の「Lonely Woman」の生ギターの響き、これにも、やられましたねぇ~♪
冒頭に爽やかさを、なんて書きましたが、実は毒気もたっぷりという……。