本日は完全休養を決め込んで実家に戻らず、万年床の生活でした。
食い物は隣家のお婆さんが頂いた山菜飯と塩鮭、野菜の煮付けという豪華版、年末の宴会で貰っていたワインを飲みつつ、買いっ放しだったDVD鑑賞です。
それにしても万年床は気持ち良い~♪ 否、それだけ私が疲れているのか……。
で、合間に見たテレビで話題になっていた盗作絵画?
急にこんなこと考えて、これ、聴いてみました――
■Circle Waltz / Don Friedman (Riverside)
世間では某美術家の盗作騒動の真偽が問われておりますが、事の真相はどうあれ、ジャズの世界でも似たことがあります。
例えばチャーリー・パーカー(as) とソニー・ステット(as)、バド・パウエル(p) とジョージ・ウォーリントン(p) あたりは言わずもがなで、共に同じ楽器で酷似したスタイルを同時期に確立しつつ、売り出してしまったわけですが、ジャズの世界でどちらが本物か? という真贋は、アドリブ能力とエキセントリックな色合の強さで判定されてしまうようです。
もちろん今日ではチャーリー・パーカーとバド・パウエルは大天才! ということになっていますが、さりとてソニー・ステットやジョージ・ウォーリントンの魅力だって捨てがたいでしょう♪
本日の主役、ドン・フリードマン(p) もそんな範疇のピアニストで、そのスタイルはビル・エバンス(p) 生き写しの耽美派です。
しかもこのアルバムは、ビル・エバンスが契約していたリバーサイド・レーベルで製作され、メンバーもペースがビル・エバンスと縁のチャック・イスラエル、おまけにビル・エバンスが人気を完全確立した1962年に録音されたものです。
ドン・フリードマンは前述したように、全篇をビル・エバンスに酷似したピアノ・スタイルで演奏しており、これがリバーサイドでは2枚目の作品ですが、ドン・フリードマンに言わせると、自分はビル・エバンスよりも先にビル・エバンスのスタイルで演奏していたとの事です。
実は私はジャズを聴き始めてすぐにビル・エバンスのファンになり、リーダー盤を聞き漁っていたわけですが、今日と違い、1970年代中頃にはリバーサイド、ヴァーヴ、コロンビアあたりから出ていたビル・エバンス名義のアルバムは絶対数が少なく、自然、同じ色合を求めているうちに出会ったのが、本日の1枚です。
録音は1962年5月14日、メンバーはドン・フリードマン(p)、チャック・イスラエル(b)、ピート・ラ・ロッカ(b) となっています――
A-1 Cricle Waltz
ドン・フリードマン作曲のオリジナル・ワルツですが、安らぎ厳しさが同居した素晴らしいテーマを聴いただけで、これをビル・エバンスと言わずして何と言おう! と不遜な言葉しか浮かばないほどです。
テーマ部分からチャック・イスラエルがリードする形で絡み合うトリオの緻密な演奏は、耽美の極み♪ あぁ、この静謐な歌心♪ ビートに対する自在なアプローチを受けて途中からステックに持ち代えるピート・ラ・ロッカもスキがありません。そして演奏は力強さを増しつつ、クライマックスに突入し、如何にも白人らしいスマートな終焉を迎えるのでした。
A-2 Sea's Breeze
これもドン・フリードマンのオリジナルですが、同時期のビル・エバンスに比べると力強さやエキセントリックな部分が顕著な演奏になっています。
このあたりは後年の欧州系ジャズピアニストのスタイルに直結する潔さもあって、私は好きです。
背後から終始襲いかかってくるドラムスとベースの共同謀議も嫌らしく、一瞬、ドン・フリードマンがタジタジとなる場面さえありますが、最後のソロ交換で鬱憤を晴らしているようです。
A-3 I Hear A Rhapsody
おいおい、こんな曲を取上げたら、ますますビル・エバンスって言われるぞっ! という余計なお世話が的中した演奏です。しかし、これがビル・エバンスよりもビル・エバンスしているという、全くファンには嬉しい仕上がりなんですから、たまりません♪
まさにドン・フリードマンの意地が爆発したかのような、本当にクールな情熱が聴き手を熱くさせる快演です。
B-1 In Your Own Sweet Way
ひぇ~! 連続してビル・エバンスは俺の真似! を証明しようと奮闘するドン・フリードマンは素晴らしい! こういう人、本当に好きですねぇ、天邪鬼の私は♪
演奏はスローな展開でテーマを変奏するドン・フリードマンのピアノ・ソロからリズム隊が加わって、耽美の研究に没頭♪ これが、ビル・エバンスよりも尚一層。クール&ドライな感性に満たされており、初めて聴いた時は心臓がギューッとなりましたね!
とかにく1音を大切する演奏姿勢は、テナーサックス奏者のウェイン・ショーター的でもあります。もちろん和声変奏も絶品で、皆様にはぜひとも聴いていただきたい名演です。
B-2 Loves Parting
溜息が出るほど素晴らしいドン・フリードマンのオリジナル曲です。スローな展開の中で完全無欠なリリシズムと黙して語らずという熱い想いが、たっぷりと堪能出来るのです。
共演者の2人もリーダーの意図を充分に理解して絶妙なサポートに撤していますし、不遜ながら、もしこの曲をビル・エバンスが演奏したら……? とは思わずにいられない名曲にして名演です♪
B-3 So In Love
有名スタンダードをドン・フリードマンは孤立無援のソロ・ピアノで聴かせてくれます。短い演奏ですが、ビバップ・スタイルを織り交ぜたりして、なかなか楽しませてくれるのでした。ビル・エバンスじゃなんですよ、ドン・フリードマンは!
B-4 Modes Pivoting
オーラスはタイトルどおり、モード全開というドン・フリードマンのオリジナル曲です。何となくA面冒頭の「Cricle Waltz」に似ているところが憎めませんが、演奏は徹底してバリバリ行こうという精神です。
アドリブ・メロディの感覚も冴え渡り、穏やかな展開と思わせおいて鋭く近づきがたいフレーズで聴き手を突き放すあたりは、油断なりません。
ということで、これはビル・エバンスそっくりさんでありながら、実は十二分に個性的な名手の代表作です。この手のピアニストとしてはスティーヴ・キューンの名前もあがりますが、ドン・フリードマンは頑固に自己を守り通している感じがします。
ドン・フリードマンはこの後も何枚かリーダー盤を出しますが、1960年代後半からはブランクの方が長く、レコーディングから遠ざかっていきます。おそらく世渡りが上手いタイプではなかったのかもしれません。それでもその間、チョボチョボと自費録音は続けていたらしく、近年、それ等の音源も発掘されておりますし、1990年代に入ってからは再評価もされておりますが、まずはこのアルバムを聴いてみて下さいませ。
ジャケットそのまんまに、ビル・エバンスよりもシュールで硬派な演奏が楽しめます♪