たいぶ涼しくなってきましたね。仕事にも、どうにか余裕が出てきました。
しかし仕事優先の生活に変わりは無く、こんなんで良いのか? 等と思うことも度々ですが、まあ、いいか……。
ということで、本日の1枚は――
■Comin' On Home / Richard Groove Holmes (Blue Note)
ブンブン・ブリブリのエレキベースが、大好きです!
一番好きなベーシストはザ・フーの故ジョン・エントウィッスルですが、黒人ではジェリー・ジェモットでしょうか。この人は黒人テナーサックス奏者のキング・カーチスのバンドで働きながら、いろんなスタジオセッションをこなしていた隠れ名手です。私はアレサ・フランクリンのバックで弾いているのに、惚れこみました♪
しかし当時は、そういうクレジットがアルバムジャケットには載らないので、演奏に接するのは、なかなか困難でした。何となく黒人ソウル系の演奏を聴いて、そうかなぁ……? と推察する楽しみもあったのですが。
で、このアルバムは当時としては珍しく、きちんとジェリー・ジェモットがクレジットされたもので、リーダーのリチャード・グルーヴ・ホルムスは1950年代末から活躍していたジャズオルガン奏者です。
録音は1971年5月19日、メンバーはリチャード・グルーヴ・ホルムス(org)、ウェルドン・アーヴィン(elp)、ジェラルド・ハバード(g)、ジェリー・ジェモット(b)、ダリル・ワシントン(ds)、ジェームス・デイビス(per) に加えて、1曲だけ、チャック・レイニー(b) が交代しています。
ちなみにオルガン物には、ほとんどベースが入らないのが普通なんですが、この時代、つまり1970年代にはソウルジャズも16ビートが主流になり、それに伴ってエレキベースが必要とされたようです――
A-1 Groovin' For Mr. C
初っ端からエレキベースがブンブンブン♪ パーカッションがチャカポコ始まり、アップテンポでオルガンがウネリます。しかも隠し味にエレピが効いていますから、もう完全に私の好きな世界です♪
またギターのジェラルド・ハバードは無名ですが、小型ジョージ・ベンソンという味です。またエレピのウェルドン・アーヴィンは、今でこそレアグルーヴの王様ですが、この当時は新主流派の新鋭といった趣のモード系ソロを聴かせてくれます。
お目当てのジェリー・ジェモットは、もうグルーヴしまくりで、このベースだけ聴いていても大満足です。
A-2 Theme From Love Story
ドドンパ味の4ビートジャズで、この曲だけ、へースがチャック・レイニーに替わっていますが、それも含めて、ノリがイマイチの演奏だと思います。
曲は当時の大ヒット映画「ある愛の歌」のテーマで、それ自体も大ヒットしていましたから、狙いは分かるんですが……。
リチャード・グルーヴ・ホルムスのオルガンは爽やか系で迫っています。
A-3 Mr. Clean
ミステリアス・ファンクとでも申しましょうか、蠢くエレキベースと魅惑のエレピがテーマをリードしていくスタートからして、完全に虜になります。
一応リーダーのリチャード・グルーヴ・ホルムスも宇宙空間的なオルガンソロを披露していますが、ウェルドン・アーヴィンのエレピやジェラルド・ハバードのギターの方が目立つという♪ ドラムス&パーカッションも頑張っていますし、ジェリー・ジェモットは最高のベースワークで、グッときます。
ちなみにこの曲はフレディ・ハバードも演奏していますが、出来はこちらが上でしょう。機会があれば、聴きくらべてみて下さいませ。
A-4 Down Home Funk
タイトルどおりドロ臭いファンキー曲で、ド頭から様々な仕掛けが痛快に交じり合っていきます。ミディアム・テンポでのリズム隊のグルーヴは最高潮で、当時の黒人映画のサントラのような響きが、完全に私の好みです♪ もちろんジェリー・ジェモットのベースは素晴らしく、リチャード・グルーヴ・ホルムスも快適にタメまくったオルガンソロを披露しています。
あぁ、このリズムとビートこそが、たまらないんですね! 最後の打楽器の饗宴部分はサンタナのようで、ここも最高ですよ♪
B-1 Don't Mess With Me
B面は変則ブーガルー・ビートで演じられる痛快なファンク曲です。
誰かの掛声というか擬似ラップも楽しく、演奏全体が集団即興気味にリフの応酬に興じ、次第にグルーヴが形成されていくのですから、これだって立派なジャズだと思います。
黒っぽいものが好きな人ならば、一度聴いたら完全に虜になる演奏でしょう。リチャード・グルーヴ・ホルムスのオルガンは泣いていますし、ダリル・ワシントンのドラムスも痛快なグイノリ♪ ジェラルド・ハバードのギターも流麗なフレーズで破綻無く、もちろんジェリー・ジェモットのベースは蠢き過ぎて止まりません。
B-2 Wave
あまりにも有名なボサノバの名曲が、意想外の爽やかで演奏されています。
そのキモはウェルドン・アーヴィンのエレピとダリル・ワシントンのタイトなドラムスでしょうか、とにかくリチャード・グルーヴ・ホルムスのオルガンも涼しく、何度聴いても飽きません。
私は夏になると、ほぼ毎日、聴いているほどです。
なにしろ、それまで真っ黒だった全員のノリとアドリブソロが、この曲に限っては歌心優先の爽やかモードに転じています。騙されたと思って聴いてみて下さい。全く、このメンツですから、騙されて悶絶発狂の名演だと思います。あぁ、最高です♪
B-3 This Here
オーラスはボビー・ティモンズ(p) が書いたファンキー・ワルツの聖典が、新感覚の16ビートで披露されます。
もちろんジェリー・ジェモットが大活躍のリズム隊が、アドリブパートでは率先して変則4ビートに突入し、まずはウェルドン・アーヴィンがエレピで正統派のソロを展開し、ジェラルド・ハバードも健闘しています。
さらにリチャード・グルーヴ・ホルムスは、こういう演奏は十八番ですから、クライマックスまで一直線の爆裂ソロで場を盛り上げるのでした。
ということで、なんだかリーダーが一番目立たないような雰囲気もありますが、内容は文句無しの名盤だと思います。しかもそれは、所謂レアグルーヴとかソウルジャズが好きな人限定では無く、普通のジャズが好きな皆様にも、激オススメして後悔しない内容なんです。
ちなみに白状すると、私がこのアルバムを買ったのは、ジャケ写がノーマン・シーフ撮影だったからで、確か1974年の夏に某デパートの輸入盤バーゲンで500円位で入手したものです。
このノーマン・シーフという人は、1970年代前半に多くのミュージシャンを撮っており、所謂ニコパチという芸能界ノリでは無い、素のままのスタアを写す斬新さが、素敵なレコードジャケットに使われていました。その多くはロックやソウル畑のブツですが、これは珍しくもジャズ系のアルバムというわけです。
そして聴いて驚愕! その全く私の好みの内容には歓喜悶絶でした♪
しかしリアルタイムで完全に無視されていたようです。なにしろフュージョンブームの頃でさえ、これをジャズ喫茶で聴いた記憶が無いのです。それが1990年代のレアグルーヴ・ブームで持ち上げられた時には、心底、ビックリしましたですねっ!
その所為か、現在ではCD化もされており、私にとっては車の中の常備の1枚です。
例によって、ジャケ写から試聴出来るサイトにリンクしてありますよ。