またまた最近、物欲を刺激されるブツが大量に発売されていますね。嬉しい反面、当然お金の心配が……。
あぁ、もう、これ以上、私にお金を使わせないでくれっ!
という悲痛な叫びを胸に、本日聴いたのが――
■Bags Meets Wes / Milt Jackson & Wes Montgomery (Riverside)
ジャズはある意味、個人芸なので、アルバムを買うファンの気持ちとしては、好きなミュージシャンが入っていればそれで良しとする傾向が強く、ましてや、そこに参加しているメンバー全員がお気に入りならば、それだけで満足してしまうのが、ジャズ者のサガです。
私にとっては、このアルバムこそが、そうした1枚でした。
なにしろメンバーが、ミルト・ジャクソン(vib)、ウェス・モンゴメリー(g)、ウイントン・ケリー(p)、サム・ジョーンズ(b)、そしてフィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) という、黒~いハードバップ一直線の強面が揃っているのです。ちなみに録音は1961年12月18&19日です――
A-1 S.K.J (1961年12月19日録音)
ミルト・ジャクソン作曲のオリジナル・ブルースを、まずはサム・ジョーンズの強靭なベースがリード、そしてタメの効いたテーマ・リフが流れてきた瞬間、あたりはブル~ス一色です。
アドリブ先発はウェス・モンゴメリーが初っ端からオクターブ奏法とコード弾きのコンビネーションを使って熱く盛り上げていきます。あぁ、このギターの歪んだ響きがたまりません。
そして続くウイントン・ケリーも持ち前の粘っこいフィーリングを発揮、さらに主役のミルト・ジャクソンがブルースのお手本を示すのです♪
ここで気づくのが、このセッションの音の硬さです。これは当時の主流だったルディ・ヴァン・ゲルダーの録音では無く、Ray Fowler という録音技師の仕事ですが、これが適度な歪みと力感あるベース&ドラムスの響きが上手くミックスされていて、好みです。
で、ここでもサム・ジョーンズ&フィリー・ジョーのコンビが最高の存在感! ギスギスと豪胆にスイングしていくサム・ジョーンズにビシバシとビートを極めるフィリー・ジョー♪ これぞリバーサイドの音だと思います。
ちなみにこの頃のジャズ専門レーベルには、それを特徴づけるリズム・コンビが存在しており、例えばブルーノートではダグ・ワトキンス(b) &アート・ブレイキー(ds)、ブレスティッジではポール・チェンバース(b) &アート・テイラー(ds)、サボイではウェンデル・マーシャル(b) &ケニー・クラーク(ds) といったところでしょうか、もちろんリバーサイドではサム・ジョーンズ&フィリー・ジョーです♪
A-2 Stablemates (1961年12月18日録音)
フィリー・ジョーのグイグイいくドラムスにメンバー全員がノセられてしまう、快適な演奏です。曲はもちろんベニー・ゴルソン作曲によるモダンジャズの定番メロディ♪
まずはウェス・モンゴメリーがバリバリと単音弾きで斬り込めば、ミルト・ジャクソンはビバップ伝来のフレーズでスマートに対応します。
もちろんリズム隊も絶好調で、サム・ジョーンズの我が道を行くウォーキング・ベースは最高ですし、ウイントン・ケリーの颯爽としたアドリブ、そして絶妙の叩きまくりというフィリー・ジョーは痛快です。
A-3 Stairway To The Stars / 星へのきざはし (1961年12月18日録音)
ミルト・ジャクソンが十八番のスタンダードで、スロー物における天才的な歌物解釈がじっくりと楽しめます。もちろんそういう部分ではウェス・モンゴメリーも負けていません。テーマの変奏ではオクターブ奏法を駆使してムードたっぷりに盛り上げていますし、リズム隊も控えめながら絶妙のサポートという、出色の演奏です。
A-4 Blue Roz (1961年12月18日録音)
ウェス・モンゴメリー作曲によるハードバップなブルースです。
そしてこういう曲調になるとゴスペル感覚を撒き散らすリズム隊が強力ですし、ミルト・ジャクソンも素直にノセられてブルース衝動を吐露、ウェス・モンゴメリーもハードボイルドに迫ってきます。
あぁ、全員の弾き出す音に無駄がありません! あるべきところにキチッと収まったジクゾーパズルの完成品のような、それでいて自然体のグルーヴが満喫出来る名演だと思います。
B-1 Sam Sack (1961年12月19日録音)
さあ、お待ちかね、サム・ジョーンズ&フィリー・ジョーのリズム・コンビが大暴れするブルースです。
特にフィリー・ジョーは初っ端から快適なクッションに重いビートという得意技の出しまくり♪ この曲の作者であるサム・ジョーンズの豪胆なウォーキングも最高です。
ですからミルト・ジャクソン、ウェス・モンゴメリーともに演奏していて自らが楽しい雰囲気ですね。もちろんウイントン・ケリーも爽快にスイングしています。
そしてクライマックスはフィリー・ジョーのドラムソロとサム・ジョーンズのベースの掛け合いというリズム隊の大爆発が用意されていますが、まったく自然発生的に炸裂するグルーヴは本当に強烈です!
B-2 Jingles (1961年12月18日録音)
出ました! ウェス・モンゴメリーが十八番のハードバップ曲です。しかしこれが良く聴くと、リズムに対するアプローチが相当に難しい雰囲気です。
しかし、そこは名人達の寄り集まりということで、アドリブパートでは美味しい個人芸が存分に披露されていきます。
それはミルト・ジャクソンのスピート感満点のステック捌き、ウェス・モンゴメリーの間然することの無い構成力、そしてシャープなフィリー・ジョー、プンブン突き進むサム・ジョーンズ、さらに調子が出ずに苦しむウイントン・ケリーまでもが一丸となったハードバップ全盛期の底力なのでした。
B-3 Deulah (1961年12月19日録音)
エキゾチックな雰囲気のスタンダード曲で、モダンジャズではクリフォード・ブラウン(tp) の超名演があまりにも有名ですが、この演奏も素晴らしい♪
それはリズム隊の好演、特にフィリー・ジョーのメリハリが効いたブラシ、そのハッスルぶりが最高です。
そしてアドリブパートでは、まずミルト・ジャクソンが完璧なソロを披露、続くウェス・モンゴメリーは、いきなりのコード弾きからオクターブ奏法を全開させる豪快さです! あぁ、この歪みが入った音! 好きです♪
またサム・ジョーンズのベースも独特の軋みが録音されていますし、ウイントン・ケリーのネバリ、そのピアノタッチの魅力にもグッとくるという、これも名演の中の大名演だと思います。
ということで、これは「リバーサイド」というレーベルの特色が色濃く出た名盤だと思います。その要因は前述したように、ルディ・ヴァン・ゲルダーでは無い録音でしょう。当時のブルーノートあたりの音に親しんでいる人には、ここで聞かれる音には違和感があろうかと思います。
実際、私も最初はそうでした。しかし聴き込んでいくうちに、このメンツでの、この演奏ならば、この音しか無い! と思えるようになりました。それは歪みと軋み、ドラムスとベースが突出して炸裂するバランス! そのあたりが私には非常に魅力なのです。
音楽鑑賞には虚心坦懐が必須ではありますが、こういう聴き方もあるという、そのあたりもご理解いただきとうございます。
ちなみに現在、最新リマスターの紙ジャケ仕様CD、輸入盤CD等々、いろいろと発売中ですが、この歪みと軋みは存分に楽しめるはずです。