土曜日に出席したある宴会で、早くも荒川静香ネタが炸裂しました。なぁ~に、パインの輪切りに赤いバンダナ通して金メダル、そのまんま、反りかえってのイナバウア~というだけなんですが、これが早くも流行の兆し! 帰りの電車の中で、つり革につかまってイナバウア~と叫び、エビ反りやっている酔っ払いがいましたです♪
ということで、本日の1枚は――
■In A Mellow Mood / Buddy DeFranco (Verve)
脇にいても自己主張出来るのが、ジャズの良いところ♪ ですからファンはサイドメン目当てにアルバムを買ったりします。
私にとってのこの作品もそうした1枚で、お目当てはソニー・クラーク(p) の参加です。この人はアメリカでは不遇のうちに麻薬中毒で早世していますが、日本ではウルトラ級の人気がある黒人ピアニストで、幸いにもレコーディングもかなり残していますので、集め甲斐があるというものです。
このアルバムはソニー・クラークがまだ西海岸で活動していた時期のもので、メンバーは白人天才クラリネット奏者のバディ・デフランコをリーダーとして、ソニー・クラーク(p)、ジーン・ライト(b)、ボビー・ホワイト(ds) というカルテット編成、つまりワンホーン物のということで、ソニー・クラークのピアノもたっぷりと聴くことが出来ます。ちなみに録音は1954年9月1日で、その内容は――
A-1 The Bright One
景気の良いビバップ曲で、クレジットはドリュー&デフランコとなっていますが、これは例えばジャズ・メッセンジャーズのテーマにも使われている、まあ当時のモダンジャズの世界では定番だったのでしょう、いろいろなタイトルで多くのジャズメンが演奏しているお馴染みのナンバーです。
ここでの演奏はアップテンポの痛快なハードバップになっており、バディ・デフランコは超絶テクニックでクラリネットのチャーリー・パーカーを演じています。実際、物凄いソロとしか言いようがありません! ただ絶句、悶絶するのみです。
そしてソニー・クラークも、こちらの期待を裏切りません。自分のソロパートになると、待ってましたとばかりに水を得た魚状態で躍動します。またデフランコのバックでも執拗なコード弾きをやったりしています。まあ、後年の粘るファンキー節は出ませんが、一抹の哀愁を含んだその早弾きは、バド・パウエル直系でありながら、ちゃんと自分の個性を確立しています。演奏は9分を超えますが、全くダレることのない大名演だと思います。
A-2 Sonny's Idea
タイトルどおり、ソニー・クラーク作のビバップ曲ですが、何気ないようでいてちゃんとクラーク節が出ているのは、後年の作曲の上手さを予感させます。そして演奏は快適なテンポで徹頭徹尾スイングしていくのです。
まずデフランコが低域から高音まで全てを使い切って、絶好調のソロを聞かせてくれます。リズム隊のグルーヴも最高で、特にジーン・ライトのウォーキング・べースは当たり前の凄みを発揮しています。もちろんソニー・クラークは自作曲ということで、完全にツボを掴んだ展開を聴かせますが、実はホレス・シルバーになりかかっている瞬間まであるのは興味深いところです。
A-3 Laura
有名スタンダードをスローで甘く聞かせるデフランコは、やはり最高です。こういう曲調になると、いつものビバップ節よりは、本来の歌心を存分に発揮するのですねぇ。もちろんそれは超絶技巧に支えらているのですが、そういうテクニカルな部分をあまり感じさせない自然な雰囲気が流石です。ちなみにここではソニー・クラークの出番が無いという、デフランコの一人舞台になっています。
A-4 Everything Happens To Me
個人的には大好きなこの曲を、デフランコはスローテンポで優しく吹奏してくれます。それは本当に甘美な夢の世界を現出させてくれるもので、聴いているうちに不覚にも落涙しそうになるという表現は、大袈裟ではありません。ちなみにこの演奏もデフランコの一人舞台で、この雰囲気からしてソニー・クラークのアドリブソロが無いのが残念です。
B-1 I'll Remember April
モダンジャズでは定番のスタンダード曲を定石どおりにラテンリズムも交えて、アップテンポで演奏していますが、全くこの日のデフランコは絶好調で、歯切れ良く鋭いアドリブを展開してくれます。クラリネットという楽器はオクターブ・キーがサックスと異なっているので、猛烈なドライブ感でチャーリー・パーカーのフレーズを吹くのは至難の業なんですが、そういう苦しいところは微塵も見せないデフランコは、真のクラリネット・マスターです!
