OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

本場の恐さ

2006-09-22 17:47:25 | Weblog

爽やかな日本晴れというしかない、1日でした。

頼んでいたDVDやCDもドカッと届き、ふっふっふ、楽しい週末になりそうです。なにより出張が延期になったのが嬉しい♪

ということで、本日の1枚は――

Mainstream 1958 (Savoy)

ジャズは狭い世界です。

楽器が上手くて、しかもアドリブという創造性を要求され、さらにそこに個性が必要とされますから、本場ニューヨークで活躍し、録音を残せる者は、ほんの一握りというわけです。

だから何時も似たようなメンツで仕事をすることになるので、そこに新参者が入ってくると、否が応でも目だってしまいます。もちろんそれは生ライブでもレコーディング・セッションでも同じです。

本日の主役、ウィルバー・ハーディンというトランペッターはデトロイト周辺で活動していたらしいのですが、フルューゲルホーンの名手としては定評があり、トミー・フラナガンやジョン・コルトレーンの勧めでニューヨークに出てきたのが、1958年3月頃だとされています。

そして忽ちレコーディングのチャンスに恵まれるのですが、やや精神的に問題があった人らしく、9月頃にはニューヨークを去り、療養生活の後に消息不明になっています。

しかし残された録音や発売されたアルバムには、上昇期のジョン・コルトレーン、あるいは名盤請負人として活躍していたトミー・フラナガンが参加しているものばかり♪ 実はそういうジャズの偉人達の隠れ名演として、ウィルバー・ハーディンの諸作が知られている側面も無視出来ません。

このアルバムは、そうした中の最初の1枚で、録音は1958年3月13日、メンバーはウィルバー・ハーディン(flh)、ジョン・コルトレーン(ts)、トミー・フラナガン(p)、ダク・ワトキンス(b)、ルイス・ヘイズ(ds) という強力クインテット♪ 演目は全てウィルバー・ハーディンのオリジナルです――

A-1 Wells Fargo
 ルイス・ヘイズのタイトなドラムスに導かれて始まるミディアムテンポのハードバップです。
 テーマのサビではハスキーで柔らかなウィルバー・ハーディンのフルューゲルホーンとハードなジョン・コルトレーンのテナーサックスが好対照で、抜群のアクセントになっており、アドリブパートでもそれが持続するという、上手い仕掛けになっています。
 で、ウィルバー・ハーディンは歌心とファンキーを兼ね備えたフレーズを丁寧に積み重ね、ジョン・コルトレーンは完成間近というシーツ・オブ・サウンドを駆使して自己流の熱血を貫き通す潔さです。
 しかしトミー・フラナガンは、どちらかというとウィルバー・ハーディン寄りの落ち着きがあり、どっしり構えたダグ・ワトキンス、躍動的なルイス・ヘイズで構成されたリズム隊の素晴らしさは、聴いて納得の名人芸! まさにモダンジャズ爛熟期の典型で、ブツ切れ気味に終わるラストテーマも魅力があります。

A-2 West 42nd Stree
 ちょっとベニー・ゴルソン風のテーマを持つ柔らかい曲ですが、リズム隊がハードなビートを送り出していますので、軟弱ではありません。
 ただしウィルバー・ハーディンにとっては、そこが計算違いだったか、少しばかり迷い道……。このあたりが本場ニューヨークの恐さという事なのかもしれません。
 その点、ジョン・コルトレーンは絶好調で、ハードでスピード感満点のソロを展開し、圧倒的な力強さを聴かせていますし、リズム隊もグリグリに攻め込んで来て、当にハードバップの魅力が全開しています。
 もちろんトミー・フラナガンに目立たない上手さあるので、ウィルバー・ハーディンに恥をかかせていないのは、流石です。

A-3 E.F.F.P.H.
 意味不明のタイトルですが、中近東+アフリカというモードにラテンのリズムが心地良い不思議な演奏です。
 そしてそのビートを活かしきったウィルバー・ハーディンのアドリブソロが秀逸♪ シンプルかつ柔軟な展開には新しさが感じられるのです。
 続くトミー・フラナガンは言わずもがなの上手さでツボを押さえた名演ですし、この部分のピアノトリオ演奏は、バド・パウエルの「Un Poco Loco」みたいで、なかなか素敵だと思います。
 ところがジョン・コルトレーンは、そんな和みも上手さも関係なく、ひたすらにハードな極北を目指している恐ろしさが! ですから一瞬の間で現れるラストテーマが心地良いのでした。

B-1 Snuffy
 軽快なトミー・フランガンのピアノがイントロからテーマ全体をリードする、楽しいハードパップです。
 ウィルバー・ハーディンも安心感満点の王道に撤し、ジョン・コルトレーンも何時ものハードバップ路線を突き進みますから、聴いていて快適な瞬間が何度も訪れます♪
 もちろんリズム隊も絶好調で、望みうるならば、このトリオでアルバム1枚くらいは残して欲しかったと痛切な思いにかられます。特にダグ・ワトキンスの強靭なベースと張り切ったルイス・ヘイズのドラムスはベストマッチ! トミー・フラナガンもノッています♪

B-2 Rhodamagnetics
 これもまず、トミー・フランガンのイントロから惹き込まれるハードバップです。この快適なグルーヴこそ、モダンジャズ黄金期の魅力でしょう。
 アドリブ先発は珍しくもトミー・フラナガンですが、このあたりは同時期、頻繁に行われていたレッド・ガーランド・トリオ&ジョン・コルトレーンのプレスティッジ・セッション風で和みます。
 あぁ、それにしても、このリズム隊は最高です。
 流石のジョン・コルトレーンも煽られ、シーツ・オブ・サウンドで暴走するのですが、トミー・フラナガンがしっかりと手綱を取っていますから、ルイス・ヘイズがギンギンのオカズを入れても、場が乱れないのです。
 肝心のウィルパー・ハーディンは、ハスキーな音色でグルーヴィな雰囲気を狙いますが、やはりリズム隊との息がイマイチで、バランスを失いそうなところをトミー・フラナガンに助けられています。う~ん、良い時代でした。

ということで、場慣れしていないウィルバー・ハーディンが浮いていますが、それでもなお、魅力的なハードバッブ盤です。ジョン・コルトレーンは言わずもがな、ルイス・ヘイズが、失礼ながら小型フィリー・ジョーという雰囲気で、クッションの効いたドラムスを聴かせてくれるのも魅力です。

ちなみにこのアルバムには特定のリーダーが記載されていませんが、全ての曲をウィルバー・ハーディンが書いていることから、一応、この人のリーダー・セッションだったようです。

しかし特に日本では、ジョン・コルトレーンのアルバムという受け取り方が、一般的のようですね。実際、ここでの演奏は、他のメンバーから突出したものがあります。そのあたりを楽しむのも、また王道の聴き方でしょう。

個人的にはルイス・ヘイズのドラムスに心躍ります。

コメント
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