OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ジェントル&グルーヴィ

2006-09-06 19:57:12 | Weblog

日本でのジャズ物再発は、いつも同じようなブツばかり出ている印象ですが、所謂幻の名盤が再発されるのは、やはり嬉しいところ♪

個人的に特に嬉しかったのが、本日の1枚です。

Afternoon In Paris / John Lewis & Sacha Distel (Verailles / Atlantic)

ジェントルでグルーヴィなモダンジャズの傑作盤と、私は迷わず断言致します。

録音は1956年12月4&7日、メンバーはジョン・ルイス(p)、サッシャ・ディステル(g)、バルネ・ウィラン(ts) は不動で、A面はピエール・ミシェロ(b) とコニー・ケイ(ds)、B面はパーシー・ヒース(b) とケニー・クラーク(ds) というリズム隊が付いています。

そして録音場所はもちろん、タイトルどおりにフランスのパリ♪ メンバーを見れば一目瞭然ですが、アメリカのモダンジャズ・カルテット=MJQの新旧レギュラーに、フランス勢が挑んだ構図になっています。

ただしそこはジョン・ルイスの人徳と手腕により、ギスギスしたものよりも、協調性が重視した姿勢に和みます――

A-1 I Cover The Waterfront (1956年12月7日録音)
 ビリー・ホリディの名唱があまりにも有名なスタンダード曲で、それ以来、如何に哀愁と和みを両立させるかが課題となった雰囲気ですが、ここでの解釈は抜群です。
 まずジョン・ルイスが孤高の佇まいというピアノソロのテーマ変奏から、サッシャ・ディステルのギターが気分はロンリーにテーマメロディをリードします。
 この人はシャンソン歌手として有名ですが、1950年初頭には渡米してジャズ修行した本格派! 当時はジミー・レイニー(g) に師事していたという直伝のフレーズを駆使して、原曲に秘められた歌心を引き出すことに成功しています。
 そして次に出るのが、お待ちかね、バルネ・ウィランのテナーサックス♪ 全く期待を裏切らない硬質な歌心に満ちたソロを聴かせてくれます。
 リズム隊も全体のバランスを考えて、決して派手にならないようにしながらも、要所で鋭いツッコミを入れたり、倍テンポへの自然な移行やグルーヴィなノリが最高です。特にバルネ・ウィランのソロ後半に絡むピエール・ミシェロの執拗さが、素晴らしいですねっ♪

A-2 Dear Old Stockholm (1956年12月7日録音)
 これも嬉しい選曲で、邦題は「懐かしのストックホルム」といえば、スタン・ゲッツ(ts) の十八番ではありますが、前述したようにサッシャ・ディステルはアメリカ修行時代にジミー・レイニーを通じてスタン・ゲッツにも可愛がられていた繋がりで、この曲のアレンジを使う許可を得たようです。
 ここでの演奏は全くスタン・ゲッツのバージョンどおりの展開で、最初はテナーサックス、ギター、ピアノが各々のコーラスを短く演奏し、ベースがアルコでキメを入れてアドリブパートに入ります。
 そしてここではビートを強め、ミディアムテンポで歌いまくるバルネ・ウィランのテナーサックスが最高です! なにひとつ難しいフレーズが無く、全てが歌という素晴らしさなんですねぇ~♪
 さらに続くサッシャ・ディステルのギターは単音弾き主体で、これも歌心の追求に腐心しつつ、ハードバップ的なノリを大切にしています。
 またジョン・ルイスが良いですねっ♪ 例の訥弁寸前という隙間だらけの単音ピアノが、ここでは最高に輝いています。それはもちろんMJQがモロなんですが、良いものは良いと素直に楽しんでしまえるのです。

A-3 Afternoon In Paris (1956年12月7日録音)
 ジョン・ルイスが1949年に書いた代表曲で、もちろんパリの印象を表現したテーマ・メロディがジェントルの極みです。
 ここでの演奏は、それに加えて力強いリズム隊のノリがハードバップ全盛期の証左というか、アドリブパートではバルネ・ウィランがファンキーな味わいも聴かせてくれますし、サッシャ・ディステルは無機質な音使いでクールな部分を強調しています。
 しかし凄いのは、各々のアドリブの受渡しに仕掛けられたアレンジで、ここを通過することによって各プレイヤーはハードバップでもクールでも、はたまたセミクラシックでも、つまり如何様にも展開できるアドリブがOKという、非常に上手い仕組みになっているようです。
 実際、ジョン・ルイスのアドリブパートには様々な要素が含まれていますし、これをいきなり演じたら、リスナーは和めないでしょうね。当にアレンジの勝利という演奏です。

B-1 All The Things You Are (1956年12月4日録音)
 モダンジャズでは説明不要の必須スタンダード曲が、極めて暗い出だしから一転、熱いハードバップに変換されるという、素敵な展開で楽しめます。
 アドリブ先発のバルネ・ウィランはデクスター・ゴードンやハンク・モブレーという正統派テナーサックスの系譜を頑なに守る姿勢が素晴らしく、また音色そのものの魅力もたまりません。
 またサッシャ・ディステルはメロディックなアドリブ展開を模索し、ジョン・ルイスは、またまた寂しさが募る様な隙間だらけのピアノソロが痛切です。
 ちなみにリズム隊が前述したようにB面では替わっており、モロにハードバップなパーシー・ヒース&ケニー・クラーク組が奮闘しています。
 
B-2 Bag's Groove (1956年12月4日録音)
 で、そのリズム隊ならではのグルーヴィなビートで演奏されるのが、MJQでも定番演目のブルースです。
 もちろんその狙いはアドリブ合戦で、まずサッシャ・ディステルがバーニー・ケッセル風のフレーズを織り交ぜてビバップ魂を披露すれば、ジョン・ルイスは独自の黒い雰囲気を撒き散らします。
 そして、やっぱりこの人! というバルネ・ウィランはちょっとチャーリー・ラウズ(ts) になっていますが、やはりハードバップの基本に忠実な演奏は好感が持てます♪ またパーシー・ヒースはソロにバックに大活躍で、この人中心に聴くもの、また別の楽しみだと思います。

B-3 Willow Weep For Me (1956年12月4日録音)
 オーラスは黒いムードが横溢する人気スタンダード曲です。
 まず、これまでの定石どおり、ジョン・ルイスがソロピアノでペースを設定し、ベースが加わってギターを導き、ドラムスが絶妙のサポートを聴かせるというあたりは、手馴れていて緊張感もたっぷりという名演になっています。
 もちろんサッシャ・ディステルのギターがリードするテーマメロディの素直な解釈は最高で、自然に入っていくアドリブパートでのネバリのあるビートとタメのフレーズ展開も見事です。
 続くバルネ・ウィランも、ダレる寸前のテンポでギリギリのタメを聴かせるあたりは、人気の秘密とでも申しましょうか、フランス人ながら本当に素晴らしい黒っぽさですねぇ♪ 当にテナーサックスという音色も最高です。そして何と、当時19歳という神童だったのです!

というこのアルバムはフランス盤がオリジナルながら、アメリカ盤さえもなかなか入手出来ない、真の幻の名盤でした。もちろん中身は折り紙付きの名演集ですから、再発された時は、本当に感涙に咽ぶ思いでした。

しかも演奏そのものがジェントルな雰囲気優先でしたから、日本の住宅事情には申し分無いということで、自宅でも随分愛聴したものです。そして聴くほどに味わい深いんですねぇ、これがっ♪

決して派手さのある作品ではありませんが、案外ジャズ入門用に最適の1枚かもしれません。

コメント (2)
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