敗戦で一気に熱が冷めつつあるW杯ではありますが、私はまだまだ諦めていません。
というか、実は気持ちの整理がついていないだけかもしれませんが……。
ブラジルに勝とうなんて、無謀ですかねぇ……。
ということで、本日は超人的なアルバムを――
どの世界にも「特別な人」っていますよね。良くも悪くも、凄い人っていう存在が。
例えばジャズ・ギターの世界では、タル・ファーロウという白人ギタリストが、そういう人です。
そのスタイルは驚異的な早弾きと豊かな歌心、骨太な音色と豪快でありながら繊細な装飾フレーズ、おまけに烈しいツッコミと余裕のネバリ!
しかも、それが独学で身につけたものだというのですから、仰天です。
さらに全盛期に逆玉の輿で引退したのですから、あぁ……。
このアルバムはその全盛期に吹き込まれた傑作で、録音は1958年2月17&18日、メンバーはタル・ファーロウ(g)、その盟友のエディ・コスタ(p)、ジミー・キャンベル(ds) を中心にベーシストは17日がノビー・トーター、18日はビル・ティカスが参加しています――
A-1 Lean On Me (1958年2月17日録音)
あまり有名ではないスタンダード曲ですが、それを逆手にとって奔放なモダンジャズに仕立ててあります。まずテーマのオリジナル・メロディに漂う一抹の哀愁を活かしつつ、それを豪快に変奏していくバンド全体の勢いが素晴らしい♪
アドリブパートでもタル・ファーロウが低弦で蠢きながら、次の瞬間、高音域にファッと滑り込んでいく早弾きのスリルを存分に聴かせれば、エディ・コスタは得意の重低音打楽器奏法を最初っから披露して、暗い予感に満ちた演奏で抜群のコントラストをつけています。
ちなみにエディ・コスタは1962年にシェリー・マン(ds) のリーダー盤「234 (ImPulse!)」に参加してこの曲を演奏し、得意の打楽器ピアノを炸裂させていますが、やはり十八番だったのかもしれません。
そして素晴らしいのがジミー・キャンベルのスカッとしたブラシ! シャッシャカ、シャッシャカ、気持ち良い限り♪ アップテンポの曲展開を見事に支えているのでした。
A-2 Wonder Why (1958年2月17日録音)
これもスタンダードの隠れ名曲というか、タル・ファーロウのギタースタイルにぴったりの曲想が最高です。
なにしろイントロからテーマの変奏、アドリブパートの歌心と躍動感が素晴らしく、またアレンジも秀逸だと思います。全体としてはミディアム・テンポの演奏ですが、タル・ファーロウは早弾き織り交ぜながら緩急自在♪
こういう選曲の上手さも一流プレイヤーの必須条件かもしれません。
A-3 Night And Day (1958年2月17日録音)
そして今度は有名スタンダード曲を選び、縦横無尽のギター捌きを聴かせてくれます。しかもこれは他の大勢のギタリストがレパートリーにしているということで、どうだっ、上手いだろう!? となってしまいそうですが、流石はタル・ファーロウというか、ちっとも嫌味になっていません。
もちろんタコと渾名されたタル・ファーロウの手の大きさが無ければ、それは苦しい運指が必要とされるフレーズの連続です。つまりギタリストとしての資質を完全開花させた演奏が、これというわけです。
A-4 Stella By Starlight (1958年2月17日録音)
これも大勢のギタリストが名演を残している有名スタンダード曲ですが、ここでのタル・ファーロウは一際鮮やかです♪ とにかくアップテンポでゴマカシの無いフレーズをバリバリと弾きまくり! もちろん些細なミスタッチも散見されますが、それすらもアドリブの一部にしてしまう勢いがあるのです。
リズム隊も相当熱い雰囲気で、ジミー・キャンベルはステックで奮戦、エディ・コスタもクライマックスのソロ交換で烈しいツッコミを入れています。
B-1 The More I See You (1958年2月18日録音)
タル・ファーロウの歌心が全開した素晴らしい演奏です。
まずテーマの解釈が素晴らしく、アドリブパートでも余裕の展開! と見せかけて、実はギリギリの緊張感も漂うという恐ろしさです。
実は恥ずかしながら私には、このアドリブのコピーに挑戦という無謀な試みをした過去がありますが、同じ雰囲気を出すピッキングの難しさに打ちひしがれました……。さらに運指にも無理がたっぷり存在しています。
B-2 All The Things You Are (1958年2月18日録音)
これまた有名スタンダード曲ですが、コード進行にモダンジャズどっぷりの難しさがあって、良いアドリブを展開することが一流の証明のようになっています。
もちろん、ここでのタル・ファーロウにはそんな心配はご無用で、早いテンポの中で一糸乱れぬソロを展開していきます。あぁ、こんなにギターが弾けたらなぁ……、と思わず天を仰ぐ素人の哀しさを痛感させられるのでした。
B-3 How Long Has This Been Going On (1958年2月18日録音)
ここでは最初、グッとテンポを落とし、スロー物でのタル・ファーロウの妙技が楽しめますが、直ぐに力強いリズム隊の煽りが始まり、ハードな雰囲気の中で歌心を披露していくタル・ファーロウはニクイ限りです。
エディ・コスタを中心としたリズム隊は、時としてモダンジャズの王道を踏み外さんばかりの炸裂ぶりですが、クライマックスは高音弦をミュートしたタル・ファーロウのキメ技に導かれ、事なきを得るのでした。う~ん、素晴らしい♪
B-4 Topsy
これまたギタリストの必須科目ですが、ジャズギターの神様=チャーリー・クリスチャンの名演があるので、演ずるには相当の勇気が試されます。
ここでのタル・ファーロウは、あえてそこにチャレンジして完全な成果を残そうと奮戦し、見事、期待に応えています。それはネックのあらゆる箇所を這い回る指の動きの凄さ、淀みないピッキングの上手さが渾然一体となった、これもひとつの神業というわけです。
またエディ・コスタも大健闘、ジミー・キャンベルのドラムスもブラシとバスドラが暴れて、痛快です。
ということで、これはジャズギターの名盤ですが、残念ながら全体が同じようなテンポの曲ばかりで、イマイチ、変化にとぼしいことも事実です。
しかしタル・ファーロウという稀代の名手を鑑賞するには最高の1枚でしょう。タイトルに偽り無し! 爽快さは満点です。