お目当てのソニー・クラークも快調で、後年得意技になるファンキー節も披露しています。またドラムスのホビー・ホワイトもの堅実ながら、かなりの実力者と思わせる快演♪
B-2 Wellow Weep For Me
これもモダンジャズでは人気曲として、かなり黒いムードが魅力なので、カルテットはそこを目標に熱演しています。当然、ファンキーな雰囲気も漂わせてくれますが、もちろんそこはソニー・クラークの存在がカギとなっています。この粘って歯切れの良いフレーズの妙は、まったくソニー・クラークだけのものですから、ファンにはたまりません♪
またデフランコが、緩いテンポなので下手をするとチンドン屋になりそうなコブシの効いたファンキーなフレーズを、きちんとジャズにしているのは流石です。
B-3 Minor Incident
このエキセントリックなビバップ曲はデフランコのオリジナルということで、とにかく激烈なアドリブが展開されます。バックで煽るソニー・クラークも部分的にセロニアス・モンクになっていますが、ソロでバド・パウエル流正統派ビバップピアノの真髄を聴かせます。そしてそこにファンキー味をたっぷり塗していくのは、言わずもがなのお楽しみです。
B-4 A Foggy Day
ちょっと凝ったアレンジでスタートしますが、サビは安心感いっぱいの展開で、お馴染みのテーマメロディが演奏される仕掛けです。アドリブパートでも、絶妙なブレイクから優しい歌心を発揮するデフランコがやはり素晴らしく、ジャズ・クラリネットの魅力をたっぷり味わえます。しかも力強さや黒っぽいドライブ感までもが、しっかりと感じられるのです。続くソニー・クラークも、ここではファンキー節が強く出ていて最高です。
ということで、これはソニー・クラーク中毒者には激オススメの1枚であると同時に、絶好調時のバディ・デフランコをも堪能出来る、1粒でなんとやらのグリコ盤です。
しかもジャケットが素晴らしく、ご覧のとおりの美女が♪ オリジナル盤は何万円もしますが、幸いにもちょっと前に紙ジャケット仕様でCD復刻され、速攻でゲットしたところ、リマスターされた音質も最高でした。ところがネタ元としてリンクしようと探したら、なんと廃盤になっているようです。しかしご安心下さい。ジャケットに拘らなければ、ソニー・クラークと共演したデフランコのセッションを集大成した2枚組CDが出ています。一応、ジャケ写から繋げておきました。
ちなみにソニー・クラークは当時のバディ・デフランコのバンドではレギュラーとして1956年頃まで活動し、多くのレコーディングも残しています。そして翌年にはニューヨークに進出して、それからの大活躍は皆様ご存知とおりですが、実際にはその実力&レコーディングに比して人気はさっぱりだったとか……。日本での異常人気にはアメリカの関係者も愕いていたと言われていますし、1970年代までの海外のジャズファンは、ソニー・クラークを認知しない人が多かったのです。
このあたりは感性違いなんでしょうが、ソニー・クラークが居たことで、私は日本人に生まれて良かったと思っています。はははっ、大袈裟でした♪
それにしてもこの内容でメロウ云々というアルバムタイトルは???ですねぇ。「A-1」を筆頭に、かなりド迫力の演奏が詰め込まれているんですから、ジャケ写に騙されてしまった当時のリスナーの気持ちは、いかばかりか……。