今年は寒いとか言われていましたが、だんだん、暑くなってきたようです。
ムシムシときて、朝晩は寒いという、身体に一番悪い雰囲気ですが、そういう溜まりそうな疲れをぶっ飛ばすのが、景気の良いライブ盤ということで――
■Cannonball Adderley In Japan (Capitol / 東芝)
「ライブ・イン・ジャパン」という響き、私の世代には特に感慨深いものがあろうかと思います。
何しろ当時、昭和40年代中頃までは外タレの来日公演が本当に希少でしたから、大物が来日すると、必ずと言っていいほど、実況録音が行われ、アルバムが発売されていました。
その中でも特大のヒットとなり、しかも歴史の残る名盤となったのが昭和40年8月に発売された「ペンチャーズ・イン・ジャパン(東芝)」でしたが、このアルバムも同じレコード会社が、柳の下を狙って製作したものかもしれません。
当時の日本の洋楽状況は既にジャズ・ブームが去っており、逆にビートルズが来日したことから日本中ではグループサウンズ=GSブームが急速に広がっていました。しかしその中で、キャノンボール・アダレイは大衆的な演奏・演目で人気を保っていたようです。
もちろんライブの場でも人気演目を多くやっていたのでしょう、このアルバムにはモダンジャズのファンならずとも耳にしたことがあろう曲が、ぎっしり詰まっています。
録音は昭和41(1966)年8月26日のサンケイホール、メンバーはキャノンボール・アダレイ(as)、ナット・アダレイ(cor)、ジョー・ザビヌル(p)、ヴィクター・ガスキン(b)、ロイ・マッカーディ(ds) という、当時のレギュラー・バンドでした――
A-1 Work Song
キャノンボールと言えば、まず、これでしょう。ナット・アダレイが作った、ファンキーを代表するような名曲で、日本でも多くのバンドが演じていましたし、ついには日本語の歌詞をつけて歌う尾藤イサオのような人まで出現したという人気曲です。
ここでの演奏は冒頭からキャノンボールとナット・アダレイの罵りあいのような無伴奏ソロの掛け合いにジョー・ザビヌルのビアノが味をつけ、お馴染みのテーマが厳かに披露されます。もちろんお客さんはその瞬間に大喜び♪ 続けてド派手な演奏に突入すれば、会場は興奮のルツポです。
ただしキャノンボールのアドリブソロは、いささか野放図なところが目立ちます。しかし当時の雰囲気からして、これで良いんでしょうねぇ……。
A-2 Mercy,Mercy,Mercy
ジョー・ザビヌルが作った、これぞゴスペルファンキーの塊という名曲で、もちろん当時、世界中で大ヒットしていますが、実はこの時点ではレコード化されていなかったと思われます。
なにしろ件のヒットバージョンは、この日本公演に先立つ7月に録音されたものですから、ここではバリバリの新曲として公開されたわけです。
肝心の演奏は、ゆったりしたテンポから力強いビートに煽られてジョー・ザビヌルのピアノがファンキーを熟成させていくという展開です。もちろんこれが気持ちE~♪ バックのリフを演奏するアダレイ兄弟もノッテいますし、ヴィクター・ガスキンのベースも健闘しています。
ちなみにジョー・ザビヌルはウィーン出身で、後年、ウェザー・リポートを結成して大ブレイクしますが、1950年代末にアメリカにやって来た頃は白人らしからぬ王道ハードバップのスタイルで演奏していました。恐らくキャノンボールのバンドに誘われたのも、そのあたりを評価されてのことだと思います。
また作曲も上手く、この他にも名曲を数知れず作っています。
A-3 This Here
1950年代からキャノンボールのバンドでは定番のヒット曲です。
それはズバリ、ゴスペルファンキーなワルツで、そのリズムとビートの汎用性から、ここではロックビートに近いノリまで聴かせてくれます。
メンバーのアドリブでは要所に様々な仕掛けがあったり、出来合いのフレーズ、お約束のリフの大盤振る舞いなので、いささか飽きがくる展開ですが、ジョー・ザビヌルがファンキーな中にもビル・エバンスっぽいモードを入れて新鮮な熱演です。
B-1 Money In The Pocket
これもジョー・ザビヌルが作ったファンキー曲で、この年の初めに同名タイトルのリーダー盤で吹き込んでいますが、キャノンボールのバンドでも頻繁に演奏していた証が、これです。
曲調は完全なジャズロックで、まずナット・アダレイが大ハッスルの熱演を展開すれば、キャノンボールは兄貴の貫禄で余裕のウネリと入魂の大ブローです。
そしてお待ちかねのジョー・ザビヌルは若干ブルース魂に欠けているような気も致しますが、作者としての正解はこれっ! ということなんでしょうか……。
後半はリズム隊の見せ場となって、一端、沈静化させたファンキー・グルーヴを徐々に盛り上げていくという、些かあざとい演出が繰り返されるので、もう、たまりせん♪ この静と動のコントラストが、新しい感覚だったんでしょうねぇ、今聴いてもエキサイトしてきます。
B-2 The Sticks
これまた痛快なボサロックと言うしか無い、最高の曲です。
なんか聴いているうちに、鏑木創が作る日活ニューアクションのサントラみたいに感じられるのは、私だけでしょうねぇ……、ははは……。
う~ん、それにしてもシャープでドロ臭いリズム隊が素晴らしいです♪
B-3 Jive Samba
そして大団円は、キャノンボールのバンドテーマともいうべき、またまた楽しいファンキーボサノバです。
しかしテーマの楽しさとは裏腹に、アドリブパートではキャノンボールがエグイ新感覚を披露し、ナット・アダレイも斬新なフレーズで勝負していますが、ここでも凄いのがジョー・ザビヌルのファンキー&ロッキンな生ピアノ! ビル・エバンスがファンキーしたような感覚と言うよりも、これはジョー・ザビヌルだけの個性と、断言しておきます。
またリズム隊のノリが素晴らしく、特にロイ・マッカーディのドラムスがイナタイ! これがまた、最高なんですねぇ♪
ということで、非常に荒っぽい出来ではありますが、楽しさ満点♪ そしてジョー・ザビヌルが熱演の弾きまくりなんで、ファンは必聴だと思います。
で、このアルバムが当時、どのくらい売れたのかは不明ですが、私の家の近所にあった普通の喫茶店では1970年代初期になっても鳴らしていましたから、それなりにヒットしたのでしょう。
ただし時代はロックへ一直線! ジャズもロックを取り入れなければ生き残れない選択となったわけですが、ここにその正解のひとつが記録されています。
そしてジョー・ザビヌルを聴くなら、まず、これです。