本日も蒸し暑いですねぇ……、ちょっと気を抜くとグッタリしそうなほど……。
ということで、本日も昨日に引き続き、面白企画のバトル盤を――
■Sonny Meets Hawk ! / Sonny Rollins & Cloeman Hawkis (RCA)
モダンジャズの偉大なテナーサックス奏者であるソニー・ロリンズが、それ以前のスタイル、つまりスイング時代にジャズ・サックスの基礎を完成させたコールマン・ホーキンスの影響下にあることは、明白です。
その骨太な音色、狂熱的でありながら柔らかさも兼ね備えたノリは、どんなリズムやビートを用いた演奏スタイルでも揺るぐことは無く、実際、コールマン・ホーキンスはモダンジャズ創成期に、誰よりも早くビバップのイディオムを取り入れた録音を残したとされていますし、ソニー・ロリンズはハードバップを乗り越えてモードやフリー、はたまたフュージョンまでもボロを出さずに演奏しています。
そんな2人が堂々と競演したのがこのアルバムですが、実はこのセッションに先立つ数日前のニューポート・ジャズ祭のライブで既に、大評判となった演奏が実現していたのです。
そしてその成功を再現するべく企画されたのが、この作品というわけです。
録音は1963年7月15&18日、メンバーはコールマン・ホーキンス(ts)、ソニー・ロリンズ(ts)、ポール・ブレイ(p)、ロイ・マッカーディ(ds) が不動、録音日によってベーシストが替わり、7月15日がボブ・クランショウ、7月18日がヘンリー・グライムスの参加になっています。
その演目は最後の1曲を除いて、全てが有名スタンダード曲という、これも昨日紹介した「Getz Meets Mulligan」と似た企画になっているのでした――
A-1 Yesterdays (1963年7月15日録音)
いきなり右チャンネルから烈しい露払いを務めるのがソニー・ロリンズです。そして左チャンネルで悠然とテーマを奏でるのが、コールマン・ホーキンス!
う~ん、巧みにテーマを変奏しつつ、かなり強烈なツッコミをいれるコールマン・ホーキンスの貫禄には圧倒されますね♪ もう、こうなるとソニー・ロリンズに残された道はフリーしか無いという雰囲気で、本当に自爆のフレーズを吹いてしまうのですから、いやはや、なんともです。
するとコールマン・ホーキンスは、お前ねぇ、ジャズはこうやるんじゃないの? と諭しの吹奏! そしてこれが相当に過激なんですから、スローテンポで演じられる内部は、完全に異次元空間になってしまったというオチがついています。
A-2 All The Things You Are (1963年7月15日録音)
で、ここでようやく王道のモダンジャズに入ります。
演目はコールマン・ホーキンスが十八番にしているスタンダードで、初っ端からグイノリでテーマを吹奏、続けて揺ぎ無い自信に満ちたアドリブを聴かせてくれますが、ちっとも古いスタイルに聴こえないのは流石です。
そして次に登場するのがビル・エバンス色が濃厚なポール・ブレイのピアノです。ただしセロニアス・モンクのノリとフレーズを上手く織り交ぜ、個性にしているのは反則です。
しかしそれをぶっ飛ばすのがソニー・ロリンズの勘違いノリです。徹底的に楽しいフレーズを排除していこうという苦し紛ればかりなのは何故だっ!? それは時代が時代だし、大先輩の前で素直になれないのは理解出来ますが……。
まあ、それでも後半にはロリンズ節がそれなりに飛び出してきますし、リズムに対する厳しい対処は楽しくもあります。
するとコールマン・ホーキンスが突如、怒りの参入というか、ソニー・ロリンズとの絡み合いに演奏を持ち込んで、どうにか収集をつけるのですが、良いところでフェードアウトが残念無念……。
A-3 Summertime (1963年7月18日録音)
いきなり右チャンネルで暗く蠢くソニー・ロリンズが、演奏の全てを決定しています。それは私のような凡人には理解不能な展開だと思いが……。
ただしリズム隊が過激に対処しているので、どうにか纏まりがついているようです。
そして流石のコールマン・ホーキンスも、これには保守的傾向を守るのが精一杯というか、結局、安心感を求めるジャズファンは左チャンネル中心に聴いてしまうはずです。
演奏はこの後、ヘンリー・グライムスの強靭なベースソロが聴き物になるのでした。
B-1 Just Friends (1963年7月18日録音)
スタートから快適なノリがあるので、安心感があります。
アドリブ先発のソニー・ロリンズが新しいフレーズやノリを交えつつも、往年の豪放な展開を聴かせてくれますし、コールマン・ホーキンスは全く自分のジャズに専念していますから、素直に楽しめる演奏になっています。
ただし、それゆえに物足りないのも事実ですが、まあ、贅沢というもんでしょう。
B-2 Lover Man (1963年7月15日録音)
左右のチャンネルに陣取った両巨匠が魂の掛け合いを聴かせてくれます。
ポール・ブレイのセンスの良いイントロから、まず左チャンネルからコールマン・ホーキンスがグリグリと登場し、続くソニー・ロリンズは右チャンネルで堂々と受けて立ちます。
そういう対決というか、会話が全篇を貫くのですから、これはもうハードバップだとか前衛だとか区分するよりも、ジャズの真髄として楽しんで差し支えないと思います。
またリズム隊が地味に素晴らしく、2人の対決を盛り上げつつも、しっかりと自己主張しているという、それだけ聴いて満足することも……♪
あぁ、本当に素晴らしい演奏です!
B-3 At McKies' (1963年7月18日録音)
これだけがソニー・ロリンズのオリジナルで、曲調はズバリ、作者の十八番「セント・トーマス」の焼き直しですから、快演は約束されたようなものです。
ただし全体が高速4ビートになっているので、快楽的なフレーズは出ません。あくまでも硬派なノリは、ソニー・ロリンズよりも、実はコールマン・ホーキンスに有利に働いてしまったというオチがあります。
実際、ここでのコールマン・ホーキンスは鬼神のアドリブとでも申しましょうか、貫禄と過激さがたっぷりの、押出しの強いものです。
もちろんソニー・ロリンズも負けじと奮闘! 得意技のモールス信号にジョン・コルトレーン風のスケール練習フレーズを混ぜ込んで突進、後半にはドラムスと烈しく対峙して大団円を迎えるのでした♪
ということで、A面は才気が走りすぎたような雰囲気でしたが、B面は文句無く熱く、感動する場面さえあります。
このRCA時代のソニー・ロリンズは、イマイチ評価が低いというか、ジャズファンからは好まれていないようですが、私は好きです。それはジョン・コルトレーンという周囲から神様に祀り上げられようとしていた偉大な個性に対し、烈しい闘志を燃やしつつも、現実にはイジケてしまいそうな天才という、羨ましい存在のソニー・ロリンズに親近感があるからでしょうか……?
少なくとも、1980年代以降のソニー・ロリンズよりは、遥かに聴きたいなります。
あぁ、こうしている間にも、今年が半分、終わってしまいます。
時の流れの速さと残酷さを感じつつ、ジャズで浮世を忘れたいものです。